第2話

取り敢えず、小説の中にいる事は分かる。


当面カイルとは、関わりを持たなくていいはずだし、戦争中だけどガルダ帝国の大攻勢が始まるのは三年先だよな?


あ、そうか。

今のボクは魔力循環出来ないから、魔法が使えないんだ。

という事は、ただのか弱い小娘なんだよな。

あれ?じゃあ師匠とはどうやって会うんだろ?

それに、この谷の抜け方が分からない。

小説には、この時期のテリアの事は、あまり書いてなかったんだよな。

さて、どーすっかな?


「そもそも、ボクは魔法使いの筈だけど、ドーヤって魔法を使えばいいんだ?あ、魔力循環が今は出来なかったんだっけ。あれ?でもさ、あれってテリアが、村を襲われたせいで、トラウマで魔力循環出来ないんだよな?けど、意識がボクになって、そーゆーの、実感無いんだけど」


まさかねぇ、ボクは人差し指を立てて、正面の岩に向けた。

「魔法ゆーたら、ファイアーボールだよな。ファイアーボール!なんちって」


その途端だった。

ボクの右手、人差し指の先に、デカイ火の玉が出来たと思ったら、それが回転しながら飛んでいく。


ボワアアアンッ、ゴウオオッ、ガガーンッ


「…………」


出来ちゃったよ、おい?!

というか岩が消し飛んだんですが?

本当にファイアーボールだったのかよ、威力、有りすぎじゃね!?


「ヤバい。ボク、人間兵器じゃん!?」


えーっ、こりゃ、確かに第二の魔王を疑われても可笑しくないよ。

いや、統治者からしたら、絶対の脅威だ。

ボクはやっぱり、殺されるだろ!


「こりゃ、この力は封印だな。誰かに見られたらヤバい!」

「見たぞい!」


「は??」

「見たぞい、自然破壊は楽しいかぞい?」


「どわああああ!」


突然ボクの後ろに、懐中電灯で自身の顔を照らした、シワシワの耳が長い老婆が現れた!?



「だ、誰だ!?」

「誰だじゃと?わしを知らぬとは、さてはお主、モグリじゃなぞい」



シワシワの耳の長いちっちゃい老婆……まさかヨー○?いや、それはパクリじゃん!

ディズニーに怒られるよ。


耳長ならエルフだよな?

エルフで老婆って、あああ?!


「ルーラ師匠!!」

「誰が師匠じゃ、このバカたれ!」


ピコンッ「あ痛?!」

「こんな鼻垂れ小娘、弟子にした覚えはないぞい」


うう、何故かピコピコハンマーで頭を叩かれたよ。

でも、なんて事だ。

こんな所でルーラ▪マジックマスター師匠に会うなんて、まさに小説の通りだよ!


けど小説の中の師匠は最初は老婆に変装してるんだけど、後で正体を明かすと神々しいオーラを放つ、超絶美人のおババァに変わるんだよね。

なんだけどこの人、どう見ても凄いボロボロの小汚ないローブを着た、ただの偏屈バーサン!?


ピコッ「あ、痛!」

「誰が偏屈バーサンお前の母ちゃんデベソじゃぞい!」


「いや、言ってないし?!」

「顔に書いてあるじゃろがぞい!」


ピコッ「痛、顔に!?」

「バカたれ、そんなんお見通しじゃぞい!」


どひゃああ、なんて偏屈なんだ。

この人が本当に、かつてオルデアン宮廷魔術師として名を馳せた、ルーラ▪マジックマスターなの?


「とにかくじゃ、お前さんが焼いたワシの家の代わりに働いて貰うじゃぞい!」

「家?」


「あれが見えんかぞい!」


あれ?あれって、アソコで盛大にキャンプファイアしてマイムマイム踊ってる雪ウサギがいるだけだけど?


「雪ウサギがマイムマイム踊ってるよ!?ピコッ痛い、ピコッ痛い、止めて」

「バカモーン、あの真ん中で焼けているのがワシの家なんじゃぞい!」


なんですと?

あの、キャンプファイア式に組み上がって燃えてるのが家?!

だとしても………


「すでに雪ウサギが焼き芋を焼き上げたみたいだし、手遅れっ、ピコッ痛い!?」

「こん鼻垂れ小娘が、何が手遅れじゃぞい。全部、お前のせいだぞい!責任を取るだぞい!」


「せ、責任!?」

「今日からワシの介護は一任ぞい。年寄りは労らなきゃ駄目ぞい」


「か、介護!?な、何でボクが?」

「うるさいぞい。さっさと、おんぶするぞい!」


「は、はい」


はちゃあ、大変な事になっちゃった。

隠とんして悠々自適計画が、偏屈バーサン介護計画に変わっちゃったよ、はぁ。


「ピコッ痛っ、何で!?」

「また、顔に書いてあるぞい!」


しかも、めちゃくちゃ疑り深い!?

これが小説の師匠との出会いだったの?

こんなのないよーっ!!


こうして、なし崩しに師匠の介護師にさせられたボクは、師匠が持つセカンドハウスに向かわされたのだった。



◆◇◆



がさっ


「え、ここが師匠のセカンドハウス?」

「そうじゃ、立派じゃろだぞい」


師匠をおんぶしたボクは、野を越え山を越え、数時間後、師匠のセカンドハウスに到着した。

ちょっと!ボクが魔法使えなかったら、とっくにヘバッて、魔物の餌食になってるんだけど!?



でも、師匠のセカンドハウスはトンデモハウスだった。


「アバンギャルドなキャバレー???」


ちょっと待ってよ!

このきらびやかなネオンと、あきらかに何故か大陸公用語で書かれた『アバンギャルドなキャバレー▪ルーラ』の文字!?


「あ、あの、師匠?」

「ここが今日からお前の職場じゃぞい。ワシの自宅の再建の為、お前には頑張って働いてもらうぞい!」


「ぼ、ボク、接客業は無理です……」

「身体でも構わんが?その乳臭い子供ボディーでも、欲しがる変態はおるぞい?たしか、ロリコンというのじゃろ?」



ぎゃあああ!?

ボクはいつの間にか、師匠の家を再建の為、キャバレーに売り飛ばされたのでした。


そんなバナナ???

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