第6話

いやいやいや、あれ、完全に腹から偏屈ハバアが生えてるでしょ?!

しかも宿主となってる師匠の美人エルフ本体は、海老反りからのブリッジ状態で白目向いて意識がない。

そんで、ブリッジエルフを脚代わりに操って、エルフ腹から上半身出したハバアがレーザーブレードを受けかわすって、どうゆう絵面なの?

見た目が怖過ぎるでしょ!




ガキンッ、ガンッ、ガガンッ



「相変わらず、完全に妖怪だな!」


「げへっげへっげへっ、何か用かい?」



ビョウウ━━━━━━━━━━━━━━ッ



「わ!?いきなりのブリザード?新手の魔法か?!」

「でゅふ、でゅふ、でゅふ、これは、あまりに下らなくて『場を凍らせる』って言うんだな」


「え?さ、寒い、寒いよ!?」


な、何なの。

急に師匠とリッキーさんの間にブリザードが吹いて辺り一面、雪景色になってるんだけど!

しかもボク、現在スク水なんだけど?

めちゃくちゃ寒いんだけど?

オタッキー達、氷柱や蔵王のスノーモンスターになってるんだけど?



「って、このままだと凍死する!?二人とも戦わないでよ、はた迷惑この上ないよ!」




「はあ?」ギロッ


「ああ??」ギンッ



ヤバ━━い、今のが聞こえちゃったのか、二人がフリーズして僕を同時に睨んでる。

このままだと僕は、凍死する前に八つ裂きにされるの?!

そんのは嫌だぁ、おら、都会さ行ってベコ買うだあ、じゃなくて逃げないと!


「は、早く逃げな!?」

「なんだぁ、このチンチクリンは?」

「コイツはワシの金ヅルじゃぞい!」


一瞬だった。

ボクが逃げようとしたら二人に覗き込まれ、さらにリッキー女子にスク水を引っ張り上げられていた。

ぎゃあああ、スク水がオマタに食い込んでトンデモV字型になってるんですが?!

しかも師匠は偏屈ハバア憑依状態のまま。

腰下のブリッジ白目エルフが不気味過ぎるんですが。

て、おい、あの変態ロリコンフィギュアニストが居ないじゃん?

この二人の一瞬の動きより早いって、本当に何者なの!?


「ふげ?!」

「ああ、じゃあ、お前の持ち物って事でいいか?」

「そうじゃ、ワシの財産の一つじゃの。こやつには燃えた家の借金があるからぞい」


「じゃあ、コイツは差し押さえだ。それで今回は家賃を待ってやる」

「仕方ないの。ソレで家賃、何ヵ月分になるかぞい?」

「え?」


「何ヵ月分?馬鹿な事をいうな。家賃の取り立てを待ってやるだけだ」

「仕方ないぞい。それで手を打つじゃぞい」

「え、ええーっ!?」



ボ、ボク、リッキーさんに売られちゃうの?

いったい、どうなっちゃうの━━━っ!






━━━━━━━数時間後━━━━━━━━━


あっさりと師匠に、家賃のカタとしてリッキーさんに売られたボク。


現在、リッキーさん宅の前に立っている。

リッキーさん宅は、あの師匠のキャバレーからホウキに乗って一時間。

なんか商業都市ラグーンっていう比較的大きな都市の街中にあった。


「ここが私の家だ。さっそく今日から色々頼む」

「え、今日から頼むって?」


訳も分からずリッキー女子についていく。

リッキー女子の住まいは、いわゆるアパートマン。

一棟、三十世帯が住む、三階建てのアパートだ。


バタンッぽいっ

「わっ!?」ドサッ


ドアを開けると、いきなり中に放り込まれたボク。

うわああ、な、何だここ!?

あちこちに袋積みされたゴミ袋。

山のように積まれたガラクタの山。

そして、無造作に置かれている散乱した下着類。

こ、ここはまさにゴミ屋敷じゃん?!



「こ、ここは?」


「お前に最初に頼みたいのは、ここの掃除だ。うまく片付けてくれると助かる」

「いやいや汚し過ぎでしょう?!どこをどうしたら、ここまで散らかせるんです?」


「仕方ない、日頃は忙しくてな。ここには寝るだけに帰ってくるだけ。何とか片付けてくれると助かる」



ボクの言葉にリッキー女子は苦笑した。

うわああ、この人、美人だけど残念美人と言われるタイプじゃん。

ダメダメな人だ。


でもこの人、さっき物凄い魔法を使ってたよね?

ここに来るのにホウキで空を飛んできたし、師匠並みか同等の魔法使いだよね。

おまけに剣術もかなりの使い手。


でもおかしい。

小説オルデアン戦記には、魔法使いはボクの魔法村の一族とボク、それと師匠しか出て来なかった筈。

けれど彼女の魔法力は相当なもの。

それにステイタス欄にあった種族は確か魔神族。


え、魔神族ってまったく小説に出てないよ?

どうなってるの?

やっぱりこの世界は、あの小説に似てるだけでまったく関係がない現実世界なのかも。

だったら戦争も起きないし、ボクが戦わない未来もあるのかな。

だったらいいなぁ。


「考え事をしているところ悪いが後を頼む。私はこれから仕事に向かわねばならぬのでな」

「ふぇっ、は、はい。仕事?」


「夜には帰ってくる。それではな」バタンッ


リッキー女子は、銀のスーツケースを手にとり、コートを着てドアから出て行ってしまった。

なんか、大企業に勤めるビジネスウーマンみたいでカッコいい感じ。


あれ?三角メガネはしてなかったよね。

もしかしたら三角メガネって、師匠と会う為の変装?

威圧をかける為にしてたとか?


「ふう、ま、どうでもいいか。ボクの当面の課題はこの目の前のゴミ山だし……」



さあて、何処から手を付ければいいのか。

天井を仰ぎ、途方に暮れるボクだった。

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