私の特別な炎
馬車に揺られてたどり着いたのは、タワー。
クラフアイス王子の横顔はとてもステキで、私の胸は高鳴る。
前は睨まれているようで怖かったけど、話してみると素朴ささえ感じ、いい意味で貴族や王族とは違っていた。
「着いたよ」
タワーは大きく、遠くから眺めてもその高さが目立つ。
円筒上になったその建物は、近くで見るとその大きさが良く分かる。
「ここってタワーですよね?」
「うん、タワーで暮らしてもらう」
「で、でも、ここって偉い魔術師や錬金術師の方が研究をする所で、私たちが一生入れないような施設ですよね?」
「そんなことは無いよ。私だって小さい頃から、ここで遊んでいた」
「王子は王子ですから」
クラフアイスは悲しそうな顔をした。
「フレイア、一緒に仕事をしていく、仲間なんだ。もっと普通に、話をして欲しい」
「くらふは、それでいいの?」
敬語を無しにして話そうとするが、片言になってしまう。
「クラフ、うん、そうだ。その感じで頼む」
クラフアイスは笑顔になった。
いつも見せないくしゃっとしたその笑顔に胸が高鳴る。
普段睨まれていると思って顔を合わせないようにしていたけど、クラフはかっこいい。
「さあ!入ろう!」
クラフは私とおばあちゃんをエスコートしてタワーの中に入る。
タワーの中は筒のような作りになっていて、螺旋の階段が上に向かって伸び、外壁側に部屋がある構造になっていた。
タワーの中心に床が下りてくる。
床の上に人が乗っており、そこから人が下りて、その後また人が乗ると床が浮いて上に上がっていった。
「え?あれは!?」
「魔道エレベーター、上下に移動するだけのものだよ」
「凄い!」
「便利ではあるけど、魔力の消費が激しい。出来栄えは微妙かな。ただ、魔力を消費してでも研究者たちの時間短縮を出来る方が効果は大きい。だからそのまま使っている」
「もしかして、クラフが作ったの?」
「設計と魔法陣だけだよ」
「凄いわ!大事な部分じゃない」
「そ、それより、部屋に案内するよ。さあ、魔道エレベータが来るまで椅子に座って休もう」
そう言ってコレットおばあちゃんを椅子に座らせる。
クラフの顔が少し赤い。
魔道エレベータに乗ると、すぐに部屋に着いた。
「ここだよ」
部屋の扉を開けると、広い部屋で、質もかなりいい。
おばあちゃんが頭を下げる。
「ありがとうございます」
「働いてもらうから、お礼はいいよ。今日はお休み」
私は興奮してベッドにダイブする。
「フレイア、おやすみなさいはちゃんとしようねえ」
おばあちゃんは礼儀には厳しいのだ。
「クラフ、お休み」
「お休み」
クラフが出ていくと、私は興奮しておばあちゃんに話しかける。
「ベッドがふかふかだよ!」
「そうだねえ。今日は疲れたから、ゆっくしやすもう」
そう言っておばあちゃんはすぐに布団に入って眠る。
今日は色々あって疲れたのかも。
私も眠ろう。
ふかふかで気持ちいい。
◇
【次の日の朝】
コンコン!
私は扉を開ける。
「クラフ?」
「タワーを案内したい」
「おばあちゃんは寝ているわ」
「フレイアと一緒に今行こう」
「そうね、行きましょう」
私はタワーを案内してもらった。
食事は1日2食で、食堂に行って食べる事になっている。
服は、部屋の外のかごに入れておけば、定期的に洗濯してくれるし、定期的に部屋も掃除してもらえるようだ。
「身の回りの世話よりも、働く者の仕事と休み時間を確保するようにしてあるよ」
「合理的なのね」
「研究者はみんなそういうものさ」
「そうかも」
遅く起きたおばあちゃんにタワーの案内を済ませると、午後から仕事だ。
クラフに案内されると、大きな魔道具が無数にあり、コットンが筒に入って回転する魔道具や伸ばされた薄い幕のようなコットンが動いて糸に変わる魔道具と、色々な物があった。
「ここはコットンを自動で糸に変える魔道具を開発しているんだ。今問題なのは、蒸気機関の燃料だよ」
「燃料?」
「うん、蒸気機関は水の中に火炎球と言われる熱を吸収した魔道具を入れて、水を沸騰させて出て来た水蒸気の力でギアを動かすんだ。でも、火炎球に込める炎の魔術師が不足しているんだよ」
「私なら炎の魔術だけは使えるわ」
「そう、フレイアの炎魔術はしばらく燃え続ける。恐らく、多くの炎を火炎球に吸わせることが出来るんだよ」
周りの研究者が集まってきた。
「この子が期待の新人かな?」
「フレイアです。よろしくお願いします」
「そうだよ、うまくいけばネックである動力の問題が解決する」
「これで何度も壊して実験できる!」
「壊しすぎるなよ!」
「壊しすぎなんだよ!」
「お前は壊しすぎだ!」
「な、何だよ!何度も動かして壊してそこを見直していくのが早いだろ!」
「今動力がネックだから、それが出来ないんだろ」
研究者同士で揉めだすが、私とクラフは話を進める。
「これが火炎球だよ。ここに炎の魔法を、纏わせるように使ってみて欲しいんだ」
「分かったわ」
「お、おい!始まるぞ!見に行こうぜ!」
「ファイア!」
黒ずんでいた直径40センチほどの火炎球が光を放ち、炎を吸い取っていく。
「「おおおお!!」」
「もう光りはじめている!これなら動力の心配はいらなくなるんじゃないか?」
「王子、さすがだ!よくやった!」
研究者はクラフ王子に敬語を使わず、年下の弟のように扱う。
「フレイア、ハイファイアを使ってくれないか?」
「そ、そうね。でも、火炎球が割れないかしら?」
「割れてもいいよ。ただ、使う時は出来るだけ、火炎球の周りに纏わせるようにして欲しい」
「分かったわ!ハイファイア!」
「「おおおおおおおお!!」」
火炎球がまぶしい光を放つ。
光が強ければ強いほど炎の魔力を溜め込む性質がある為、フレイアの能力の高さが皆に伝わった。
「火炎球が光っとる!」
「後、数発しかハイファイアは使えないわ」
「何だと!」
魔力が足りなかった?
そうよね、エリートの中で私1人だけ平民が混ざって、うまくやって行くのは無理だったのよ。
ここも首かな。
おばあちゃんに何って言おう?
「後数発も使えるのか!」
「そ、そうね」
「火炎球を全部集めてくる!」
「皆で火炎球を外して持って行くぞ!」
「へへへへ!これで壊し放題だ!」
「「お前は壊しすぎだ!」」
こうして使えるだけ炎魔術を火炎球に使った。
「フレイア、ありがとう。今日の仕事は終わりだ」
「え?もう終わり?ただ炎の魔術を使っただけなのに」
「それが凄い事なんだ。周りを見て」
周りの研究者たちは、火炎球に炎の魔力が宿ると、お礼を言って研究に戻っていき、今では嬉しそうに研究を続けている。
「動力がネックで研究が進まなかったんだ。魔道具の開発は、何度も動かして壊れた所を改善していく地味な作業だよ。魔道具を作る所までは進めてあるよ。でも動力が無ければ実験も出来ない。皆嬉しいんだ。たくさん研究できるようになったからね」
それから私は毎日火炎球に炎の魔力を貯める仕事をして、暇な時間はおばあちゃんの料理を手伝った。
料理がおいしくなり、研究の進みは良くなり、私とおばあちゃんは感謝されながら日々の生活を送った。
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