第肆章

情報確認。規格外番号(ナンバーズ)

 陰陽師連合デウス二枚看板、安倍あべの晴明せいめい芦屋あしや道満どうまん着席。


 陰陽師連合デウス最高戦力十二天将筆頭、貴人きじん着席。

 他、十二天将、騰蛇とうだ朱雀すざく六合りくごう勾陳こうちん青龍せいりゅう天后てんこう太陰たいいん玄武げんぶ白虎びゃっこ着席。

 太常たいじょう天空てんくう。欠席。


 祓魔師協会マキナ最高権力者、教皇ミケランジェロ。神父筆頭アンデルセン。シスターズ・ナンバーゼロ、スカーレット・アンネ着席。


 祓魔師協会マキナ最高戦力十二星将筆頭、獅子宮ししきゅう着席。

 他、人馬宮じんばきゅう双魚宮そうぎょきゅう金牛宮きんぎゅうきゅう処女宮しょじょきゅう白羊宮はくようきゅう天瓶宮てんびんきゅう双児宮そうじきゅう宝瓶宮ほうべいきゅう磨羯宮まかつきゅう着席。

 巨蟹宮きょかいきゅう天蠍宮てんかつきゅう。欠席。


 その他各パートナーはそれぞれの相方の後ろで待機しており、息をするにも重苦しい空気が流れているところだ。


「今日この日を迎えられた事、私は心より嬉しく思う。今の今まで、1000年もの間変わらなかった状況が今、ようやく動いた。一歩踏み出す事が出来たのだ。そして進んだからには後退などしない。確実に、着実に前へ進む」


 およそ100年、術師らの戦いを見届けて来た教皇は興奮気味だ。年齢もあって血圧が気になるところだが、他人ひとが見るより彼は至って平静であった。


「アイアン・メイデンが欠けた今、規格外番号ナンバーズは12体。そして偶然にも、我々の最高戦力も12人ずつ。故に我々はここに、規格外番号ナンバーズ掃討作戦! デウス・エクス・マキナの起動を宣言する!」


 まるで政治家の演説の様だった。

 力と熱の籠った言葉は、とても100歳を超えた老人のそれとは思えなかった。

 現にこの作戦を前以て知らされていなかった陰陽師、並び祓魔師エクソシストは、教皇の力強い言葉に震撼し、衝撃を受けていた。


「十二天将、十二星将から1人ずつ選抜し、チームを組んで4人1組で規格外番号ナンバーズ1体と対峙して貰う。組み合わせは君達術師が自ら合うと思った相手を選び、対峙する相手も決めて欲しい。組み合わせ検討期間は2週間。その後決まった組み合わせで実戦訓練課程を1か月置き、作戦を開始していくつもりだ」

「もちろん。猊下げいかが仰ったのはあくまで理想的な計画だ。実際はもっと訓練期間を延長出来るかもしれないし、全く出来ないかもしれない。君達24人の将軍とそのパートナー達の連携が重要となる事は、言うまでもないよね。そこも考慮、加味して考えるように、ね」


 道満の言葉に、24人の幹部よりもその後ろで立ち尽くすパートナーらの方が緊張していた。

 最悪自分達が足を引っ張って、荷物になって、それで敗走する可能性だって――最悪、全滅を招く事だってあり得るのだから。


 そんな彼らの緊張を煽り、24人の意識をより強く向けさせるため、晴明はホログラムを起動。円卓の中央に巨大な水晶体が映り、粘土細工のようにねられながら成形されていく。


規格外番号ナンバーズさん、アイアン・メイデンを除く残りについての詳細を、改めて纏めておきましょう。情報の欠如は戦いにおいてデメリットにしかならない事は、皆痛いくらいに知っている事でしょうから」


 24人を差して言っている風に聞こえるが、実際はもうガチガチに緊張しているパートナーらに向けられた言葉である事は言うまでもなかった。

 彼らの中にはそもそも規格外番号ナンバーズの姿さえ見た事がない者もいるし、情報の一部も知らされていない者もいる。

 今回皆が集められたのはそのための勉強会であったのだと、十二天将、白虎。金刀比羅ことひら虎徹こてつの後ろにいたシルヴェストール・エルネスティーヌ――愛称シルヴィはここで確信を得た。


