第7話、持っていた才能
「武森、すごいよ! めっちゃ綺麗に撮れてる! これならたくさんの人から良い反応が貰えそう!」
保存データをパソコンに取り込んだ後、さっき撮った写真を確認している最中。
着替えを済ませてTシャツに短パンの部屋着姿の姫川さんは興奮した様子で僕を褒めちぎってくれた。どうやら僕の撮った写真は姫川さんの想像以上の出来栄えのようで、その一枚一枚をじっくりと見つめながら姫川さんは満足げに笑っていた。
けれど僕はパソコンのモニターに映った写真の数々をしっかりと見る事が出来ないでいた。えっちな服装に身を包んだ姫川さんの妖艶な姿が映し出されていて、そのどれもが僕には刺激的過ぎたからだ。
それに撮影した写真を見ていると、さっきの光景を思い出してしまう。僕はこの目で姫川さんのえっちな姿を直接見てしまったのだ。学校では決して見れない姫川さんの艶やかな姿、脳裏に焼き付いて離れない光景、思い出すだけで心臓の鼓動が激しくなっていくのを感じる。
そんな僕の心境など知る由もなく、姫川さんはマウスを操作して次々と写真ファイルを開いていった。
「ねえ武森、こうやって誰かを写真で撮るのって初めての経験なんだよね?」
「え……あ、うん。初めてだよ、スマホで道端の花とかを撮った事はあるけど」
「その写真って見せてもらえたりする?」
「いいよ、大したものはないんだけど」
僕はスマホを取り出して、以前に撮った花の写真を姫川さんに見せた。
コンクリートの道路の僅かな亀裂に芽吹いた小さな白い花の写真、それを見た姫川さんは小さな息をこぼしていた。
何か変なものでも写っていただろうかと不思議に思って聞いてみる。
「あの、どうかした? おかしいものでも映ってたかな……」
「ううん、違うの。ちょっと感動してただけ。構図とか凄すぎるよ、ただ撮っただけって感じじゃないの。この白い花の小さな命が必死に生きてるって、ここに確かに存在しているって、たった一枚の写真なのに物語を感じちゃったの」
僕が何気なく撮った写真を眺めながら、姫川さんは感動と共に声を漏らす。
そこまで褒めてもらえるなんて思っていなくて、なんだかくすぐったい気持ちになってしまう。
「武森、これってきっと才能だよ。初めて撮っただなんて、そんなふうには絶対に思えないもん。だってさ、武森はカメラを通してわたしに魔法をかけてくれるの。わたしの事をこんなに素敵で綺麗に、可愛く撮れる人は武森以外にはいないと思う」
「そ、そうかな……? でも姫川さんのポーズとか表情とか衣装が完璧だったから、僕もそれに合わせようって思って頑張ってみただけで」
「それなら尚更だよ。武森が撮ってくれた写真、本当に素敵なのばっかりだった。わたしがコスプレイヤーとして活動し始めて、今まででいっちばんの写真ばっかりだもん」
「そこまで褒めてくれて嬉しいな。姫川さんだって凄かったよ。可愛いし色んなポーズも決まってて、ゲームの中のキャラクターが目の前にいるみたいで。カメラで撮りながら感動してたんだ。本当に姫川さんは凄い人だなって。さっきの撮影の時間はまるで夢を見ているみたいだった」
僕は正直な感想を口にする。すると姫川さんは頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに目を逸らしてしまった。
「た、武森にそこまで言われるなんて。わ、わたしも夢を見てるみたい……」
僕の前でもじもじと指先を動かしながら、姫川さんがそんな言葉を呟いてくる。どうしてこんなに照れているのか良く分からないけど、姫川さんが喜んでくれているみたいで僕も嬉しかった。
そして姫川さんは意を決したようにぎゅっと目を瞑った後、突然僕の手を握ってきた。
彼女の体温が伝わってきて、僕の手が熱くなっていく。
驚いて姫川さんの顔を見ると、彼女は真剣な表情で僕の瞳を覗き込んでいた。宝石のようにきらきらと煌めく姫川さんの双眼、その美しさに吸い込まれてしまいそうになりながらも彼女の視線を受け止める。
「あのね。もう一度ちゃんとお願いしたいの。武森は真面目で優しくて約束だって決して破らない、そしてそんな信頼出来る武森が撮ってくれる写真は、わたしの想像のずーっと上をいく凄い写真ばっかり。ねえ武森。わたしのパートナーになって、これからもずっとずっとわたしの写真を撮って欲しいの」
姫川さんは緊張した様子で、けれどはっきりとした声でそう言ってきた。
真っ直ぐに向けられる姫川さんの想いが、僕の心に響き渡っていく。
誰からも慕われて愛されて、学校のアイドルとしてきらきらと輝く姫川さん。
そんな彼女が僕の事を信頼してくれて、僕の撮った写真に感動してくれた。その事実は僕の心を激しく揺り動かしていた。
姫川さんの期待に応えたい、姫川さんの力になりたい、そんな気持ちが強く湧き上がってくる。
「うん、僕で良ければこれからも協力させて欲しい。姫川さんと一緒に頑張れたら僕も凄く楽しいし」
「武森……」
僕と姫川さんは見つめ合う。
そうしているうちに姫川さんは口元は緩んでいった。
緊張の糸が切れたかのようにふにゃりと表情を崩した後、姫川さんは子供みたいな無邪気な笑みを浮かべていた。
「ありがとね、武森。わたし、すっごく嬉しいよ。これからもよろしくね!」
満面の笑顔と共に放たれた姫川さんの言葉は僕の心を強く打っていた。
夏休みのあの日、姫川さんと会えて良かった。彼女の可愛らしい姿を撮影出来て本当に幸せだったと改めて実感させられる。
「武森から素敵な写真をたくさん撮ってもらう為に、もっと良い写真をいっぱい撮って貰えるように、わたし頑張るから! 素敵な衣装を作って着こなして、もっともっと可愛くなるからね!」
「うん、僕も姫川さんの魅力を引き出せるようにもっともっと上手くなって、見てくれる人達をうんと驚かせるような写真を撮ってみせるよ」
「武森……ありがとう。わたし達で力を合わせて最高の作品を作ろうね」
姫川さんは楽しそうに笑いながら、ぎゅっと握った手に力を込めてくる。
それが嬉しくて僕も彼女の手を握り返した。
そしてこれは二人だけの秘密。
隣の席の姫川さんがえっちなコスプレイヤーで、そんな彼女の素敵な写真を撮るのは僕。
誰にも言えない秘密の関係はこれからも続いていく。
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