第8話 僕を悩ます真一と沢渡環

 委員室には誰もいなかった。


 沢渡環は耳も真っ赤になって俯いている。


「僕は今誰かと付き合うとか考えられなくて」


 うんうん。この回答が無難だよな。

 これなら相手も傷つかないんじゃないかな?


「知ってます」

「えっ?」

「成瀬君はアイドルオタクで普通の子に興味ないって」


 何っ、誰がそんな事を。


「誰が言ってたの?」

「三浦君が」


 三浦の奴め〜。

 だがアイドルみたいに手が届かないってとこは同じか。

 うちの事情を知ってる三浦にだって姉ちゃんが好きなんて言わない。


「あとお姉さんが可愛いから理想が高いって」


 そこは合ってる。


「そんな話が出来るなんて三浦と仲いいんだね」


 沢渡さん、出来たら三浦の方を好きになってくれ。

 僕はとうてい無茶な事を心で願った。


「ああ。三浦君とは従兄弟だから」


 なんだ、がっかり。 

 とりあえず好きなアイドルを本当に作ろう。

 誤解だがそれでいいや。

 それなら誰とも付き合わない理由になるはず。


「好きな人がアイドルなら私にもチャンスがあるよね!」


 沢渡環が一人で盛り上がっている。

 おーい。

 僕は付き合いませんよ、誰とも。姉ちゃん以外は。

 僕はうまく断る理由が見つからず途方に暮れた。

 沢渡環は僕が好きなのがアイドルなら頑張ればなんとかなると思ったのか、意気揚々と委員室から帰って行った。

(うわっ。やばくないか?)

 僕は初めて告白というものをされたので対処法がまったく分からない。


 誰か教えてくれ〜!

 ……だめだよな?

 姉ちゃんに相談にのってもらうなんて。

 ちょっと姉ちゃん反応が見れるかもと思ってしまった。

 だけど一生懸命に僕に告白してくれた沢渡さんに悪い気がする。


 僕を思ってくれる純粋な気持ち、姉ちゃんを試すためのネタみたいな扱いになってしまう。


 やっぱ、やめやめ。


 僕が自分でしっかり誠実に考えなくちゃ失礼だ。


 僕に大きくのしかかる問題。

 姉ちゃんの彼氏の真一。

 僕に告白してくれた沢渡さん。


 悩みが一つ増えたことは間違いない。

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