最終話 僕の大失敗。近くて遠い距離な姉ちゃん。

 いつもは殺風景な玄関が、飾られた大きな花束で華やいでいる。


「ただいま」

「おかえり」 


 姉ちゃんが僕より早く帰ってるなんて珍しい。

 姉ちゃんは晩御飯のカレーを作っている。

 すごくいい匂いだ。


「今日は早いね」

「うん。半休とって真一とデートしてきたの」


 僕はゴツと頭を叩かれたみたいな衝撃があった。

 覚悟はしてた。

 まあ彼氏とデートはするわな。

 はあ、大人は仕事を半分休んでデートをしたりするのか。

 僕が知らないうちに二人は楽しく過ごしてる。

 

 それに「真一」って呼び捨て?

 どんどん親しくなっているのがショック。

 僕は置いてきぼりをくらって姉ちゃんと距離が離れてしまう気がする。


「玄関の花束ってもしかして」

「真一からのプレゼント」


 はあ。そうですか。

 僕はしょんぼり。


「ご飯もう出来るから手を洗って着替えといで」


 普段はお母さんみたいな姉ちゃん。

 今日は姉ちゃんがご機嫌で嬉しい。

 でも、あいつのお陰かと思うとムシャクシャした。




 ひとつ屋根の下に大好きな人がいる。

 好きな人とこんなにも近くにいられるって幸せだ。

 だけど僕の嫉妬の思いは日に日に強くなる。



 今日はお父さんは残業で帰りが遅い。


「「いただきます」」


 僕と姉ちゃんは先に晩ご飯を二人で食べる事にした。


「そうだ姉ちゃん。僕バイト受かったから来週から行くよ」


 カレーを口に頬張る。

 姉ちゃんのカレーは隠し味の林檎が効いていて美味いっ!

 今日はチキンカレーだ。


「そっかあ。本屋さん?」 

「そっちは受からなかった。チョコの箱詰めとパン屋さん」

「えっ? 二つも掛け持ち?」

 姉ちゃんはびっくりしてすぐに心配顔になった。


「そんなに心配しないで。無理はしないよ」

「タケル本当に無理しないでよ?」 


 僕としては働いて早く姉ちゃんとお父さんをどこかへ連れて行ったり何かプレゼントしてあげたい。




 ご飯を食べ終えて二人で洗い物をした。

 僕には至福の時間だ。

 

 洗い物が終わり姉ちゃんがパソコンで調べものをし始めた。


 僕はその時大失敗を起こしていた事に気づかなかった。

 気づいた時には遅かった。

 

「ねえ、……タケルさ、これ調べた?」 


 パソコンには検索履歴が出てる。


(しまった! 僕、検索履歴を消し忘れてたんだ!)


 誤魔化しきれない。

 パソコンには【血が繋がらない姉弟は結婚できるか?】ってしっかり出てしまっていたから。


 怖かった。

 どんな反応されるのか。

 姉ちゃんを姉として見てないなんて嫌がられる。


 だって本当の姉弟のように育ててもらってるんだから。

 その範囲を超えちゃいけない。

 どうしよう、どうしよう。

 怖すぎて姉ちゃんの反応が見られない。

 僕は部屋に走った。

 僕の部屋は引き戸で鍵が無いがドアを閉める。


「タケル。ちゃんと話そう?」


 僕のことを姉ちゃんは追いかけてきた。

 姉ちゃんはドアはまだ開けない。


「姉ちゃんは気持ち悪いだろっ? 僕が姉ちゃんを好きなんて」


 僕は久しぶりに泣いていた。


「そんな事ないよ」


 落ち着かせようとしてくれてる。

 ゆっくりと言い聞かせるような口調。


「嘘だっ!」


 ドアが開いた。

 姉ちゃんは少し泣きながら笑ってた。

 僕の頭を撫でて抱きしめてくれる。


「私だってアンタのこと好きだもん」

「えっ?」

「タケルに好かれて気持ち悪いわけないじゃない。ごめんね。気持ち隠してるの辛かったでしょ?」


 ――姉ちゃんは大人だ。


 僕はずっと姉ちゃんの腕のなかで泣きじゃくっていた。

 男なのに高校生なのに僕は声を上げて泣いてる。

 恥ずかしいけど止まらない。


「今はね、私の事好きなのはどんな好きかってたぶん判断できないと思う」


 僕が顔を上げるとキスできそうなぐらいの距離に姉ちゃんの顔がある。

 そのまま姉ちゃんにキスしてみたかった。


「お互いの好きがどんな好きなのか分かって、想いが一緒になる時が来るならそれも。……結婚とかもありかなと思うよ」


 僕を傷つけないよう言ってるのが痛いほど分かる。


「僕がお母さんもお父さんも死んじゃったから姉ちゃんは同情してるの?」


 ううんと姉ちゃんはかぶりを振った。


「私もお母さん死んじゃってるからタケルの気持ちは分かるよ」

「僕が姉ちゃんを好きなのは母親代わりだと思ってるの?」


 一緒に暮らしてなかったらこんなに複雑じゃなかった。

 だけどこういう運命じゃなきゃ出会う事すら僕らはなかったかもしれない。


「今の私のタケルを好きな気持ちは弟としてだと思う」


(だけどこれから先、僕を男として見てくれる時があるかもしれないでしょ?)

 姉ちゃんに言いたい。

 でも姉ちゃんをこれ以上困らせたくない。


 姉ちゃんを抱きしめ返すと少し落ち着きすっきりしていた。

 やっと好きだって気づいてもらえて何だかホッとしてたんだ。


 僕は、姉ちゃん改めて決意したよ。

 僕の姉ちゃんへの恋しい気持ちは消せない。


 まずは真一に勝つ。

 沢渡さんからの告白問題もあったな。


 そんなに簡単には悩みは解決しないけど。

 いつか姉ちゃんに相応しい男になるから、真一より僕を選んで欲しい。


 秘密の恋は継続中。

 諦めるつもりなんて無いんだ。



       了


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僕の恋する姉ちゃん〜これは誰にも言えない秘密の恋〜 桃もちみいか(天音葵葉) @MOMOMOCHIHARE

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