第8話、僕だけが知っている

 家に帰るとリビングに居た妹が全速力で玄関へと駆けてきた。

 興奮した妹の様子に首を傾げながら、僕は履いていたスニーカーへと手を伸ばす。


「お、お兄ちゃん! 聞いて! ――じゃなくて見て! すっごいんだよ!!」

「彩香……どうしてそんなに興奮してるの? 大丈夫?」


「大丈夫じゃないよ! Saraがさっきアップした写真、めちゃくちゃ凄いんだよ! 最高だよ!!!」

「あーSaraさんの新作? それで興奮してたんだ」


 僕は興奮する妹をなだめながら脱いだ靴を丁寧に並べ直していた。


「お兄ちゃん、呑気にしている暇なんてないの! とにかくこれ見てよ!」


 彩香がスマホを差し出してくる。僕はそれを受け取ると画面を見た。


 そこに映し出されているのはさっき僕が姫川さんの家で撮った写真だ。えっちな衣装に身を包んだ姫川さんが、カメラに向かって妖艶な微笑みを浮かべている。


 僕が撮った時はマスクもしないで顔を隠さずそのまま撮っていたのだけど、アップされた写真では編集されて上手に隠して顔バレを防いでいる。僕が帰っている間にパソコンで加工したのだろう。


「それでこれがどうしたの?」

「お兄ちゃんは鈍感だなあ……ううん、美的センスがないっていうか……この写真を見ても何も感じないわけ?」


「うーん、Saraさん可愛いよね。新しい服もすごく似合ってるし」


「そうだけどそれだけじゃないのおおお!! Saraちゃんの可愛さもコスチュームのクオリティも半端じゃないけど、写真の撮り方とか構図が凄すぎるの!! 今までSaraちゃんは自撮り写真ばかりだったけど、今回アップされたのはちゃんとカメラマンさんがいるみたいで、しかもそのカメラマンさんの腕前がやばすぎるの!! SNSで話題沸騰だよ! 超新星エロコスプレイヤーに続いて謎のスーパーカメラマンが現れたって!!」


「へえ、そうなんだ。その写真ってそんなに良く撮れてるんだね」

「はあ……お兄ちゃんは本当に分かってないなぁ……最高のコスプレイヤーに最高のカメラマンの組み合わせで世界の法則が覆るレベルで凄いのが分かんないなんて」


「大げさだなあ。Saraさんはともかく、カメラマンの人はそれ普通に撮ってるだけだよ」

「ばかばか! これが普通ってお兄ちゃんの常識はどうなってるわけ!?」


 お兄ちゃんの常識、って僕が何気なく撮ったものだからそれが僕の常識なんだけど――とは言えず僕は彩香の言葉を黙って聞いていた。


 何を言っても分かってもらえないと観念したのか、妹はため息まじりにリビングへと戻っていく。


 僕は夕飯の支度でもしようかとキッチンへと行こうと思った時だった。

 

 スマホに通知が来る。姫川さんからのメッセージだった。


『武森、今日はありがとね。おかげで良い写真が撮れて、フォロワーのみんなからもすごい大反響だったよ!』


 妹の反応からも想像出来たけど、姫川さんのファンからしたら今日撮った写真は彼らの常識を覆す程のものだったらしい。何だかむず痒い感じがして変な気分だ。


 そして姫川さんから感謝のメッセージが届いて嬉しく思いつつ、僕はそのメッセージに返信しようとスマホの画面をスクロールさせて気が付いた。


 写真が一枚添付されていて一緒にメッセージがいくつか並んでいる。


『今日のお礼にこの写真送っておくね。他の誰にも見せちゃ駄目だから、武森だけのものにしておいてね』


 僕はそのメッセージと共に姫川さんが送ってくれたお礼の写真を見てしまう。


 それは姫川さんのえっちなコスプレ写真。けれど僕が撮ったものではなかった。姫川さんが自分で撮ったもので――それはネットには絶対にアップ出来ないような代物だった。


 さっきまで僕が見ていたえっちな衣装を着て、胸を隠す為に被せていた薄い布をぺらりとめくった姫川さん。


 彼女からのお礼の写真には、柔らかな白い肌とメロンみたいな豊満なおっぱいが隠すことなくそのままに映し出されていた。


 撮影の時は布の下に隠れて見えなかった姫川さんのおっぱい――たわわに実っていて白くて柔らかそうで見ているだけで心臓が跳ねてしまう。


 それに桜色のまん丸としたデカ乳輪をぷっくりと膨らませて、その先っぽにある勃起した大きな乳首を指で摘んで弄りながらカメラの向こうにいる僕を挑発していた。


 学校の人気者である姫川さんが、こんなえっちなおっぱいだったなんて知らなくて息が荒くなる。可愛らしさよりもひたすらにエロさを感じさせるようなおっぱいだった。


 そしてSNSにアップされた写真と違って、姫川さんは顔を隠していなかった。カメラの向こうの僕に向けて『これからもよろしくね♡』とメッセージを添えて、可愛い笑顔を浮かべている。


 そのえっちな写真を見て僕は改めて実感するのだ。


 隣の席の姫川さんが実は超有名なエロコスプレイヤーだって事を、この世界でただ一人、僕だけが知っているって。

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【完結】隣の席の陽キャJKが超有名なエロコスプレイヤーだって事を、この世界でただ一人、僕だけが知っている そらちあき@ラブコメの悪役、8月9日発売 @sorachiaki

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