クラフアイス王子
私は、学園も焼却炉のバイトも駄目になったフレイアを馬車に乗せることが出来た。
手が震えている。
私が学園の3年になる頃、フレイアが1年として学園に入園してきた。
その時、フレイアを見かけ、その美しさに心を魅かれる。
それから気づけば私はフレイアを目で追うようになっていた。
私の目つきが鋭く、怖がられているのは分かっていたが、どうしても見てしまう。
何度も話しかけようとしたが、それは難しかった。
1つは緊張して話しかけることが出来なかった事。
もう1つの理由は、私がマリーの許嫁である事だ。
マリーは邪魔者を躊躇いなく消す人間である。
私はマリーの事を快く思っていない。
だが、公爵家であるブラックローズ家は王家を超える経済力を持っている。
そしてその経済力をバックに兵力も暗部もとにかく質が高い。
王家とはいえ、公爵家の提案を断る事は出来なかったらしい。
王家と公爵家の対立は国を揺るがす内戦に発展しかねないのだ。
マリーは仮面のように笑顔を張り付け、裏では画策するが、その顔を王城に来る貴族や官僚と同じでもう見飽きている。
フレイアはひた向きで裏表が無く、嘘偽りのないその笑顔が私は好きだ。
私はフレイアの経歴を見て、ますます惹かれていった。
両親を亡くし、コレットおばあちゃんに楽をしてもらう為、学園で学び、バイトまでこなしている。
今王家には力が無い。
だが、この蒸気機関の魔道具が1つ完成するごとに、紡績工場と物流の主導権を王家が握ることが出来る。
王家が力をつけ、マリーの居るブラックローズ家の力を削ぐ。
それが終わったら、私は、マリーとの婚約を破棄して、フレイアに想いを伝える。
だが今はまだ駄目だ。
公爵家の力は強く、フレイアを暗殺される可能性がある。
そして許嫁を解消できるほどの力が王家には無い。
クラフアイスは王家の重圧を背負っていた。
蒸気機関計画は王家の発展・貴族とのパワーバランス、そして王子とフレイアの恋の行方までも握っている。
「絶対に完成させる」
「え?何か言いました?」
「ふ、フレイア、すまない。独り言だ」
変な人だと思われたかもしれない。
それにうまく会話が出来ない。
会話は苦手で長く話すのも苦手だが、フレイアと話すのが一番苦手だ。
暗くてよかった。
真っ赤になった顔を見られなくて済む。
それにしても、月明かりに照らされたフレイアは綺麗だ。
優しさがにじみ出ているフレイアの表情に吸い込まれそうな感覚を覚える。
もしフレイアと結婚出来て、私がおじいちゃんになっても、フレイアと一緒に、ともに居られたらどんなにいいだろう?
きっと幸せだ。
私は、後数日で学園を卒業する。
タイムリミットはマリーが学園を卒業する1年後まで。
それまでに、蒸気機関計画を完成させる。
計画が成功しても私は、フレイアに選ばれないかもしれない。
それでも、少しでも可能性があるなら、出来る事はやる!
クラフアイス王子は両手をぎゅっと握りしめた。
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