幕間:憧れの職業

「ふぅ。一気に駆け足で語っちゃったけど、ミサキに伝わったかしら?」

「はい!ありがとうございます!」


 美咲の相変わらず屈託のない笑みに、フィリーネとアンナは互いに視線を交わすと、安堵の笑みを見せた。


「因みに、ミサキ様は何か気になる職などございましたか?」

「気になる職業ですか? そうだなぁ……」


 アンナの問いかけに、顎に手を当て少し考え込んだ美咲は、


「……付与術師、かな」


 ぽつりと自信なさげにそう答えた。


「あら。運動が得意な貴女だから、てっきり戦士系に流れるかと思ったのだけど」


 予想外の回答に、不思議そうな顔をするフィリーネを見て、美咲は小さく苦笑いする。


「私も最初はそう考えたんですけど、直接戦うっていうのはやっぱり怖いなって」

「であれば軽業師などは?」

「それも考えました。でも、身軽さは確かに魅力ですけど……」


 そこまで口にした美咲は、一度ティーカップを口に運んで紅茶を一口含んだ後、手を添えたままそれをテーブルに戻すと、テーブルに視線を落とす。


「……できたら私、すぐ皆さんのお役に立てたらなって、思うんです」


 ふっと小さく笑う美咲を見て、フィリーネとアンナは同時に察する。彼女の心根の優しさを。


「……まったく。貴女もカズトと変わらないのね」

「本当ですね」

「えっ?」


 突然二人から掛けられた意外な言葉に、美咲が思わず顔を上げると、フィリーネは肩を竦めながら、アンナは彼女らしい落ち着きを見せたまま笑みを向けてくる。


「こういう時は後悔しない為、自分のなりたい職を素直に答えればいいのに。一々私達に気なんか遣わなくていいのよ。ね? アンナ」

「はい。ミサキ様が私達わたくしたちやカズトの力になりたい気持ちは嬉しいのですが、もし冒険者となられる際はそのような気持ちはお捨てください。貴女様の将来を決める大事な選択なのですから、後悔のないようしっかり考えてみてくださいませ」


 二人の言葉に美咲ははっとする。

 確かに自分は、すぐにでも皆の力になりたいと思っていた。だからこそ、カズトが認めてくれた巻物スクロールを使える才能を活かせたらと考えていたのだ。


  ──後悔のないように、か……。


 美咲は自問自答するように、心で独りごちると、「はい!」と元気な返事と共に、二人に向け笑みを向けた。

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異世界フェルナード勉強会 しょぼん(´・ω・`) @shobon_nikoniko

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