〈間奏曲〉16年前のとある研究所

 人里離れた山中に、その研究施設はあった。ある男が、表の仕事である医師の仕事で得た報酬と、同士達からの支援を使って作った施設だ。研究施設と言っても、表向きは診療所という事になっているだけあって、大した規模ではない。だがここで行っている研究は人類を救うはずのものと、男は信じていた。そう、イルカ達から人類を救うのだ。

 今日は男の元に娘が尋ねて来ていた。

「パパ、この前の被検体はどう?」

「ああ、9号の事か。成長した個体に後からインテルフィン配列を組み込む手法は、今回で完璧に確立されたと言って良いだろう。だが、しばらく生活させてみたが、コードVが発動したまったく形跡はない。」

「ふむ……やはりコードを不活性化する何らかの処理を、インテルフィン達が私たちに行ったのかな?」

「まだわからんが、遺伝子を書き換えるウィルスをばらまいた、という説だな。ところで、インテルフィン配列にはどうも別の副作用があるかも知れん。」

「副作用?」

「今回の被験者はもともと非常に外向的な性格だった。そして、正直あまり知能も高くない。借金で首が回らなくなって、自分の体を実験に提供するくらいだ。だが、実験後、性格が少し内向的になり、多少、知能も上がったように思える。」

「気のせいだろう、それは。インテルフィン配列の組み込みは個体の性質自体には影響しない。しばらく病院のベッドの上にいれば、誰でも内向的になるよ。」

「確かにお前の言う通りかも知れん……いずれにしろ、9号は失敗だ。次は、太平洋事変前に保存されていた受精卵や個体を使おうと考えている。」

「不活性化ウィルス説を検証するつもりかい。」

「ああ。合わせて、一から育てるなら知能面も遺伝子改造で強化してみようと思っている。」

「ふむ……知能は後天的な環境の影響を大きく受けるからね。」

「多重ロックの説も消えていない。なんでも試してみないとな!上手くいかなかったら、お前の仕事の助手にでもするか?」

「助手なんていらないよ。それに、センスと人類への愛が必要だ、私の仕事は。ところで、失敗した9号はどうする?健康なんだろう?」

「情報が漏れたら困るから、今度検査で呼んだ時に『処置』をする。」

「残念だ、なかなか素の顔が良かったから。外見のデータだけ欲しい、後で。」

「そんなものは取ってないが……仕方ない、娘の頼みだからな。」

「ありがとう、パパ。生きているうちに取って欲しい、出来れば。」

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