クエスト4/センス・オブ・デート(セックス前提)



 ――セックスしないと出られない部屋・耐久生活二日目。

 ぐっすりと睡眠をとったからか、アキラと理子は多少なりとも冷静さを取り戻して。


「ううーん……はよー」


「はよ、先にトイレと洗面所使うわよー」


 もともと、頻繁にどちらの家に泊まり徹夜でゲーム勝負していた間柄だ。

 取り乱すことなく朝食後、さて何をしようかとなった時だった。


「そういやさ、自己目標があるとか言ってなかったか?」


「相手には見えないとか書いてあったわね、見てみましょうか」


 ソファーに座り仲良くタブレットを覗き込む二人、するとそこには。


(――――いやいやいやッ!? 合意の上で処女を貰えってさぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!)


(こっ、ここここここぉっ!! 告白して貰えってぇ!!)


 本当に、相手に見えないシステムで良かった。

 二人は初めて、天使のオッサンに感謝の念を捧げる。


(『※相手にバレではいけません』って、いやこんなの口が裂けても言えねぇだろうがッ!!)


(こ、こいつに結婚を申し込まれろって!?)


(ああもうッ、何考えてこんなの――い、いや冷静に考えろ、これはセックス前提の部屋。つまりそれぐらいに仲が深まっている事が前提。他の奴らが同じとは限らないが……)


(……要するに、ヤった後のご褒美ってコトね、或いはいきなり拉致った謝罪もかねて大量のポイントサービスというか)


 自己目標達成時の入手ポイントは1000ポイント、何でも交換できるという事で。

 天使とこの部屋の存在が、それを保証するのだ。

 確かにそれならば、この部屋から出た後も幸せに暮らせる気がする。


「…………今のところ、オレにはあんま関係ねー話だったわ、オマエのは?」


「わたしも同じ感じね、思うにコレって両思い前提って気がするわ」


「そうそう、ボーナス的なやつだよなこれ」


「……」「……」


 会話が途切れる、これ以上何かを言うとドツボにはまってしまう気がしたからだ。

 二人は視線を交わし、頷きあうと。


「話題を変えよう、現在の残りポイントは16」


「一食に2ポイント使うとして、あと八食分はあるわね」


「今日の昼と夜で4ポイント二食分、なら残り六食で二日分か……」


「贅沢は出来ない、オヤツやジュースも無理、そして寝る意外の娯楽も無し」


 本当にここは、セックスの為の部屋なのだ。

 テレビを付けてもソッチ系しか流れないのは確認済み、各種端子があるのでゲーム機に対応してる事は確かだが。


「――――そうか、考えてみたらポイントさえ入ればメシも娯楽も手に入るって事だな!!」


「良いわねそれ、好きなだけ居られるみたいだし!! どんなゲームがあるか確認しない? アンタも少女マンガを交換してもいいわ!」


「待て待て、交換リストを確認するのは後でも出来る。今は……今日の日替わりクエストを確認しようぜ」


「そうね、全てはポイント次第だもの。どれどれ今日の日替わりクエストは――」


 目を輝かせてページを切り替える二人、昨日のように我慢すれば良いだけの話だ。

 どんな難題が来たって、そう耐えさえ出来れば。


『相手の下着と服を選んでプレゼントし、その手で着替えさせてあげよう! ※セックス込みのデートがテーマです、服は専用リストから選んでください』


「…………下着と服を選んで」


「その手で着替えさせろぉ~~~~っ!?」


 選ぶのは良い、だが着替えさせろとは何だ。

 服ならまだしも、下着まで着替えさせるのか。

 必然、相手に体を晒すことになり。


「よし、今日のは止めるか!!」


「ちょ、ちょっと待ってアキラっ!? 何かヤバイ事がちっさく書いてあるわよっ!? ほらココ!!」


「どれどれ…………げッ、日替わりクエストをしない場合は報酬ポイントが現在のポイントから引かれます。~~~~~~畜生ッ、選択肢ねぇじゃねぇか!!」


「生きていく為には日替わりクエストしなきゃいけない、けど日替わりクエストで精神の耐久度を削られるっ! あのクソ天使ぃっ!! どんな手を使ってでもわたし達にセックスさせる気ねっ!!」


 その時、アキラにはとある疑問が出てきた。

 ポイントがマイナスになった場合、どうなるのだろうか。


「どっかに書いてないか? ポイントがマイナスになるとどうなるんだ? ヤベぇよ、これ絶対に変な事が起こるって!!」


「くっ、確かにこんな部屋とシステムを考えるヤツがマイナス時のペナルティを考えてない筈がないわっ!!」


「――――あった!! その場合は失格とみなし、催淫ガス・イチャラブぞっこん一発必中子作り用が部屋に散布されます……はああああああああッ!? ふざけてんのかテメェえええええええええええ!!」


