第2週2/2 アゴ

「アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、オプシロン、テータ、…。」

 講師が歌ったギリシャ語の歌を口遊みながら、ノートに、顔文字の一部を書いていく。

「プシー、プヒー、クシー、オーメガ。…神父さん、これで合ってる?」

 いつの間にか彼女の城になっている信徒ホール。「勉強熱心ねェ」と、年老いた信者達がチクチク嫌味を言っているとは気づかず、本当に遠慮なく夜中まで勉強に使っている。見て見て、と言うので、手に取ってみると、綺麗なゴシック体が、ビッシリとA4ノートに書かれている。

「…なあ。」

「はい?」

「このやり方、楽しいか?」

「全然!」

 しかし、彼女がこうまでして古典ギリシャ語だのヘブライ語だのラテン語だのを学ぶ理由も知っているので、「じゃあ止めたら?」とは言えない。

 神父は少し考えて、自分の部屋にいる弟を呼んだ。

「あ、コンスタンティン司祭さま、こんばんは!」

「はい、こんばんは。何? 兄上様から聞いたけど、ギリシャ語やってるんだって?」

「はい! ぶっちゃけアルファベットの書き取りだけで楽しくないです!」

「そりゃそうだね。まずは耳から覚えよう。‪α‬γωアゴ

「あご?」

「そう。ギリシャ人は「アゴで導く」って覚えるのさ!」

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