第9話

ガラガラガラッ、キイィッ


「おほぉーい、テリアちゃん、着いたよー」

ガボッズルルルッ

「……………」


停車した馬車の上、突然メルたんがボクをバッグから引きずり出し高々とぶら下げた。

ブラブラと干された状態で恨めしそうに彼女を流し目するボク。


そりゃあ、そうだ。

実はダンジョンへの同行を聞かれ、当然ながら全否定したボク。

でもメルたんは、不同意のボクを有無を云わさず無理やり空間収納バッグに詰め込んだ。

訳の分からないまま、真っ暗なバッグの中で過ごし、たった今開放されましたとさ……おこ


おかしい。

空間収納バッグは、生き物の収納が出来ない筈なのに………。


「ちょっとぅ、テリアちゃん。バッグの中、変な臭いがするんだけどぉ?」

「何時間、バッグにと、と、閉じ込めたと思って、て、てるんですかあ?!」


「え?たったの48時間だよぅ?」

「鬼!!」


約2日も真っ暗なバッグに閉じ込められ、飲まず食わずでトイレ無し。

おのずとどうなるか、分かるよね!?


「アンモニア臭いよぉ。このバッグ、もう使えないかなぁ」

「アンタのせいじゃん!お腹も減ったし着替えたい。って、さっきから寒いんだけど、ここ何処!??」



ビョウオオ━━━━━━━━━━━ッ


な、何だ、ここ?

荒涼とした大地に、遠方に見えるのは雪を被ったエベレストみたいな尖った山脈。

一体、ボクは何処に連れて来られたの!?



「ここは遥かなる辺境の地、チバラキ。チバラキ族の故郷だよぅ」

「チバラキ族?」


「チバラキ族はねぇ、紫色の絨毯じゅうたんを敷く民族なんだよぅ」

「紫色の絨毯じゅうたんを敷く民族?」


「でもぉ、それ以外は普通の人間達だよぅ」



まあその程度のは可愛い方だよ。

最近のボクの回りは、変な人間が多すぎだもの。


「それでぇ、目指すダンジョンはアレなんだけどぉ」

「え!?」


メルたんが指差した先、荒涼とした荒れ地に立つ不自然な先進的タワー?

って、あれは!?


「あ、あれって??!」

「そうだよぅ。アレが此処のダンジョン。ミナトクシバコウエン塔だよぉ」


赤くて鉄骨が組まれたタワー。

なだらかな全体を支える底面の湾曲。

一見、無骨に見えて計算されつくしたその均整のとれた全景。

333メートルくらいの高さ。


どう見ても東京タワーでしょ!

何でここに東京タワーがあるわけ?


「とにかく、ダンジョンのふもとにチバラキ族の村があるから、今夜はそこで一泊だよぅ。ところでテリアちゃん、近寄らないでくれる?臭いから」

「うう、何て理不尽なんだ?!早く着替えたいぃ!」





「あんれ、遠路遥々ようお出でなさった。お疲れでしょう。どうぞ中でお休み下さいな」


村の入り口、村長の爺さんがニコニコしながら出迎えた。

向かったチバラキ族の村はごく普通の村で、住んでいる村人も温厚そうな人々だった。


はあ、良かった。

この世界、まだまともな人間に出会えてないから身構えていたよ。

うう、寒。

早く着替えたい。

ボクは自身を抱きながら、メルたんの後ろに付いて村の宿の玄関に足を入れた。



「おい、お前ら!靴のまま絨毯じゅうたんに乗るんじゃねぇ!」


突然の罵声、振り返ると先ほどまでニコニコと案内していた村長の爺さんが真っ赤な顔で怒っていた。

仁王みたいじゃん!?

な、何で?


「何、アタシ達、何かしたのぉ?」

「あわわわ、怖?!」


メルたんの後ろに隠れ、成り行きを見守るボク。

果たして、爺さんは何で怒ってるの?



「おメェら、コレが目にはいらぬかぁ!」


何と、爺さんが指し示した玄関口にあるものは、【土禁】と書かれた立て札が!?



「はぁ?これ、何て書かれてるんだぁ?」

「え、えーと、土禁どきんって書いてありますね……」


「分かったか!この紫の絨毯じゅうたんの上は土禁どきんじゃ。靴は玄関で脱いで上がるのじゃ」


ふえーっ、土禁どきんって日本の家屋みたいだ。

ボクは違和感ないけど、メルたんは大丈夫かな?


「そうなんだぁ。なら、仕方ないねぇ。でも面白い風習なんだねぇ。ドキンちゃんかぁ」


メルたんは、うん、うん、頷いて靴を玄関に脱いでいったよ。

あ、ボクも続かないと!


でも何でも【ちゃん】付けはメルたんの癖かな?何か変な感じだな。

ドキンちゃん、なんて、何か前世のアニメに出ていたような……ま、どうでもいいけど。



「おーい、お客さま、二名様じゃ!」

「「「はーい」」」


ボクらが靴を脱いで絨毯じゅうたんに上がると、爺さんはいつの間にかニコニコになっていた。

そして奥に声をかけると、和服を着た女中さん達が現れ、荷物のバッグを持って手際よくボクらを案内していく。

本当に手際いいな?!



「此方、松の間で御座います。どうぞ、おくつろぎ下さい」


案内された部屋は、完全に和風の部屋。

縁側があって、端には箱物のテレビ?しかも横にコインを入れる所が???

おい、温泉旅館かよ?


「ここ、お風呂有るってぇ。アタシ、ちょっと見てくるねぇ」


メルたんは、部屋の案内の途中で、そのまま他の女中に付いて行っちゃった。

はあ、真っ先にボクが入りたいけど、取り敢えず部屋で一休みしたい。

もしかしたら、お茶請けがあるかも知れないからね。

はあぁ、ヤバい。

お腹と背中がくっ付きそうだよ。



「あら?クスクス」


何だ?バッグを運んでいた女中が鼻を摘まんでクスクス笑い?

ま、まさか


「お客様、この部屋の御トイレは縁側の横にあります。クスクス、粗そうには気をつけて下さいね。お嬢ちゃん」



「…………………」

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