「み、未来が決定してしまうっ!? この年で子供が出来てアキラなんかと結婚してしまうのっ!?」


 お前がパパ/ママになるんだよ、が強制実行されてしまうのか。

 恐ろしすぎるペナルティに、アキラも理子も戦慄して。


(いやこれマジでありえないガスだろッ!? いったいどんな……い、いや想像すんなオレ!! また変な雰囲気になるだろうが!!)


(イチャラブぞっこん……それを吸ったらアキラは――違うっ、そんなコト考えちゃダメ!!)


「ははッ、し、失敗しなきゃ良いんだよなこんなのはよぉッ!!」


「そ、そそそそそそうよっ!! 失敗しなきゃ良い話でしょ。幸いにして、我慢すれば良いだけのクエストなんだから……」


 この先、日替わりクエストの内容が過激化していったら。

 果たして本当に耐えきれるだろうか、セックスしないでいられるだろうか。

 一抹の不安を感じながら、二人は今日のクエストを始める。


「えっと何だ? エモいとオッサンが思えば思うほど基本報酬から加算されていく?」


「ふんっ、幾らポイントの為だからって変なの選んだら承知しないわよっ!!」


「お前こそ変なの選ぶなよなッ!」


「わたしは大丈夫よ、けどアンタは言う権利なーし。誰がアンタの服とアクセを選んでやってると思ってるワケ? このクソダサ男!」


「言ったなテメェ!! 後悔すんなよ!! 一泡吹かせて大量ポイント確保してやらぁッ!!」


「好きにしたらぁ、ま、わたしの加算ポイントの方が上でしょうけどねぇ!!」


 売り言葉に買い言葉。

 またも喧嘩腰の二人は、虚空から現れた分厚いカタログを手に取った。


(アキラは色黒っていうか日焼けで肌黒いから、似合うのが限られてるのよね。だからチャラ男っぽいコーデにしてやってるんだけど……)


(そういや散々グチってたな、胸がデカくて下着も服も中々合うのが無いって)


(デート……デートねぇ、ウチの周辺ってデートスポットあったかしら? 精々が海と、ちょっと遠くの山と……電車で一時間行けば町中に行けるけど……)


(どうすりゃ良いんだ? 何が正解なんだ? ……コイツ、いっつもダボっとしたTシャツと短パンだしなぁ……偶にはスカートとか??)


 チラチラと相手を確認しながら悩むこと数十分、二人は選んだ服と下着を出して貰い。


「よし、見せて貰おうじゃねぇか。テメェのコーデとやらをよぉッ!!」


「ま、期待しないでいるわアンタのコーデなんか。どーせ童貞丸出しのエッろいヤツでしょ」


「くくく、いつまでそう思ってられるかな? じゃあ――――――………………ふ、服脱いで欲しいなぁってオレ思うんだよ、き、着替えさせるって話だったしな!!」


「そっ、そぉだったわねぇっ!! ――っ、ぁ、ううっ、見ても忘れなさいよ。絶対よ、それからブラの時は軽くで良いわ、ブラのフィットのさせ方とか知らないでしょアンタ」


「お、おう、頼む……」


 すぅはぁ、すぅはぁ、深呼吸を繰り返しアキラは下着を手に取る。

 目の前にはTシャツを脱ぎブラを外した理子が、手ブラで立っている。

 そっぽを向いているが、耳まで真っ赤にして恥ずかしがっているのが丸わかりだ。


(~~~~股間に悪いッ!! 意図してねぇだろうけど!! 悪気はないんだろうけどさぁ!! エロいしか感想が出てこない!!)


「……どうしたのよ、とっととブラ付けてくんない?」


「わ、悪い……これで良いか?」


「うん、後はわたしが……」


 ブラを無言でフィットさせる理子、視線を反らしたアキラもまた無言。

 どう、何を言えというのだこのシチュエーションで。


(へぇ、中々オシャレなピンク花柄のね。てっきりスケスケレースとか選んでくると思ったけど……ま、でも所詮は見えない部分よ、問題は服ね服。……その前に下もあるのよねぇ…………)


(み、見たいッ、くそッ、なんて卑劣なクエストなんだ!! ああ、なんでオレはもっと見なかったんだ!! クソほど嫌いな理子のとはいえ、女の子の乳首だぞ!! 生乳だぞ!! ――――部屋に来るまではチラチラ見えても気になんなかったのにさぁ……)


