第2週 1/2 ありきたりな本

 聖書を買った、と、信者の女が嬉しそうに見せてきた。彼女はとても熱心な信者で、色々なふきょう活動に勤しんでいる。時々訳の分からない質問をする事もあるが、よくよく聞いてみると、「ふきょう活動に役に立つので」という理由が多い。

「聖書ってお前、もう訳が違うの、5冊くらい持ってなかった?」

「そうなんですけど、ふふふ、これをみてもそんな事が言えますか?」

 臙脂色の、古書を見ると、確かに日本で出されている一般的な聖書とは違うらしく、アルファベットが書いてある。

「英語対訳の聖書ももう持ってなかったか?」

「だからぁ、それでもないんですって。」

 とっておきの宝物を、早く見て欲しいらしい。言われるがままに開くと、初めにパッと目に入ったのは、アルファベットだった。

 但し、ギリシャ文字の、だが。そして右側には、アルファベットはアルファベットでも、ラテン語が書かれている。

「こ、これは…!」

「えへへー、掘り出し物です! ネストレ・アーレント訳とありきたりなウルガタ訳聖書!」

「どこで買ったんだ?」

「これはねぇ…」

 そう言って、彼女はニヤニヤしながら、スマホの画面を見せたのだった。

 

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