第1話

小説オルデアン戦記。

オルデアン王国の、戦いを描いた作品である。


物語の流れは、単純だ。


悪の国家、ガルダ帝国。

富国強兵の国で、ヒトより力が強くて大きく、頭に角のあるオーガ族が支配する国。

その国の王が魔王を名乗り、長年の休戦協定を無視して、ヒト族の国に攻めて来るのだ。


ガルダ王は純粋悪で、ヒト族の奴隷化が目的だった。

そしてヒト族の守りの要が、帝国と国境を接していたオルデアン王国。

この国は過去、数度のガルダ帝国の進攻により、疲弊仕切っていた。

次に大規模な進攻があれば、一溜りもない。


だが、負けると判っていても引く事が出来ないオルデアン王国軍は、戦線を支えた若き英雄であり、最後の王族となったオルデアン王こと、カイル二世を要し、最後の決戦に出るのだ。


ヒト族側に唯一の勝機があるとすれば、オーガ族に使えない魔法を使える事。

だが物理的に、戦力になりうる魔法を使えるヒト族は僅かしかいない。


そんな時、カイル二世が幼少の頃に交流のあった魔法に長けた一族の魔女の村が、休戦協定を無視したガルダ帝国軍に襲われ、全滅した。


ガルダ帝国は魔法を危険視していて、最初から戦いを仕掛ける前に、その憂いを消し去る戦法に出たのだ。


カイル二世は、その村に将来を約束した少女、トリアがいたのだが、戦乱の中、安否を確認する事はかなわなかった。


そうして悲しみに暮れるカイルの前に、仮面の女性が現れる。

彼女は、強力な魔法を使う事が出来た。

やがて軍の前線で強大な魔法を振るい、ガルダ帝国に打撃を与え、軍の最大戦力となっていく。


そしてガルダ帝国軍との決戦の日、その魔法力で、ガルダ帝国軍を戦線崩壊に導き、ついには、ヒト族側の完全勝利となるのだった。


そして彼女はヒト族の英雄として、祭り上げられ、世界のヒト族の王族から求婚される事になる。

カイル二世はそんな彼女に、かつて将来を誓い合った少女に重ねて、心を奪われていくのだった。


だが、そんな時、彼女の力を恐れた施政者達は、彼女が第二の魔王になるのではないかと恐れ、ある陰謀を巡らせる。


カイル二世に、心寄せていた公爵家の娘をけしかけ、仮面の女性に対し、嫉妬心を抱かせるように仕向けた。

これは見事に成功し、嫉妬心に狂った公爵令嬢に、背後から剣で刺された仮面の女性は、カイル二世の目の前で、王城の二階から落下する事になる。


直ぐに彼女の元に辿り着いたカイル二世は、仮面が取れた彼女の素顔を見て、愕然とする。


仮面の女性は、かつて将来を誓い合ったトリアだったのだ。


トリアは、魔女の村がガルダ帝国に襲われた時、頭を打って記憶をなくしていたのだ。


そして記憶喪失でさ迷っていた時、魔法の師匠になるルーラ▪マジックマスターに、出会う事になる。

ルーラはトリアに強大な魔力と、魔法の才能を見いだし、弟子として鍛える事にした。


だが、魔法を教えている時に、トリアがガルダ帝国に村を襲撃されたトラウマのせいで、魔力循環が出来ない体質になっている事が判る。

魔力循環出来なければ、まともに魔法を行使する事が出来ない。


ルーラは、トリアの魔力循環を補う魔道具を開発し、トリアに渡す事にした。

それが仮面であり、トリアは仮面を付けていれば、自由に魔法を行使できるようになるのだ。

そして3年余りの修行の結果、最強魔法を使える魔法使いとして、デビューする事になる。



そんな彼女は、二階から落ちた拍子に、記憶の全てを取り戻したが、瀕死の重傷だった。

すぐに医師の診察を受けたが、彼女は目を覚まさず、予断を許さぬ状態が続く。


カイル二世は、神にトリアの復調を願い、目覚める事を祈った。


そして奇跡がおき、彼女の目が開かれ、二人は遂に邂逅する事になる。


そして愛を確かめあった二人は結婚し、沢山の子供達に囲まれ、仲睦まじく、いつまでも幸せに暮らす事で、物語は終わる事になる。



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はい、という分けで前世を思い出したボク。



この暗い谷底で思い出してから、今日で3日目。


随分悩んだが、ようやく冷静になりました。

この川面に見える自分の姿には、未だに慣れませんが。



ええと、小説オルデアン戦記の通りなら、ボクの名前は、トリア。


現在、13歳。

えーと、外見は、碧眼、腰下まである銀髪。

透き通るような白い肌。

背丈は、145cmくらいで容姿端麗。

自分で言うのもなんだが、美少女だよ!!

昔のボクなら、神々しくで近寄れなかったよ。


あとは聞くな。

まだまだ、成長期だよ。


ふう。

これが自分でないなら、優しく保護してたぜ。

スーパーロリータ。

いや、全然、欲情しないよな。

自分で言ってて、恥ずかしいよ。

なんでこの妖精ボディがボクなの?!って、悩んだのは、25時間ほどかな。


はあっ。


思い出したきっかけは物語の通り、休戦協定を無視したガルダ帝国軍の襲撃により、ボクの村が襲撃を受けて、僕を助けようとした父親が、浮遊魔法のペンダント(魔道具)をボクに渡し、崖から突き落とした。


その際、浮遊魔法が完全に働かず、ボクは頭を打ったらしい。

その時に、前世の事を思い出したのだ。


いや、いくら浮遊魔法付与ペンダントを渡してあるからって、普通、娘を崖から突き落とすか?

しかも、なんか『お前はトラだ。トラになるんだ!』って言って突き落としたんだけど?

ライオンの間違いじゃね?!

て、ゆうか、突き落とすなよ!!


はぁ、という事で、前途前世ある若者を突き落としたくそ親父おやじは放っておいて、ボクの事を話そう。



ボクの前世は、とある化学メーカーに勤める33歳、営業部に在籍した、仲山 徹なかやまとおるという男だった。

きんにくんじゃないよ!


死因は、おそらく過労死。

アパートに帰った時、急な目眩めまいがして、倒れたまでは覚えている。

多分、あの時に死んだんだよね。

ブラック企業、ふざけんな!


はぁ、過去を振り返っても仕方ない。

心残りは、お袋と弟がいた事。

まあ、弟も成人してたし、何とかなるだろう。

弟よ、スマン。

兄ちゃんは異世界転生してるから、あと宜しくな。

くれぐれもラノベファンだからって、追いかけてくるなよ!



ああ、ここが小説オルデアン戦記の世界だと気づいたのは、このヒロインの妖精ボディの記憶に、カイル二世の名前とガルダ帝国、オルデアン王国の名前があった事。


おい、転生前に読んでた小説じゃん!てな、感じ?


ただ、これ、物語にあるような記憶喪失ではなく、完全な自我の入れ替えだよな?

要は、今までの記憶はそのままに、前世の記憶を上塗りした状態だ。


だから、幼い頃のカイルとの記憶もあるし、確かに将来を誓いあった事も覚えている。


だけどさぁ、カイルの奴って、6歳の女の子に❪お医者さんごっこ❫して、服を脱がせた変態だよ?

カイルが10歳で僕が6歳の時だよ?

変態だよね、


しかもアイツ、僕の裸を見たから責任取るとか言い出して、一方的に僕を婚約者にしたんだよ?

全然、将来を合ってないでしょ?!


ヤバいよ。

絶対アイツ、幼女趣味だよ。

ボク、ケツ掘られたくないんだけど!

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