 上が終われば次は下だ、同じ柄の物をアキラは後ろから履かせる。

 間違っても臀部は見ない、太股だけに視線を集中して。


「――――はい、オッケ。じゃあ肝心の服よ」


「お、おう…………これだ、気に入ってくれると嬉しいんだがよ」


 アキラが見せたのは、ロングスカートの白いワンピースだった。

 気遣いだろうか下着が透けないような生地の、それでいて胸が強調されるようなベルト付きの。


「うわっ、童貞臭っ、アンタこんなの好きなの?? ちょっとマジで童貞丸出しじゃない?? 普通さぁ、こんなの男の欲望叶えましたって服はそうそう着てくれる子なんていないわよ?? ――わたしぐらいなんだから、感謝しなさいよね」


「くッ、…………あ、ありがとう!!」


 悔しそうに口にしたアキラは、ネックレスと麦わら帽子を渡した。


「へぇ~~、ほぉ~~、ふぅ~~ん?? アキラってこんなのが好みだったんだぁ……へぇ~~~~、ね、部屋から出たらさ、次の休みにでもこんなカッコで海デートしてあげようか? アンタってモテないし一度は女の子とデートしとくべきでしょ」


「うぐぐぐッ、調子乗りやがって!! お前もオレに着せろよオラぁッ!!」


 茹で蛸のように赤い顔で叫ぶアキラに、理子はくつくつと笑いながら服を見せる。


「じゃーん、ほら、どうよぉ……!!」


「ええっと、なんだコレ? いつものチャラ男系じゃないってのは分かるんだが……」


「この前、海外のイケオジ映画俳優が着てた感じのコーデよ!! 黒のダブルジャケットと黒パンツ、まぁアンタ背が高いし似合うでしょ。ちゃんと袖口を捲って……わたしがするのかソレ」


 ふんふんふーん、と機嫌良くアキラに着せ始める理子。


(恋人とか妻とか、そんな感じ…………い、いや考えるなッ!!)


 幸せな妄想を必死に振り払って、彼は真顔で言いなりになる。


「上はまぁこんなもんね、後は下…………っ!? ぁ、ぅ、~~~~っ!! わ、わたしも後ろから履かせるから細かい所は任せたわよっ!!」


「わ、分かったぜぇっ!」


 アキラとしては冷静に答えたつもりだったが、盛大に上擦って。

 理子は理子で、今すぐ逃げ出したい気分だった。


(あわっ、はわわわわわわわっ!? ぱおーんって!! なんかスゴいパオーーーーンって!! 太いし長いし!! 昔、一緒にお風呂入った時と違いすぎるんだけどぉっ!?)


 思わず直視してしまったのだ、興奮じょうたいにあるソレを。

 自分の気持ちで手一杯なアキラは、その状態に気づかずにいて。

 それが故に彼女は、彼が平然としているならと指摘せず。


(これオレが持ってるトランクスだな、コイツ手抜きしたな? いやまぁ変なの持ってこられるよりマシだが)


(うっし履いたわね? うん、履いた……なら最後はズボンを…………)


 そうして出来上がったのは、都会デートな格好のアキラと海岸デートな理子。

 二人がお互いの格好を、マジマジと見ていたその時だった。


『ふぉおおおおおおおおお!! エエでエエでぇ!! オッサンはばっちり見とったでぇ!! 初々しくでエモエモエネルギー満タンやで!! ああ~~、これが見たかったんじゃあ~~、都会で格好良く着飾ったカレピとデートしたい、海岸を二人で歩いてデートしたい、ううーん、満足やでオッサンは!! 二人にそれぞれ追加ポイント10づつやったるわ!! 持ってけ泥棒! ほな明日も楽しませてな!!』


「……」「……」


 アナウンスが終わった途端、ぐったりと疲れる二人。

 同時に、紙切れが落ちてきて『プレゼントやさかい持って帰ってな』とメッセージが。


「…………着替えるか」


「そうね、着替えましょうか」


 はぁと、理子が盛大なため息が瞬間だった。

 思わず、アキラはその可能性を考えてしまう。


(コイツに彼氏が出来たら、こんな格好すんのかなぁ……、嬉しそうに着てさ、デートに行くのか?)


 そう考えてしまうと、胸がちりちりと痛む。

 生まれた時から一緒に居ると言っても過言ではない存在を、見た目は美しい幼馴染みを、大嫌いだけど性格は悪くない理子を。


(オレの知らない誰かと、お前はデートに行くのか?)