「ではアンデルセン神父、よろしくお願いします」


 円卓にずっと足を乗せ、煙草を噴かしていた神父らしからぬ男が、長い脚を折り畳んでから立ち上がる。

 白煙を吐きながら円卓中央に立った神父は小さな淵の丸眼鏡を押さえ、短く欠伸した。


「まずは……人類が最初に発見した規格外番号ナンバーズいち。個体名、牛鬼ぎゅうき。名前はオブシディアンの怪異になぞらえていますが、牛の角を持ち、蜘蛛の糸を吐き、腕が6本、脚が2本の計8本の肢体を持っている事以外は、全くの別物……般若の顔をした人型で、武器こそないものの、魔性でも規格外の身体能力を有しており。過去、オブシディアン最高層の電波塔を跳び越えた逸話は、聞いた事がある人もいるでしょう。言語機能もあり、知性も備わっていますが、戦闘狂じみた思考回路が大いに見られる危険対象です」


 牛鬼。

 体躯はおおよそ4メートル。助走無しのほぼ垂直跳びで634メートルを跳び越えた話は、シルヴィも聞いた事があった。

 当初は何か特別な術か何かだと思っていたのだが、話からして本当に、単純な膂力だけの話らしい。


「続いて……規格外番号ナンバーズ。個体名、ニャルラトホテプ。クトゥルフ神話について明るくない方でも、名前くらいは聞いた事があるかもしれません……貌無かおなし型魔性の王にして、混沌の覇王。体が常にもやのような物に包まれておりますが、3本の尾を持った虎のような形を想像するとわかりやすいですかね。これは思考回路や膂力より、鳴き声による怪音波攻撃が強敵です。声なのか音なのか……とにかくこちらには理解不能な音で、こちらの術式から力から全て狂わされる。狂気の魔物、とでも呼べる存在です」


 ニャルラトホテプ。

 牛鬼に比べればそれほどではないと感じるが、ほぼゾウと同じサイズ。人間相手なら充分に大きい部類だ。

 出現場所は不特定で、発見された順番こそ2体目だが、発見された回数で言うと1番少ないのかもしれない。得体の知れない存在だ。


規格外番号ナンバーズさんは飛ばしまして……規格外番号ナンバーズよんに行きましょう。個体名、ジャヴァウォック。鏡の国のアリスより飛び出した黒き龍にして、過去、。当時の十二天将貴人が深手を負わせ、退散させましたが、祓うには至らず。この話は、皆さんよくご存じでしょう。獰猛かつ凶暴。人語を理解している節こそあれど、使う必要は無しとしている部分が見られ、明らかにこちらを下に見ているのがクソ腹立つ野ろ――んふん! 失礼、魔性です」


 ジャヴァウォック。

 これについては、シルヴィ含めた全員が知っている。何せ訓練生時代、最も凶暴な魔性の基本的例として、の襲撃事件を聞かされるからだ。

 炎と毒の霧。そして呪詛の言霊を吐く邪龍。破滅の化身。

 姿こそ直接見た事がないが、シルヴィは正直に言って、この魔性に今1番の恐怖を抱いていた。


「続いて、規格外番号ナンバーズ。個体名、まんじ観音かんのん。千手観音菩薩を思わせる形をしており、背中の手は無限に増殖し、自らの魔力で武器を想像する力を持っています。他の規格外番号ナンバーズと違い、自ら仕掛けて来る事はなく、敵意を見せなければスルーします。武器を選択して生成する点も含め、他の個体と比べて知能が高いと思われます」


 卍観音。

 名前だけ聞いた事がある程度だ。あまり知られていないのか、幹部の中にも中央のホログラムと記された情報を見つめている人が数人いた。

 もしもこれと戦う事になるとすれば、近接型の自分は苦戦を強いられるだろう事を、シルヴィは予感した。



規格外番号ナンバーズろく、個体名ルシフェル。白き翼と黒き翼。そして人間に近しい姿形から、堕天使の名を与えられた魔性。比較的階級の高い御子型の魔性の中でも群を抜いて魔力が強く、人語を介して意思疎通もするほど知能が高い。小手先の技術や半端な搦め手では、逆に足を救われる相手になるでしょう」


 ルシフェル。

 弐番のニャルラトホテプ程ではないが、そこまで多く発見例のない魔性だ。知能が高いが故に、術師を避けているのか。それともただ面倒なだけか。

 聞いた話では2つの煉獄を操り、相手に死に方を選ばせる残忍な性根をしているとの事だ。術の競い合いになったら、おそらく勝ち目はかなり薄くなる。


規格外番号ナンバーズなな、個体名白鯨はくげい。これに関する説明は不要かと思いますが、常にこの空を泳ぐ巨大な鯨で、今まで攻撃して来た事こそありませんが、規格の違い過ぎる相手故にこれまで攻撃が通じた事がありません。奴は大型の魔性も丸呑みにするので、懐柔したいところではありますが……最終的には、やはり祓う必要があるでしょう」


