第8話
「ごめんよぅ、可愛い子ちゃん。苦しかったよね?」
「……………ふうっ」
メルたん、から離れ、何とか立ち上がる。
このところ、押し潰されてばかりで息も絶え絶え、何処かに安全なところはないものか。
すると、メルたんが背後から抱きしめてきた。いや!?羽交い締めかい!
「ぎゃああ、もう、勘弁して下さい!」
「くん、くん、くん、この子、やっぱ、いい匂いがする。手放せないわぁ。リッキーちゃん、幾らなら売ってくれるの?」
「勝手に売買しないで下さい!?」
「そうだなぁ。役立たずだから、ママゾンポイント500かな」
「こっちにもママゾンがあるの?!しかも安!!」
「それは高いかなぁ。もう少し安くならない?」
「そこから更に値切られるって、ボクの価値って一体??」
ぐわああ、訳もわからず二束三文で転売の危機だよ。
って、そんな安く売るな━━━っ!
「フッ冗談だ。一応、仮差し押さえ中だからな。勝手な転売は出来ん」
リッキー女子、いたずらっ子みたいにニヤリと笑うと、メルたんに言った。
あの、ボク、オモチャにされてます?
「え━━━っ、安く買えたから、メリメリに出展しようと思ったのにぃ!」
アンタ、更に転売かい!
しかも手にカメラ持って、出展意欲満々なんですが!
「アタシも冗談。こんないい匂いの子、転売なんてしないわよぅ」
「信用ならない?!」
ヤバい。
これ以上ここに留まるのは危険だ。
少なくとも、このウサギ獣人には近寄ってはいけないとボクの本能が言っている!
「それにしてもリッキーちゃん、この子、何でこんなに良い匂いがするの?」
「流石だな。メルブレッド▪ラナエルブラナテイル。お前は、そう感じるのか」
何?何?何?何の話なの?
ボクって、洗剤か何かなの?
「コイツの魔力はかなり珍しくて面白い。だから連れてきたんだ」
「へぇ。リッキーちゃんが言うならそうなんだねぇ」
ボクの魔力が珍しくて面白い?
珍獣扱い?
泣いていい?
「いいか。魔力の性質は人により違う。通常の魔力持ちは使える属性が一つだ。基本属性は四大属性と呼ばれる火、風、水、土の四つ。他に稀だが光と闇を使える者もいる。だがコイツは全属性。千年に一人の、全ての属性を持っているんだ」
え?
それって、珍しい事なの?
もしかしてチート?
まあ、いいや。
二人が話に夢中になっているうちに逃げ出そう。
二人のやり取り中に気配を消して少しづつ出口に向かっていたボク。
背後に回り、あと少しで出口に到達見込みだったけど、気付いたらメルたんに抱っこされていた!?
相変わらず見下す視線を変えないリッキー女子が、キラリとその目を光らせる。
ええーっ?!
今、何が起きたの??
「だめだよぅ可愛い子。外は危険なんだらぁ」
「ふえぇ!?」
「止めておけ。その格好で外にでたら変態ロリコンおたくが群がるぞ。私は構わないが近所迷惑だ」
「変態ロリコンおたくが群がるほど居るの?しかも近所迷惑程度な話?!」
何なのこの町は。
ロリコンオタクの町なの?
外は地獄じゃん!
「リッキーちゃん。そういえば、この子の名前、聞いてないよぉ」
ばぶっ?
ゆらゆらと赤ちゃん抱っこされて、オシャブリ突っ込まれた?!
「単なる差し押さえ物件だ。名前なんか有るわけなかろう」
物件扱い!?
ボク、人じゃないの?
「ねぇ、可愛いの。名前教えて?」
「ばぶっ!」
オシャブリ押し込んどいて、喋れる訳ないから?!
ぷっ、スーハー、スーハー、スーハー
オシャブリ吹き飛ばして深呼吸するボク。
大きく口を開けて声を上げた。
「ボクの名前はテリア、に、人間です!」
「おおーっ、可愛いの、元気だなぁ」
「活きがいい。何かに使えるかも知れん」
「物件から魚か何かに格上げ!?」
それにしても、二人とも明らかに只者じゃない。
しかも小説にはまったく出てこないキャラクター、一体何者なの?
「それでぇ、新しい依頼なんだけど、そろそろ返事くれない?リッキーちゃん」
「他に出来る人間が居るだろう。私が今、忙しいのは知っているはずだ」
「知ってるけどぉ。多分、攻略出来るの、リッキーちゃんくらいだよう。だって、魔法使いが居ないと無理だもん」
一体、何の話?
攻略って、ゲームか何かなの?
「………無理だな。今、手掛けている件を放り出す訳にはいかん」
「じゃ、じゃあ、ルーラちゃんは?あの子の治療、上手くいったんじゃないのぉ」
ルーラ師匠?
治療って???
「駄目だな。呪いの進行を一時的に解除出来るようになったが、あくまで一時的。今のままでは使い物にならん」
「かと言って、他に魔法使いは居ないよぉ。このままだと封印が解けちゃう」
封印?
本当に何の話をしてるの??
「………居るじゃないか。魔法使い。それも稀な全属性が」
「あ、そうかあ!」
「え?」
二人の一斉の視線の先に居たのは……ボク?
何、何なの?!
メルたんがボクを再び羽交い締めした。
ぐわああ、どういう事?
「ぐええっ!?」
「ねぇ、君。ダンジョン攻略に興味ない?」
「ダ、ダンジョン?ダンジョンなんて有るんですか?」
「そうだよぅ。ダンジョンは有るよぉ。世界三大珍味の一つ、アレ?」
「それ、キャビアです………」
大丈夫かな、この人?
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