第8話 ジャック達のダンジョン攻略

 いよいよ新生Sランクパーティとして、初のダンジョン攻略の日がやってきた。


 恐らくは歴史的な一日になるであろう朝。待ち合わせの冒険者ギルド前にやってきた俺は、わざと少々遅れて合流した。


 リーダーたるもの、こうやって待たせることで威厳を見せるつもりだったのだが……。


「悪い悪い、遅れちまったな。っていうか、新人の姿がねえようだが」


 地味かつ大して役にも立たないアホ魔法使いキーファを追い出し、新たに加入させた新人がいねえ。ガリスは戸惑いつつ周囲を見回している。アナは眉をひそめ、小さくため息を漏らしていた。


「あっれぇ? おかしいっすね。ちゃんと伝えておいた筈なんですけど」

「いきなり遅刻とは、どういうお考えなのか問い詰める必要がありますね。ジャック、本当にその方は問題ありませんの?」

「無論だ。俺の観察眼を舐めてもらっちゃ困るぜ。お! 来た来た」


 レイアは可憐な雰囲気をまといつつやって来た。まるでこれからデートにでも行くのかっていうくらい、楽しそうなオーラ全開だ。だが俺の姿を見つけると、ふっと申し訳なさげな困り顔で駆け寄ってきた。


「ごめんなさいー。待たせちゃいました? あたしってば遅刻しちゃったみたい。初日なのにお寝坊しちゃうなんて、バカバカ!」


 自分の頭をポカポカと叩く姿に癒されつつ、俺はリーダーらしく注意をしてやることにした。


「レイア。何があったのか知らないが寝坊はダメだ。俺達ぁ時間にはうるさいからな。これからはしっかり守れよ、いいな?」

「はーい。本当にごめんなさい。あっ、そちらの人は?」

「おっと、まだ紹介してなかったな。こいつはプリーストのアナだ。回復魔法のエキスパートだぜ」


 赤毛のプリーストはちょっとばかり面食らった顔をしていたが、すぐに聖職者らしく優雅なお辞儀をしてみせる。


「アナと申します。以後お見知りおきを」

「わああ! 素敵ー。アナさんってとっても美人なんですね。あたしはレイア! これから、いーっぱい仲良くなりましょうね」


 そう言いつつ、アイドル魔法使いと呼ばれる女子はすぐに握手をして、人懐っこく笑った。両手でアナの手を包んで振るたびに、若干だが大きな胸が揺れているのが分かる。


 た、堪らねえ。こういうのだよ! こういう眼福が欲しかったんだ! 挨拶もそこそこに、俺たちは今回依頼されたダンジョンに向かうため馬車を借りて走らせた。


 ◇


 馬車で進むこと約一日。目的のダンジョンは意外にも近くにあったらしい。森の中を進み続けた先に、細長い塔らしきものがそびえ立っている。


「これがメドロの塔か。アルスターからそう離れてない距離だっつうのに。魔物達も思いきったことをしやがる」

「そうっすねえ。まさかこんな近場にダンジョンを作るなんて」

「早く中に入るべきではありません?」

「ねえねえ、ダンジョンを作るってどういうこと?」


 おやおや。類まれな魔法の天才レイアといえど、まだまだ知識はひよっこのようだ。


「ダンジョンには大きく分けて二種類あってな。元々存在していた建物に魔物が住み着いてしまったパターンと、魔物達が自分で作り上げてしまうパターンが存在する。これは後者ってわけだ」

「すごーい! 魔物って自分でダンジョンが作れちゃうのね。でもぉ、そんなにすぐ出来ちゃうの?」

「ああ。奴らは短期間にイカれた空間を作り出す魔道具を持ってるのさ。ま、その辺は実際に見るほうが早いだろ。じゃあ行くぜ」

「ジャックさんカッコいいっ」


 背中に黄色い声援が刺さってる。こりゃたまんねえぜ!


 俺は確実に求めていたパーティを築きつつあることを実感していたが、喜びに浸っている場合ではなかった。どうやら同業者がおいでなすったようだ。


 数は俺たちと同じで四人、むさ苦しい男ばかりの連中だったし、地図をチラチラと確認しているあの様子では、恐らくはまだルーキーに毛が生えたような奴らに違いない。どっかで見た魔法使いみたいな田舎くさい奴らが四人、ああだこうだとくっちゃべりながらやってきて、俺たちをみて足を止めた。


「お、おいおい。あの人達、剣士ジャック一行じゃね?」

「ホントだ! まさかこの塔を攻略しに来たのかな」

「他に理由ないだろ。あれがSランクの冒険者かぁ。挨拶してこようぜ」


 こそこそと喋ってはいるが、微かに聞こえちゃってるぞ。こういう時にこそ格の違いを見せてやらなくては。俺は塔を仰ぎ見ながら、連中に気がつかないふりをしていた。


「あ、あのー。こんにちは。もしかして、剣士ジャックさんご一行ですか」

「ん? ああ、そうだ。お前らも冒険者か」

「はい! この前Dランクに上がったばっかりなんです。Sランクのパーティにお会いできるなんて、めちゃくちゃ光栄です!」

「ははは。お前らだって活躍次第ではすぐになれるさ」


 そんなわけねえけどな。大抵の野郎どもじゃ一生かかっても這い上がれないくらい、Sランクっていうのは壁が高い。一度上がっちゃえばそうそう落ちることはないがな。


「ありがとうございます! 頑張ります。じゃ、じゃあお先に失礼します。よし! お前ら、行こうぜ」


 本来こういう場所で出会ったら、手柄を取られまいと我先にダンジョンに入っていくものだ。悠長に挨拶するあたり、競争世界ってことを自覚してないらしい。ちなみに先に進むことを俺が許したのは、まあ格上としての余裕といったところだ。


「ジャックさん素敵。なんていうか、大物って感じです」

「まあ、Sランクに上がりましたし。このくらいは堂々としなくてはいけません。情けない姿を見せれば失笑ものですわ」


 レイアが興奮気味に称え、アンが遠回しに俺を認める。これは二人ともそろそろ俺に惚れちゃってもおかしくないかも、などと内心鼻の下が伸びてしまった。全く、ダンジョンに挑む前だってのに浮かれ過ぎたな。


「へっ! そんなことねえって。それに、俺達はこれからもっとビッグになる。さあ、そろそろ始めようぜ」


 俺はリーダーらしく、先頭で真っ黄色の塔へと足を踏み入れていく。隊列的には俺、ガリス、アナ、レイアの順番になってる。


 一階の迷路みたいなフロアを歩くこと数分、どうやら敵さんがお出ましになったらしい。俺は腰に刺した剣を引き抜き、周囲を油断なく監視する。


「旦那! ブラックスライムやハイゴブリンがいるみたいです」

「あら。身の程知らずもいたものですわね」


 どうやら突き当たりを曲がったところで、スライムとゴブリンの上位種が待ち構えていた。二匹ずつ雁首を揃えている。ガリスとアナはすでに臨戦態勢だったが、レイアは反応が遅い。まあルーキーだからな、しょうがないだろ。


 しかし、どうやらここは俺達Sランクパーティにとって、わりかし楽勝な場所だったようだ。


 何度も軽く蹴散らしてきた連中だし、一つレイアに未来の英雄として良いところを見せてやるとしよう。

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