1つ欠けて残るは12

 1000年前までならば、陰陽師や祓魔師エクソシストと機械文明は交わらざる物として認知されていた事だろうが、今となっては時代錯誤だ。


 道満どうまんに呼ばれた虎徹こてつとシルヴェストール――シルヴィの眼前には、透明な水の中に沈められた鋼鉄の処女がおり、四肢を細い管で繋がれている。

 何の数字かわからないが、何かしらのデータをまとめた数字が画面にズラッと並んでいて、彼女に関する情報が着々と収集されつつある事は、ある程度察する事が出来た。


「これは……アイアン・メイデン? 何故、あの魔性がここに……!」

「虫の息にした龍型魔性を手土産に、本部へやって来た、らしい」

「へ……?!」


 信じられないだろう、と虎徹も深々と吐息する。

 どうしたらいいのかわからないのは、シルヴィだけではない。

 虎徹、道満含めた誰もかれもが、彼女の扱いに困り果て、結果的に彼女は祓った事にして、今は道満含めたごくわずかな人間しか知らない隠し部屋で、研究材料として利用する事で、何とか妥協点を見つけた形だった。


「2人が寝ている間、陰陽師連合デウスはなかなか賑やかだったよ……まぁこんなのが来れば、嫌でも騒ぎにはなるよね」

「それで、これは一体どういう状況、なのでしょうか……?」


 アイアン・メイデンから何か抽出しているようにも見えるが、それが何かわからない。

 彼女の体は戦いの中で流動していたけれど、だからと言って液体と言う訳ではないし、体液という体液はないと思われる。

 それで抽出出来るものはそんなにないとも思うのだが。


「今回、虎徹が彼女に打ち込んだ核を作り出す術式なんだけれど、正直に言ってこれは失敗だった。壊せば死に至る核のつもりだったのに、実際は術者の存在を刻み込む術式だったんだ」

「つまり……アイアン・メイデンは、虎徹の存在を刻まれた結果、式神と交わす主従契約のようなものが働いた、と……?」

「素晴らしい考察だ。君の考察が正解なのかはわからないけれど、それに近しい影響があったと考えるのが妥当だと、私達も結論付けた。魔性との契約なんて前代未聞だし、公表すれば世間からの非難は逃れられないだろうね」

「でも、利用されるのですね……

「シルヴィ」


 わかっていない口で言うなと、包帯と面に仕舞われた睨みが制す。

 言い過ぎたとは思ったものの、それでも訂正するのだけは嫌で、シルヴィはそっぽを向くだけの抵抗で留めた。


 虎徹はそれ以上何も言わないし、道満も事実だからなのか怒ったりして来ない。

 だからというわけではないけれど、どうしても謝ったり、訂正したりしたくなかった。彼――虎徹が組織に何かされたのは察せられていたから、彼の代わりに怒りたかったのだ。


「それで、実際どのように使うのでしょうか」

「アイアン・メイデン……彼女の流動する形状記憶金属を解析し、君の礼装を作る。イメージとしては、そうだな。状況に応じて形を変える武器、かな」

「俺には万象切断の術式があります」

「それでは君の呪力じゅりょくがすぐに尽きてしまう。君の術式は威力が凄い分、相応の呪力を消費するからね。より長期的に、かつ効率良く戦うための策さ」

「俺が魔性を使うのですか」

「不服かい? でも、それも今更だろ? 君にはあの子だっているんだ。あの子がいる分、利用出来る物は全て使って、必ずや勝って貰う。君に敗北は許されないから、ね?」

「ただの確認です。不服ではありません」

「頼んだよ」


 そういう風に答えるよう、陰陽師わたしたちが変えてしまった。


 もしもこの場に、金刀比羅ことひら虎徹ならざる■■■■がいたならば、何と返事しただろう。不服と首を横に振ったか。なりふり構わず頷いたか。

 いずれにせよ、自分達は彼を動かす。必ず勝たせる。そのために、彼を金刀比羅虎徹に変えたのだから。


「虎徹。シルヴェストール。後日正式に発表するけれど、丁度いいから話してしまおうか」

「発表……?」

「……」

規格外番号ナンバーズは、残り12体。陰陽師連合デウス最高戦力、十二天将。そして祓魔師協会マキナ最高戦力、十二星将も文字通り12人ずつ――1000年変わらなかった均衡が崩れた今、仕掛けるべきと判断した。十二天将並び、十二星将、計24名の最高戦力で、12体の規格外番号ナンバーズを同時に討つ。作戦名、デウス・エクス・マキナを起動する」

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