第7話

そうして掃除を始めて3時間。


「おお、床が見える。ボクはついにやったぞ━━━っ!」


ごみ袋、123個分。

アパートのゴミ置場を往復する事、数十回。

ついに、ついにボクは床を掘り出す事に成功した。

いや、どんだけゴミを溜め込んだのさ?!

とんだゴミ屋敷なんだけど。

アパートの住人にひそひそ話をされる中、恥ずかしいスク水でゴミ置き場とリッキー女子の部屋を往復すること1時間あまり。

唯一のラッキーは、汗だくでもスク水だから気にならない事くらい。

ムガーッ、もう恥ずかしくなんかないぞっ!


そもそも、ゴミ掃除なんて魔法が使えても全くの無力だ。

誰か、ボクを褒めて欲しい。


「だ、だけど、登山ならやっと六合目、まだまだ先は長い………」


取り敢えずゴミとの分別が完了。

だけど辺りに散らかるのは、リッキー女子の衣類関係だ。

いったいボクにどうしろと!?


震える手で取ったソレは、明らかに脱ぎ捨てられたパ、パ、パンティー!

ふええっ、この人、何をしたらこんなにオープンになれるわけ?

忙しいのは判るけど、あまりに怠惰過ぎだよね。

それにやたらにカラフルで、赤やピンクは当たり前で黒、白、水色、緑まである。


「しかし、どう見ても有名ブランドのランジェリー。これなんか、ペラダのランジェリーじゃん!?初めて見た!」


いや、こんな高級アパートに住んでるから、其なりに稼ぎがあるんだと思ってたけど……


「女神のブラシリーズまである……いや、なんカップよ、これ?!」


7色揃うブラジャーは、なんとどれもDカップ以上、いやFか?

あの人、ビシッとしたビジネススーツを着てたから分からなかったけど、胸は結構あるんだわぁ。

日差しにかざしてマジマジ見るボク。

自身と比べでタメ息をついた。

まだまだ、お子ちゃまだなーっと。


ガラッ「えっ!?」


ドサドサドサドサドサドサッ

「どわああああ━━━━━っ!!」


突然の山崩れ…うぐぐぐっ、ゴミと分別する為に積み上げたソレ下着が仇となったか……ヤバい?!重みで意識が飛ぶ?

うええっ、こんなところで穿き捨てられたパンティーに埋もれて死ぬなんて、死んでも死にきれないよう!

リッキーさーん!!誰か、誰か居ないの?!

ふええっ、ヤバッ、まじに意識があ…………

…………

……





「………」


「………でさ………の」



な……んだ。

何か、声が……聞こえる?




「ちょっとリッキー、部屋汚し過ぎ。一応、容姿いいんだからあ、少しは掃除しなよぅ」


「だったら依頼を減らしてくれ。コッチだって他にもビジネス抱えてるんだ。身体が幾つあっても足らん」

「だけど限度ってもんがあるじゃん。そもそも何で毎日、ココアパートに戻ってくるわけぇ?前は普通に野宿でも何でもしてたじゃん」


ここアパートは落ち着くからな。ビジネス的にも都合がいいんだ」

「だったらちゃんと掃除しなよぅ。そんなんじゃ、いつまでたっても貰い手ないよぅ」


「余計なお世話だ。お前だって同じだろう?」

「アタシは最初からソーいうの、無いからあ。でも、可愛いのは好きかなぁ?」



だ、誰か?

ゆっくりと意識が戻ってくる。

薄く目を開けるとそこは?


「ぶはぁ!パンティの海?!」


「お?可愛いの、起きたかな」

「か、可愛いの?」


目を開けると覗き込む二つの影。

一人は、役立たずを冷ややかな目で見下ろすリッキー女子。

もう一人は……?


「あ、アナタは?」

「ヤッホー、アタシはメルたんだよ。メルって呼んでーっ」


「止めろ。メルブレッド▪ラナエルブラナテイル。貴様のその呼び方は俗称過ぎる」

「あーっ、その名前で呼ばない約束なのにぃ!」


目の前にいたのは、頭から2本のウサギ耳をつけたバニーガール?!じゃなくて、黒レオタードタイツ姿の白髪ウサギ獣人の女の子。

何か本名はとんでもなく長くて、リッキー女子に親しい間柄の方?


「ありゃあ、この子、かっわいい。アタシにちょうだい」

「ぶえっ!?」


ホッペすりすり、何かウブ毛がくすぐったい。

ウサギ獣人なんて初めてだ。

そういや村から出たこと無かったよ。

魔法使い村は極めて閉鎖的だったからしょうがないけど。

やっぱりファンタジーは獣人とエルフでしょ。

いや、師匠のアレは断じて違うよ!


「バカな事をいうな。コイツは悪徳滞納者から差し押さえた金づるだ。勝手に持っていかれては困る」

「えーっ、こんな可愛い生き物、アタシも欲しいわあ」


あわわわっ、メルたんの胸に顔を押し付けられて抱き枕状態!

ボリューム満点のボインに息が出来ないボクですが?

役得?いやいや、殺人級のボインでしょ!って、また意識が遠のいていくよう。

それじゃあ皆様、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ……


「おい、また死にかけてるぞ」

「あ、やっちゃった?まずいなぁ」


「ぶはあっ!?ごほっごほっごほっ、うぐっ、死ぬかと思った!」


リッキー女子の言葉に、ボクが窒息してる事をやっと気づいたメルたん。

ご褒美?じゃなく、ボインからボクを離してくれたので助かった。


こうして危うく窒息を免れたボク。


まさにボクはたった今、ウサギボインから解放されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る