 そして楽しそうにデートをして、食事の時は食べさせ合ったりして、最後にはラブホで抱かれるのだろうか。

 こんな部屋で、喜んで裸体を晒すのだろうか。


(ッ!! ちっくしょう!! こんな、こんなのってさぁ……嫉妬、してるみたいじゃねぇか。いや嫉妬してんだオレは、見ず知らずの誰かに、オレは、こいつを取られたくないって)


 それはどういう感情なのか、深く考えると感情に、欲望に、嫉妬に、歯止めが効かなくなりそうで。

 衝動のまま、アキラは理子の細い腕を掴んだ。


「あん? 何よアキラ、そんな怖い顔してどーしたってのよ。そんなに気にくわなかったのソレ? 傷つくんだけど」


「違う、……違ぇんだよ理子、そんなんじゃなくてさ」


「なら離してくんない? 着替えられないでしょうが」


 言わなければならない、言っては幼馴染みという一線を越えかねない言葉だ。

 でも、この感情は押さえられない。


(な、何よそんな真剣な顔して……)


 アキラの緊迫した雰囲気に、理子は思わず呑まれてしまって。

 何故だかトクンと心が跳ねる、嫌だ、その目で見つめないで欲しいと不思議な言葉が脳を駆けめぐる。

 何を言うのか、キスされるのか、押し倒されるのか彼女が身構えた瞬間だった。


「――――頼む、オレ以外の前でそんな格好しないでくれ」


「ぇ、ぁ、っ!? ~~~~あ、アキラ? アンタ自分が何を言って……」


「畜生、嫉妬だよッ!! 深く聞くなバカ!! そんな可愛くて綺麗な格好!! 似合ってるんだよバカ!! だからオレの前だけにしてくれって言ってんだよ!!」


「~~~~~~~~~~っ!! わ、分かったから離しなさいよ痛いし顔が近い…………ち、近いのよ顔……、キスする気? い、嫌、そう、まだ嫌なんだから…………」


「…………ごめん、どうかしてた。着替える……」


 掴んだ腕を離す一瞬、彼が切なそうな顔をしたのを理子は見逃さなかった。

 ごそごそと着替える後ろ姿を見ながら、彼女の頬は朱色に染まり。


(ズルい、ズルいわよアキラ……だから大嫌いなのよアンタ…………)


 でも。


(聞こえたから、確かに聞いたから、アンタの前でしか、着ないから)


 本当にどうかしてる、この調子でセックスせずに居られるのか。

 流されている、雰囲気が二人の空気を浸食している。


(うう……胸のドキドキが、止まらない……)


(うわああああああああああああッ、言ったッ、言っちゃったよオレええええええええええッ!!)


(後ろ向いてて良かったわ……絶対今、顔がニヤけてる、うん、何か変な顔してるもんわたし)


(変だと思われたよな、絶対変な空気になるよなこの後!! ど、どーすりゃ良いんだよおおおおおおお!!)


 全力で悶えつつ、静かに着替える二人。

 着替え終わっても、どちらも俯いて言葉を発しない。

 そのまま三十分以上経過し、先に発言したのは理子。


「そ、そうだ! 夜までゲーム大会しましょう!! 今日のポイントでswitchを交換できるみたいだし、マリカーで対戦しましょ!!」


「お、おう! そうだな! 今日はぱぁーっと遊ぼうぜ! メシも豪華に行こう!!」


「賛成! 楽しむわよぉ!!」


 そうして、二日目の二人は逃げるようにゲームに没頭し仲良く寝落ちした。



 ――セックスしないと出れない部屋・耐久生活三日目。

 朝、寝ぼけ眼をこすりながら起きたアキラは、傍らで眠る理子の顔をぼんやりと見つめて。


(…………こいつ、こうしてると只の美少女なんだけどなぁ)


 あどけない寝顔へ自然と手が伸びる、触ると吸いつくような肌。

 その心地い感触の頬を、優しく撫でて。


(睫長いよなぁ……、ホント、あらためて見ると女の子らしいというか)


 顔を近づけてマジマジと、不思議と彼女の寝汗の匂いでさえ甘く感じてしまいそうな。

 寝起き特有のぼやっとした思考状況の中、当の彼女と言えば。


(……――――んんっ!? へっ!? 何っ!? 何なのこれっ!? 何で顔近づけてるのよっ!? は? キス? もしかしてキスしよとしてるのっ!? いったい何なのよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?)


 起きるに起きれず、盛大に困惑していたのだった。


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