誰と組むか、何と戦うか
二本結んだ指を振り下ろす。
組織開発部が作り上げた疑似魔性を一刀両断し、一撃で祓う。
総幹部会議から3日3晩、
数にしておよそ2万6711体目の疑似魔性を祓ったところで、シルヴェストール――シルヴィが食事を持って来た。
「虎徹!」
「ん」
3日3晩動き続けたというのに、虎徹に消耗した様子はほとんど見られない。
力の性質上、
対して、陰陽師の力は感情に左右されやすいので、制御が難しいという部分があるものの、
飲食も排泄も不要。睡眠も一切取らず、絶えず戦い続けられるのは、虎徹最大にして唯一の利点であり、長所だ。
そして、必要とする食事もサンドイッチ1個と最低限。燃費が良過ぎると、人も人に見えなくなる。
「
「どの番号だろうと、戦うだけだ」
「ごめんなさい。相手と言うのは組む相手の事で……」
「星将か。決めていないが、金牛宮と処女宮は組まない」
「どうして? お二方とも、相当な実力者ですが」
「近接戦闘は既におまえで足りている。それに俺の術式に対して、敵に群がられては邪魔なだけだ。近接よりも遠距離か、補助系統の術式が欲しいところだ」
さり気なく、近接戦闘要員として数えられているのがむず痒い。
未だ自分は諸刃の剣を切り札とする未熟な身。更に強くならなければ――自分の胸に、強く言い聞かせる。
「そう考えると、双魚宮と磨羯宮も人選から外すべきか……実力的に上の剣士と組むなら、おまえの存在が霞む」
「霞むって……」
確かに、幹部と比べられたら出る幕はない。
陰陽師の中でも最高クラスの剣士とされる青龍と並ばされでもしたら、霞んでしまうと言われるのもわかる。
そして、青龍とほぼ互角の実力を持つとされる剣士の双魚宮はもちろん、魔剣の使い手とされる磨羯宮でも同じ事が言える。
相手のパートナーも考えれば4人もいるのに、得意分野を重ねる事はない。
あらゆる状況を想定し、攻撃に関しても防御に関してもバリエーション豊かである事が理想であり、パワータイプでの力押しは、望まないところであった。
要はチームのバランスの問題だ。
けれどそうして自分だけでなく、味方全体の事を考えてくれている事が、シルヴィは個人的に嬉しかった。
もう1人でヘリコプターから飛び降りる事は多分なさそう――と、信じたい。
「ではどうします? 当日になっていきなり連携出来るほど、私、器用ではないのですが」
「無理に連携する必要はない。俺とおまえの連携が出来ていればそれでいい」
訂正。このままではまた1人無理をする危険性、大。
何とか彼と連携してくれる、コミュニケーション能力に長けた人物が必要だ。
ただこのコミュニケーション難解な虎徹を相手に、果たして付き合ってくれる相手がいるのかどうか。
「……白虎、
不意に聞こえた声に振り返ると、そこには天使がいた。
無論、本物の天使ではない。
天使の様な美しさと可憐さを併せ持つ銀髪の少女が、荘厳な鋼の鎧を纏って立っていた。
右手に握られた巨大な大鎌のせいで、美し過ぎる死神をも思わせる少女は十二星将筆頭、獅子宮のクリスティアナ・リリーホワイトであった。
「リリーホワイト様!」
シルヴィは立ち上がり、出来る限り背筋を伸ばす。
身長もシルヴィの方が高く、見た目も若そうに見えるが、実年齢も実績もクリスティアナの方がずっと上。
自身の体躯にそぐわない大きさの鎌を軽々と振り回し、魔性を狩る姿は、それこそ勇猛なる百獣の王。白銀の獅子とさえ呼ばれる彼女に対し、同じ
「そんなに固くならないでいいわ。楽にして……まだ、やっていたのね」
「申請は通してあるはずだが」
「えぇ、使用について問題はないわ。私はただ、様子を見に来ただけだから」
目が見えないとはいえ、虎徹は振り返りもしない。
分野は違えど、同じ組織の上司にも当たる相手だと言うのに、敬意の1つもありやしない。
クリスティアナも基本的に静かな人間なので怒鳴りこそしないが、虎徹を見る目はどこか冷ややかで、若干威圧的でさえあった。
2人の間に挟まれるような形になって、シルヴィは言動に困る。
このまま2人が戦いに発展すれば、まず止められない。止められる自信がなかった。
「まぁ、いいわ。それで……もう終わり?」
「休憩が終わった。これから続きをする」
「まだやる気でいたのですか?! ダメです、休みなさい! 3日3晩戦い続けて、また戦って、無茶をし過ぎです!」
「まだ、足りない。次にどの
(陰陽師と言うのは、本当に酷な事をする……)
祈りと信仰こそ力の源とする
故に遥か昔より、陰陽師は人ならざる怪異と戦うため、始めに心。次に体を改造し、裏社会の闇で戦い続けて来た。
祈りと信仰など、所詮目の前に在らざる者に対する他力本願だと、誰かが言った。
実際、そんな解釈で
金刀比羅虎徹の存在こそ、その証。
だから、無性に腹が立った。
まるで人間のままでは、
「なら……私とヤる?」
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