紡績工房が完成し、王と女王が見学に来る
タワーでの生活にもすっかり慣れ、しばらくタワーの中だけで暮らす。
焼却炉のバイトに比べてここの給金は桁が違った。
その時はあまりに給金がよくてクラフに確認に行ったが、クラフは「これが正当な報酬だよ」と言って私はそのまま戻ってきた。
クラフ曰く、焼却炉のゴミを燃やすバイトの給金が低すぎるらしい。
クラフは学園を卒業し、真剣なまなざしで魔道具を見つめる。
その横顔にドキッとした。
本当にかっこいい。
最近タワーから一歩も出ていないが、生活は快適である。
この場所は安全で警備もしっかりしている為、マリーに命を狙われないよう用心の為この中だけで生活した。
いつもの習慣で火炎球に炎の魔力を込めていると、研究員が叫んだ。
「耐久試験!全部終わった!完成だ!」
クラフアイス王子が笑顔になった。
「完成した!フレイア!君のおかげだ!」
クラフは私の手を取ってはしゃぎ、研究院全員とハイタッチする。
クラフに急に手を握られて、私はドキドキした。
クラフが錬金術で魔道具を作っている時の横顔には何度もドキドキした。
私は、クラフの事が気になり、ちらちらと見つめるようになった。
「ダガー、早速王に連絡を!」
「分かった。すぐ伝える」
ダガーは素早くその場を離れる。
「えーと、綿から糸を作るまでの魔道具が完成したのよね?」
「うん、これで綿の加工コストは大幅に下がる」
「クラフ、ご飯にしよう。徹夜の者も居る。食わせて眠らせたい」
こうしてみんなでご飯を食べに行った。
おばあちゃんはごちそうのシチューを作っており、みんな喜んだ。
おばあちゃんは「良い事がある気がしたのよ」と言っていたが、おばあちゃんは勘がいい。
私が学園を辞め、バイトを首になった日もシチューだった。
結果クラフとダガーと一緒に食事を食べ、ここで快適な生活をしている。
皆で食事を楽しんでいると、当たりが騒がしくなった。
「クラフ、女王と王が来たぞ!」
王と女王、そして護衛に紛れるようにダガーも後ろから付き従う。
王と女王はどちらも25才で女王はクラフアイス王子の従妹にあたる。
女王は年の離れたクラフアイス王子を溺愛し、時には母のように、時には姉のように可愛がっているという。
「クラフ、会いたかったわ。元気にしてた?」
クラフを抱きしめ、頭を撫でる女王。
「元気にしてた。それより、蒸気機関式の糸を作る魔道具が出来た。見て欲しい」
「そうね、すぐ向かいましょう!」
魔道エレベータは王と女王の為に食堂の階で停止しており、みんなで研究室まで魔道エレベータで移動する。
「皆、実際に動かしている所を見せたい」
「「仰せのままに!」」
研究員たちは、いつもとは態度が豹変したようにクラフに丁寧に礼をして魔道具を稼働させる。
そのしぐさや声がワザとらしくておかしくなってしまう。
「うむ、問題無く動いているのだよ」
王が魔道具をのぞき込むように観察する。
「クラフ、魔道具を導入した際の利益の試算を見せてくれ」
クラフはまとめた資料を王に見せる。
女王は割り込むように入ってきて一緒にクラフの説明を聞く。
簡単な説明を聞いた後、
「魔道具を量産するのだわ」
「量産だな」
と、王と女王が同時に声を発する。
その言葉に研究員がガッツポーズを取る。
「問題は、このラインを、何ライン分作るか」
「そうね。クラフの意見が聞きたいのだわ」
「3ラインだけを作って、教育用の研究者も送り込む。問題はこの魔道具を運用する技量を持つ者がここにいる者だけな点。作業者や部品交換をする技術者の、教育が進まないと、うまくいかない」
「ネックは習熟した労働者、か。いや、作業のルール作りも必要になる。労働者の習熟状況を見つつ増産を進めるという考えなのだね?」
「その通り。後は、火炎球の錬成をしたい」
「許可しよう。増産については、こんな所かね?」
「うん、後は、次の研究について。次は自動機織りの魔道具と、蒸気式自動車の研究をしたい」
「許可するのだわ。利益を増やしたいのだわ」
【女王視点】
ふふふ、クラフったら、あんなにうれしそうにして、可愛いわね。
私はクラフが赤ちゃんの頃から面倒を見てきた。
クラフは本当にかわいい。
他の貴族や王族と違って、顔では笑っていても後で談合をして企んでくるような事はせず、裏表が無い。
あまり器用な性格じゃない所も可愛らしい。
その分風邪を引いてどんなに具合が悪そうにしていても「大丈夫」しか言わないから目が離せなくなる。
変に我慢強くて、不器用。
クラフは幼くして両親を亡くし、私が育ててきた。
私に力が無くて、公爵家の憎たらしいマリーの許嫁にしてしまったけど、クラフは自らの才能と努力を惜しまず、道を切り開こうとしている。
蒸気機関計画が進めば、マリーとの許嫁なんて破棄してやるわ!