 白鯨。

 生まれた時、月が落ちて来たと勘違いした人々で世界中がパニックになったらしい。

 全長6キロメートルにもなる巨体で優雅に泳ぎ、腹が空けば、近くにいる魔性を文字通り根こそぎ捕食する。その際、大地も人も関係なく呑み込む。

 まともに戦闘出来た記録はない。果たして今集まっている中で、これとまともに戦える人がいるのか、甚だ疑問である。


規格外番号ナンバーズはち。個体名、ユグドラシル。多くの魔性を飼いならしている大木の魔性で、術師の存在を確認すると枝葉や木の実で攻撃。幹から毒素を噴き出すなどの攻撃をして来るので、意思はあると思われます……今後、魔性の巣窟となる可能性が非常に高いので、この魔性に関しては最優先駆逐対象としたいところですね」


 ユグドラシル。

 どの魔性にも該当しない形態の大木。

 一応、魔性を飼う魔性として知られているが、実際のところは定かではない。が、脅威である事もまた事実であり、油断ならない相手だ。


「えぇっと……あぁ、規格外番号ナンバーズきゅう。個体名、九頭くずのヒドラ。八岐大蛇に酷似してますが、尾にも頭があり、頭の1つ1つが帯刀している上、ヒドラの毒まで持つ凶悪な魔性です。アイアン・メイデンを除けば、過去最も多くの対戦を繰り広げて来た相手ですが……結果は言うまでもないでしょう」


 九頭のヒドラ。

 これに今までどれだけの術師が殺されたか。

 山のような巨体に9つの頭。それぞれに銜えた9つの大刀。そして、神話の英雄さえ殺したヒドラの猛毒さえ持つ凶器の塊。

 普段は深く眠っていて、あまり起きないらしいが。


規格外番号ナンバーズじゅう。個体名、ベルセルク。牛鬼と同様に6つの腕を持ちますが、それぞれに剣、槍、刀、斧、薙刀、弓を携えており、人馬の形態をしております。過去最も多くの幹部を殺した狂戦士であり、魔性ながら魔性を殺すイカれた奴です」


 ベルセルク。

 強敵を求め、強敵と戦う事を求める狂戦士。

 1000年の歴史で、これ1体に100人以上の幹部術師が殺された。海を渡る事は出来ないらしいので人類全滅こそ避けられているが、真っ先に抹消したい魔性の1体である事は間違いない。


規格外番号ナンバーズ拾壱じゅういち。個体名、クレナイマンタ。巨大なアカエイです。形状はマンタに似てますが、尾に毒針を持っており、毒の濃さだけで言えば規格外番号ナンバーズきゅうのそれより即効性が高いので、まぁ……喰らったら死ぬ、と憶えていただければいいかと」


 クレナイマンタ。

 白鯨と同じで空を遊泳する巨大魚。常に開いている口から大量の魔性を呑み込むが、酸素の低下が危惧されている。

 過去、白鯨の縄張りに追い込み、同士討ちさせる計画が行なわれたが、多くの犠牲を出しながら幾度も失敗に終わったため、今では禁止とされているとか。


規格外番号ナンバーズ拾弐じゅうに。個体名、ペンドラゴン。両手にランスを持ち、鎧に似た鱗を持つ巨龍です。仲間の龍種を守るため戦う性質が強く、過去これの縄張りに入って帰って来た者は……私だけです。自慢ではないですが」


 ペンドラゴン。

 ジャヴァウォックと並んで規格外の双龍とされている。

 ただしジャヴァウォックは獣という感じだが、ペンドラゴンはさながら騎士のようで、術師の中には、これをわざわざ見に行く輩がいるとか。

 強さは間違いなく上位に入るだろう。


「そして最後……規格外番号ナンバーズ拾参じゅうさん。個体名、ペイル・スレイプ。猛毒の細菌を撒き散らしながら走る馬で、襲って来る事こそありませんが、過去にこれが通った近くの一般人街で72度のパンデミックが起きています。タイミングはわかりませんが、毎度違う細菌を持っていると考えるのが自然ですね」


 ペイル・スレイプ。

 近接戦主体では、これが一番どうしようもない。

 これを中心とした半径1キロ圏内が猛毒の雲海に沈むと言うのだから、対処も何もあったものではないだろう。

 戦闘より、まず毒と細菌を何とかする事を考えねばなるまい。


「以上。簡単ですが、説明を終えます」

「ありがとう、アンデルセン神父……以上12体。これらのどれに誰と挑むのか、実戦に出る君達自身が決めて欲しい。君達の活躍を期待している。では、解散」


 ミケランジェロの号令で、皆が一斉に席を立った。

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