秘密組織は世界の裏側で笑う

 魔性をこそ神の使徒とする教団の存在は、世界各国で話題になっていた。

 地球上から人類を排除し、新たな星に生まれ変わる事こそ神の意思と考える彼らの思想は1000年掛けてゆっくりと蝕む様に伝播し、いつしかデウス・Xエクス・マキナに匹敵する規模の秘密組織となっていた。


「デウス・エクス・マキナか……規格外番号ナンバーズ掃討作戦とは、何と罪深い。天に唾吐く行為だと、何故わからないのでしょう」

「いずれ思い知りましょう。自分達の罪深さを。大王かみの齎す慈悲の深さを。大王かみに牙剥く愚かさを、身を以て知るに違いない」

「それで、彼らの組み分けは判明したのですか?」

「はい……っ、っ、っ。こちらになります……」


 岩壁をスクリーンに照らし出されるのは、作戦デウス・エクス・マキナの組み分け。いわゆる対戦表だ。

 それも昨日会議にて決定したばかりの最新の情報である。

 情報の新しさが何を差すかは、言うまでもない。


「なるほど。妥当な展開だな」

「えぇ。我々の予想を超える事は、ありませんでしたね」


 規格外番号ナンバーズいち牛鬼ぎゅうきvs十二天将、玄武。十二星将、金牛宮ペア。


 規格外番号ナンバーズ、ニャルラトホテプvs十二天将、太裳。十二星将、双児宮ペア。


 規格外番号ナンバーズよん、ジャヴァウォックvs十二天将、青龍。十二星将、双魚宮ペア。


 規格外番号ナンバーズまんじ観音かんのんvs十二天将、勾陳。十二星将、人馬宮ペア。


 規格外番号ナンバーズろく、ルシフェルvs十二天将、太陰。十二星将、獅子宮ペア。


 規格外番号ナンバーズなな白鯨はくげいvs十二天将、天后。十二星将、磨羯宮ペア。


 規格外番号ナンバーズはち、ユグドラシルvs十二天将、朱雀。十二星将、白羊宮ペア。


 規格外番号ナンバーズきゅう九頭くずのヒドラvs十二天将、天空。十二星将、巨蟹宮ペア。


 規格外番号ナンバーズじゅう、ベルセルクvs十二天将、貴人。十二星将、処女宮ペア。


 規格外番号ナンバーズ拾壱じゅういち、クレナイマンタvs十二天将、騰蛇。十二星将、宝瓶宮ペア。


 規格外番号ナンバーズ拾弐じゅうに、ペンドラゴンvs十二天将、白虎。十二星将、天瓶宮ペア。


 規格外番号ナンバーズ拾参じゅうさん、ペイルスレイプvs十二天将、六合。十二星将、天蠍宮ペア。


規格外番号ナンバーズさんを倒した事で調子に乗っているのでしょうが、一気に殲滅とは大きく出たものですね。図に乗っているのか、調子に乗っているのか、ともかく冷静とは言えない作戦だ。1000年もの間、術師は彼らに手も足も出なかったというのに」

「それだけ彼らも本気、と言う事でしょう。天将と星将を同時に、しかも全て動かすなど、今までならば考えられない。それこそ、教皇ミケランジェロが完全統治している時代ならば、あり得なかった」

「それはつまり?」

「最早ミケランジェロは見せかけの老害。真の支配者、基、統率者が他にいると見るべき、と言う事ですかね。それを潰さぬ限り、彼らは勢いを失わないでしょう」

「全滅させればいいじゃあねぇかぁ。難しい事考えねぇでよぉ」

「全滅は大王かみの使徒たる規格外番号ナンバーズの役目。我らは彼らにとっての敵を潰すだけでいい。敵にもならぬ雑踏には、せいぜいたらふく太って肥えて、供物にでもなって頂こうではありませんか」


 イルミナティ。フリーメイソン。山の翁から始まる暗殺教団。プルス・ウルトラ――過去、様々な秘密結社、秘密組織が歴史の裏に存在したが、今や残ったのはここ1つ。

 魔性の王たる恐怖の大王を崇拝し、恐怖の大王をこそ神として信仰する、唯一にして最大の秘密組織。デウス・Xエクス・マキナを脅かす最大の敵。


 名を、アリス。


 不思議の国へと舞い落ち、鏡の国を冒険した夢見る少女。

 デウス・エクス・マキナ――機械より現るる神の語源たる夢落ちを終焉とした物語の主人公。

 夢見る少女が、夢落ちの化身たる偽りの神に牙を剥く。そんな皮肉を籠めて名付けられ、今まで裏から、神の手を邪魔して来た。


 曰く、夢落ちを拒絶する夢見の少女達。

 夢に導く子羊ではなく、夢を喰い破るバク。

 魔性が蔓延る今の世界を否定するのではなく、受け入れ、信仰する事をこそ信条とする者達の集まりだった。


「よぉし。なら、俺ぁ試食して来るかなぁ」

「試食じゃなくて、あなたの場合つまみ食いでしょう? まぁ、程々にして下さいね。あまり派手に暴れると、向こうがワラワラと湧いて来ますから」

「あぁ、はいはい。忠告どぉもぉ」


 軽く振った男の手の甲。首筋。額で双眸以外の目玉が回る。

 大口を開けて出した下の先にも大きな目玉がついており、左右を向いてから口の中へと仕舞われた。

 その姿といい、血生臭い肌の色といい、とても人間とは思えぬその姿はまるで。


「さぁて。誰を喰らってやろうかなぁ」


 まるで、魔性の如く。

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