しかし、気になるのはクラフの隣にいるフレイアとかいう女。
そこまで性格は悪くなさそうだけど、まだ渡したくないわね。
女王はクラフ離れが出来ていなかった。
クラフは女王にとって弟であり息子なのだ。
【フレイア視点】
私、女王に睨まれている気がする。
何もやっていないはず。
それと、王とダガーの様子もおかしい。
女王が不機嫌になった瞬間、「しまった!」という顔をしたように見えた。
どういう状況なのかしら?
「見学は十分だ。もう帰るのだよ」
王が早めに見学を切り上げようとする。
「そうですね。もう充分です」
ダガーも早く終わらせようとする。
「まだだわ!クラフとフレイアはどういう関係なのか、答えるのだわ!」
女王はクラフを見つめる。
「フレイアは、火炎球に炎の魔力を込める為、雇った」
「クラフ、そうじゃないわ。フレイアを異性としてどう思っているの!」
「わ、私は、フレイアを良く思っている。でも、フレイアはそうではない、と、思う」
「良く思っているというのは?クラフはフレイアの事が好きと言う事なの?」
「その、通り」
クラフが私を見て汗をかく。
そして顔が赤い。
そして、私が睨まれていた意味が分かった。
私の事が好き!?
本当に?
でも、クラフの顔を見ると、嘘を言っているようには見えない。
女王は私の顔を観察するように見た。
女王は「ふ~~~ん」と何かを察したような声を出した。
「今日の見学はもう終わりだ!!」
王が無理やり話を終わらせるように叫ぶと、女王は渋々という態度で帰っていった。
王と女王が帰ると、研究員がにやにやと笑いだした。
「クラフ、ティータイムの時間だ」
「まだ、早い」
「クラフ、フレイヤと一緒にティータイムに行ってこい!な、悪い事は言わねー。行って来いって。な!」
研究員はからかうように大きな声でクラフの肩を何度もぺちぺちと叩く。
クラフの顔を見ると少し怒っていた。
「あれ?クラフ、怒ったか?落ち着けって!」
研究員はわしゃわしゃとクラフの頭を撫でる。
クラフ、遊ばれてる。
私には飛び火しないで!
お願いだから私に来ないで。
「なあ、フレイアも何か言ってやれって」
キターーー!
こないで欲しい時ほど来るヤツーーーーー!
「そ、そうね。みんなにからかわれるのも嫌だし、おばあちゃんの所でお菓子でも食べてこよう」
私はクラフに手を差し出す。
「クラフ、フレイアに手を差し伸べてもらうの、かっこ悪いぞ」
「そうだそうだ!男から肩を抱くくらいやってもいいんだぞ。俺達にからかわれるのを庇う様に手を取って逃げ出す機会を与えてやったのに。ぷんぷん!」
研究者はクラフをからかうように怒ったふりをする。
「ほら、今からでも間に合う!フレイアの手を取って、庇う様に連れ出せって!」
クラフは本当に遊ばれてる。
クラフは私の手を取っておばあちゃんが居る食堂に走った。
螺旋階段を2人で駆け下りるクラフの顔は真っ赤。
私の顔もきっと真っ赤になっている。
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