第8話 英雄テッド・リターンズ

 僕が家に帰ると、妹が出迎えてくれたのだが…

 僕を見るなり卒倒しそうになっていたので、僕は慌てて抱き止めた。


 「お兄ちゃん! その腕はどうしたの⁉」

 「魔物との戦いで…ごめんな、今日は食材を獲って来れなかった。」

 「家にはまだ余裕があるし、お金も問題ないけど…腕は大丈夫なの?」

 「折れているみたいでね…しばらく仕事は出来そうもないかな?」


 リットは僕の左腕をさすりながら言った。


 「お兄ちゃんは…冒険者になってから、毎日休まずに私達の為に頑張って来たんだから…少しくらい休んでも平気だよ!」

 「さすがに治るまで…というのは休み過ぎだから、他に簡単な仕事が無いか探してみるよ。」


 すると、僕達の声がうるさかったのか…ルットとロットも部屋に入って来た。


 「ルット、ごめんな! お前が作ってくれた服…破けちゃった。」

 「服は直せるから平気だけど…この爪の後は何? お兄ちゃんは何と戦って来たの⁉」

 「それは…あ、ロットのブレスレットは凄いな! 火傷したのに治ったよ!」

 「気休めだけど祈りを込めておいたから…」


 僕はロットから貰った左手のブレスレットを見ると、紐が切れて地面に落ちた。

 どうやら、役目をはたして効果を失った様だった。


 「今度はもっと丈夫な物を作るね!」

 「うん、楽しみにしているよ! それと、リット…」

 「なぁに?」

 「お腹減った…御飯お願い!」

 「もう…お兄ちゃんったら!」


 そんな会話をしていると、家の扉がノックされた。

 ロットが出ると、来客を連れて部屋に戻って来た。


 「冒険者テッド・リターンズ! ギルドマスターがお呼びです。 大至急、冒険者ギルドにお越し下さい!」

 「へ? ギルマスが?」

 「お兄ちゃん、何かしたの?」

 

 思い付く事としたら…やっぱり依頼失敗の件かな?

 初の依頼失敗で違約金を支払ったから、もしかするとギルドランク降格かな?

 

 「それと…ご家族の方も一緒にと!」

 「え? 私達も⁉」


 妹達まで呼ばれるという事は…もしかして、ギルドカード剥奪だろうか?

 今後の稼ぐ方法を考えないといけないな…


 「わかりました、大至急用意します!」

 「私達も用意してくるね。」


 そういうと妹達は部屋に入って行った。

 僕は布の服は無いので、普段着と一応剣を装備した。

 妹達の準備が出来ると、家に鍵を掛けてからギルド職員に着いて行った。

 そして冒険者ギルドに着くと、ギルド職員が扉を開けて中に入る様にと指示された。

 僕と妹達が冒険者ギルドの中に入ると、冒険者達が花道を作ってくれていた。

 そして冒険者達は拍手をして迎えてくれたのだった。

 

 「あぁ、やっぱり除名処分か…」


 僕は受付まで辿り着くと、ライラさんとギルマスに深々と頭を下げた。


 「本日は依頼を失敗してしまい、大変申し訳ありませんでした! そして今までお世話になり…」

 「お前は何を勘違いしている⁉」

 

 僕は頭を上げると、ギルマスの横に先程会った…ティーダス公爵と女の子と男の子がいた。

 

 「まずは俺からだ! 数々の勇敢なる冒険者達がこの魔獣に挑んで殺されて行った。 だが、その者達の仇を取ってくれた者…テッド・リターンズを現在Gランクから昇格し、Cランクとする! 反論のある者は名乗りを上げよ!」

 

 すると、誰も名乗りを上げる者はいなかった。


 「いないな? なら、テッド・リターンズが倒した魔獣には懸賞金が掛けられていた。 この銀貨5000枚を一緒に進呈する!」

 「え? 銀貨5000枚⁉ それに魔獣って…」


 すると、ホールの中から歓声が巻き起こった。

 僕は銀貨の袋をリットに渡した。


 「それともう1人、テッドにお礼を言いたいという人物がいる!」

 「テッド君…やっと名前を聞けたね!」

 「こ…公爵様!」


 僕と妹達、そして冒険者達は跪いた。

 だが、ティーダス公爵は僕の手を取って立ち上がらせた。


 「跪く必要はない。 君は私の娘と息子の命の恩人なんだ。」

 「いえ、そんな…」

 「謙虚だな! 気に入った! 私…ティーダス・グランベリオンの名において…テッド・リターンズに冒険者殺しの魔獣を討伐した功績を称え、英雄の称号とお礼の品を渡そう。 お礼の品に関しては手渡しという訳にはいかないから、明日家に届けるとしよう。」

