第38話 事件の件と有名ラーメン店

 シュークリームの甘味かんみに脳がとろけた。

 ソファで抱き合いながら、夢中になってキスを続けた。


 時間は経ち――夕方。


「……遥、ごめん。やりすぎた」

「い、いいの。嬉しかったし、まだ足りないくらい」


 三時間以上はキスしていたのに。

 どうやら病院生活の影響が出ているようだ。しかし、このままでは生活の方に影響が出てしまう。


「いったん、飯の準備にするか。今日は俺が買ってくるよ。遥は、まだ病み上がりなんだから部屋で大人しくしているように」


「えっ、大丈夫だよ。わたしもついて行く」

「けどなぁ」

「もうこれ以上、寂しい思いはしたくない……」


 うわ、可愛い。

 そんな目をウルウルされたら、俺は弱い。


「し、仕方ないなぁ。じゃあ、こうなったら外食でも行こうぜ」

「うん! 決まりだね。どこへ食べに行こうか?」


 そうだな~と、俺はスマホを取り出す。調べようとすると、そこで丁度電話が。なんだ、この身に覚えのない電話番号。


 俺は、電話に出た。


『もしもし~、私、弁護士事務所の“斎藤”と申します。天満さんのお電話ですよね』

「はい、天満です」

『この前の爆発事件の件でお話があるんですが、今お時間よろしいですか』

「ええ、大丈夫ですけど」


 これは重要な話っぽいな。

 遥は小声で「その人、うちの弁護士さんだよ」と教えてくれた。マジか。ということは、遥のパパさんが雇っている専属ってことか。



『病院を爆破しようとした犯人の奥村ですがね、暴行やテロ行為などの罪で再逮捕されて懲役刑となりそうです。恐らく、十年は出てこれないでしょう。それで、その時の天満さんがダイナマイトを持ち去って公園で爆破した件は、正当防衛が適用されるので罪には問われません。ご安心ください』


「おぉ、それは良かった……ちょっと不安があったんですよ」


『ええ、後はこちらにお任せ下さい』

「ありがとうございました」

『いえいえ。遥お嬢様にもお伝えください。では』



 電話が切れて、俺は安心した。

 良かった、奥村は今度こそ刑務所行きだろうな。


 そう信じたい。


 さすがに、プリズンブレイクばりの脱獄とかないと思うけど。



「というわけだ、遥。もう安心だぞ」

「良かったぁ! 遙くんは罪に問われないんだね」

「らしい。遥のところの有能弁護士に感謝だな」

「うん。ウチの弁護士、凄い腕の人なんだって」



 確かに、声がハキハキしていたし、頼り甲斐がいのありそうな感じだった。いわゆる最強の法務部ってヤツかな。



「となると実質、遥にも助けられたんだな」

「ううん。弁護士さんのおかげだよ~」


「それでもありがとう、遥」

「遙くん……うん。って、またキスしたくなっちゃう! そんな見つめないで、恥ずかしいから」



 見つめ合っていると、ついついお互いの顔が接近してしまう。キスがクセになりつつあった。人前ではやらないよう気を付けないとな。


 準備をしてマンションを出た。


 外はすっかり闇に染まっていた。

 時間帯的に、ほとんどの人が帰宅中だろう。


 さて、どうしたものか。

 飲食店を選定せねば。



「どこにする?」

「遙くんの好きな所でいいよ~」

「うーん。それじゃあ『村田屋』にすっか」



 近所のラーメン屋にしよう。

 相模原駅周辺の中でも超おススメと名高い『村田屋』。ネットの好評レビューも多くて、大人気。俺もお気に入りのお店だ。あそこへ向かうしかない。



「村田屋?」

「なんだ、遥は行ったことないんだ」

「うん。有名なの?」

「結構有名だよ。一番人気の『チャーシューめん』が目ん玉飛び出るくらい美味いんだ」

「へえ、ちょっと興味あるかも」


 なら、決まりだな。



 * * *



 散歩も兼ねて徒歩で向かった。

 雑談を交え、ニ十分程歩くと『村田屋』が見えてきた。


 こぢんまりした建物がそこにあった。

 時間帯もあってサラリーマンとかが多く、にぎわっていた。少し混雑しているけど、入店できないレベルではない。


 お店へ入り、券売機でメニューを選択。


 俺も遥も『チャーシューめん』を選んだ。950円は良心的価格。


 券をお店の人に渡し、空いているカウンター席へ着く。



「あとは待つだけだな」

「楽しみだねえ、遙くん」



 遥は、俺の手を握ってくる。

 俺も握り返して恋人繋ぎ。

 こうしているだけで幸せ。


 やっと遥との日常が戻ってきて、俺は感動を覚える。やっと元に戻れた。もうトラブルは勘弁願いたい。


 そう思っていた矢先――



「アツアツだねぇ、遙くん」



 どこかで聞いたことある声が俺の隣からした。さっきから黙々とラーメンをすすっている女子高生。とっても見覚えがあった。



「――って、ヒカリ!!」

「やあ、遙くん。まさか、二人がいるとは思わなかったよ。ていうか、もっと早く気づいて欲しかったなあ」



 上手そうにチャーシューを味わう生徒会長のヒカリ。めちゃくちゃ美味そうだな。くそう、飯テロだぞこれは!


 いや、そうじゃない!

 なんで会長がいるのっていうか、飯を食ってるのか。


 遥は、ビックリして手を離した。



「か、会長!?」

「どうも、小桜――いや、遥さん」

「ど、どうも……会長って制服のままラーメン屋に入るんですね」

「まあね。おかげで目立つし、よくナンパとかパパ活に誘われたりするけどねー」

「えぇっ……なんか凄いですね、それ」

「さっきも声掛けられた。やっぱり、女子高生ひとりでラーメン屋はレアすぎるかな」



 そりゃそうだ。

 赤髪ストレート女子高生が、こんなど真ん中の席で堂々とラーメンすすっていたら、誰だって注目する。


 けど、せっかくだし三人で食べるか~。


 会長と遥に挟まられて食べるラーメン。

 そんなの絶品確定じゃないか。

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