氷の王子様に拾われる

  私はコレットおばあちゃんに慰められ、やっと泣き止んだ。


「シチューが出来てるよ。こういう時はおいしい物を食べて、ぐっすり眠るのが一番だよ」


 おばあちゃんは勘がいい。


 今日も「私が落ち込む気がする」と言ってごちそうのシチューを作ってくれていた。


「おばあちゃん、ありがとう」


 コンコン!


 家のドアがノックされる。


 ドアの外には、クラフアイス王子が居た。


 その眼光は鋭く、私を見つめる。

 クラフアイス・スチーム王子。

 輝くような金髪と、ブルーの瞳で美形だが、目つきが鋭く、威圧感を覚える。

 そして、私を追い出したマリー侯爵令嬢の許嫁でもあるのだ。

 錬金術と氷魔術、更に剣も使いこなし、学科の成績は常に1位、魔道具の製造については第一人者でもある。

 もうすぐ学園を卒業で、私の2つ年上だ。

 愛称はクラフで呼ばれている。


【万能の王子】がなぜここに?


「学園で、泣きそうな顔をしていたから、気になって」


 私を心配して来てくれた?


 でもクラフアイス王子はマリーの許嫁。

 危険だわ。


 そこにもう1人が顔を見せた。

 黒髪と黒い瞳の男。

 クラフアイスの隣によくいる側近の、確か名前はダガー。

 年齢はクラフアイス王子と同じくらいだと思う。


「ダガー、さっきは急に走り出して、どうしたんだ?」


「フレイアを尾行していたアサシンが居たから追い払っていたぜ。恐らくマリーの手の者だ。逃げられたふりをして後を付けたらマリーの所に向かって行った」

 

「え?私を尾行?王子はいつから私について来ていたんですか?」


 ダガーがクラフアイスを見ながらにやにやと笑う。

「気になって、ダガーに探してもらった。焼却炉に居るのを見つけて、後を追って来た」


「クラフ、フレイアは危険かもせれないぜ。尾行は恐らく公爵家の暗部だ。俺の奇襲に途中で気づいた手練れだ。フレイアを殺す可能性もあるぜ」


「ダガー。マリーはそこまで、すると思うか?」

「逆に聞くが、しないと言い切れるか?」


 ダガーとクラフアイスがお互いに見つめ合う。


「しないとは、言えない、か」


 良く分からない。


 だってクラフアイス王子はマリーの許嫁。


 でもまるで敵のようにマリーの事を話している。


 許嫁なのによく思っていない?


「あの、マリーはクラフアイス王子の許嫁じゃないんですか?でもマリーをまるで敵のように言っています」


「まずは飯にしよう。家の中から良い匂いがするぜ。それに外で話をして周りに聞かれるのは良くないぜ」


「それはフレイアに、失礼だろう。女性の家に、夜入るのは良くない」


「あらあら、入って食べていってくださいな」

 コレットおばあちゃんが2人を家に入れようとする。


「でも、フレイアに、悪い」

 クラフアイス王子は遠慮した。

 いつものように目つきは鋭いが、よく見るとその目にはやさしさと遠慮を感じる。


「わ、私は大丈夫です。入りましょう」


 この2人は悪い人ではない。


 クラフアイス王子は目つきは鋭いけど、マリーのような邪悪さを感じなかった。


「フレイアもいいって言っているんだ。入ろうぜ」






 こうして4人でシチューを食べる。


 ダガーは2回お代わりしてクラフアイスに睨まれていたが、気にせず料理が無くなるまで食事を食べる。


「料理の代金は、払おう」

 テーブルにお金を置くが、金額が多い。


「こ、これだけあれば1か月は暮らせます!多すぎです」

「そうですよ。こんな年寄りの料理にそこまで出してもらうのは悪いです」


「美味しくて感動した。それよりも、話して欲しい、何があったかを」






 私は今日あった事を最初から最後まで話した。


 ダガーとクラフアイスの眉間に皺が寄っていた。


「なるほどな。アクアを使って学園を辞めさせて、焼却炉のバイトも首、か。アクアは男爵令嬢で立場が弱いし気の弱い性格だ。マリーの圧力を跳ね返して断る事は出来ないだろう。断れば消される可能性もある」

 ダガーはクラフアイスの警護の任務もある為か、学園に出入りする人間すべての経歴を暗記しているのかもしれない。


 アクアの事を私以上に知っているようだった。


「話は分かった。私がフレイアを!や、雇いたい」


 クラフアイスは顔を赤くしながら言った。。

 ダガーはにやにやしながら楽しむようにその様子を見つめる。


「私は平民で、炎魔術しか使えない落ちこぼれですよ?役にたつと思えません」


「大丈夫、フレイアの炎魔術は驚異的な持続力を持っている。今蒸気機関の魔道具を作っている。でも、蒸気機関を動かすための【火炎球】に炎を込める作業がネックになっている。フレイアの炎魔術にぴったりですぐ終わるバイトが、ある。それにフレイアは命の危険がある。危険だ。それと、フレイアの性格も、問題無く、うまくやって行ける、はずだ。フレイアのおばあちゃんも、料理番として、雇いたい。シチューが、美味しかった。雇い先に身分は、関係ない。それよりも、炎魔術の能力と、協調性、それが、大事なんだ。ぜひ、来て欲しい」


 クラフアイス王子がここまで長く話すのを初めて見たかも。

 いつもは短く要点だけ話す人なのに。


 おばあちゃんがクラフアイスの話を聞いた後、おばあちゃんが頭を下げた。


「クラフアイス様、フレイアを、末永く、よろしくお願いします」


「ちょ!ちょっと、おばあちゃん!まるで私を嫁にするように聞こえるわ!?」


 おばあちゃんは感動して泣いているようで、「神は私達を見捨ててはいなかった」と神にまで祈りだした。


 その後全員の視線が私に集まる。


「わ、私は」


 クラフアイス王子はマリーの許嫁だけど、悪い人ではないはず。


 ダガーも裏表が無くて好感が持てる。


 それに、クラフアイス王子が私たちを守ってくれるなら、おばあちゃんも安全になる。


 おばあちゃんにいい暮らしをしてもらうのは、私の夢だった。


 夢が叶うかもしれない。


「行きます」


 ダガーとクラフアイスが顔を見合わせる。

「クラフ!今日送っていくだろ?」


「うん、そうする」


「え?何の話?」


「俺は兵と馬車をを連れてくる」


「頼む」


「それとクラフ、今はマリーの許嫁ではあるが、能力は関係なく、フレイアの事を前から好きだったことは伝えておいていいと思うぜ。じゃ、行ってくる」


 ダガーはスマートな足取りで外に出た。


「え?どういう事!」


 外が暗いせいかダガーの姿はもう見えなくなっていた。


「は、早すぎてもう見えない」


 クラフアイス王子は私のことが好き?


 クラフアイス王子を見ると、真っ赤になっていた。


 スキルは色々出来て万能でも、もしかして人と話すのは苦手なの?




 少し待つと、馬の足音が聞こえ、家の前に馬車が止まる。


「乗って」


 私とおばあちゃんはクラフアイス王子にエスコートされ、馬車に乗った。


 今日送るって新しい雇い先に今日送られるって事?


 兵士が家にあった荷物を荷車に詰め込んでいく。


 今日学園を辞めさせられて、焼却炉のバイトも首になってどうなるかと思った。


 その後王子が来て私は馬車に乗って王子と一緒に雇い先に向かっている。


 これからどうなっちゃうの?





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