 「僕が…英雄?」


 すると、冒険者達がギルド内が震える程に歓声を上げた。

 そしてティーダスは、手を叩いてから静かにさせると、騎士達に合図をした。

 騎士達は大きな樽を用意してギルド内に入って来た。


 「今宵は英雄テッドを祝う席として、上等のワインを用意した。 それらは全て私から皆に振舞う物だ。 遠慮なく飲んで楽しんでくれ‼」

 「「「「「おおおおおおおお!!!」」」」」


 そして樽から全ての冒険者にジョッキが渡ると、ティーダスはジョッキを掲げて言った。


 『新たな英雄、テッド・リターンズに‼』

 「「「「「英雄テッドに!!」」」」」


 こうして、ギルド内はどんちゃん騒ぎになっていた。

 僕は酒が飲めないので、果実を絞った飲み物を飲んでいた。

 妹達も果実の絞り汁と出された料理を食べていた。


 「テッド様…」


 僕は後ろから呼ばれて振り返ると、そこには公爵令嬢のセリアがいたのだった。


 「これはセリア様!」

 「テッド様、もう一度お礼を言わせて下さい。 この度は本当にありがとうございました。」

 「いえいえ、僕は別に…」

 「ほら、アートも挨拶をして!」

 「テッドお兄ちゃん、ありがとうございました!」

 「アート様、無事で良かったです。」


 参ったなぁ…祝ってくれるのは嬉しいけど、全然寛げないし食事も出来ない。 

 僕は逃げる様に受付に行くと、ライラさんからお金を渡された。


 「あの…ライラさん、これは?」

 「今日の違約金です。 あんな事情があったのですから、違約金は返却されます。」

 「良いのですか? 依頼人が…」

 「その依頼人からですよ。 それと、薬職人のピエールさんからこれを…」

 

 僕はライラさんから水色の小瓶を受け取った。


 「ライラさん…これって、ポーションでは?」

 「そうです! 依頼人のピエールさんから、いつもお世話になっているテッド君にと。」

 

 遠慮をするのは悪いと思って、僕はポーションを一気に飲み干した。

 すると、左腕に痛みと熱さが走ったが…折れていた骨が完治したのだった。


 「あの…ライラさん、このポーションって…かなり高い物では?」

 「はい、上級ポーションです!」

 「上級ポーションって…銀貨5枚もするポーションじゃないですか⁉ こんな高価な物、払えませ…あ、払えるか!」

 「いえいえ、ピエールさんからテッド君にとね。 いつも必要以上の薬草を納品してくれるので助かっていると言っていまして、そのお礼だそうです。」

 「そういう事なら…お礼を言っておいて下さい。」


 僕はギルマスの方を見ると、公爵様以外に数人の人と話をしていた。

 その数人が僕の所に来て、魔導撮影機を向けると…目が眩む光が出たのだった。

 そしてすぐにギルドを出て行った。


 「ギルマス…あの人達は?」

 「テッドか…お前、明日から大変だぞ!」

 「へ?」

 

 そういってギルマスは、皆の所に行って酒を飲んでいた。

 明日から大変?

 僕がその理由を知るのは、翌日になってからだった。

 その後…僕は碌に食事を摂れないまま、宴会はお開きになり…家に着いた頃にはすっかり遅くなっていた。

 リットが気を利かせてくれて、ギルド内で出た料理を持ち帰ってくれたので、それを食べてから眠りに就いた。


 ・・・・・・・・・翌日・・・・・・・・・


 僕はルットに起こされて、居間に行った。

 すると、テーブルの上に新聞が置かれていた。

 その表紙には、僕の写真が載っていた。


 「なんだこれ?」

 「お兄ちゃんの事が載っているのよ。」


 僕は新聞を見ると、こう書いてあった。


 【クレーメルの冒険者ギルドから新たな英雄が現れる! その名はテッド・リターンズ!】

 

 「は…はぁ~?」


 内容を読むと、昨日の出来事が事細かく書かれていた。

 そうか…昨日ギルマスや公爵様と話していたのは記者だったのか。

 確かに今日から大変な事が起きそうだな…?

 だけど、今日は依頼を休んで買い物をしようと決めていた。


 「あ…あれ? 何か変わってない?」

 「公爵様の使いの方という人が来てね、キッチンが魔導キッチンに、魔導冷蔵庫も持って来てくれて…更にお風呂と水とお湯の出る魔道具と、魔導式トイレも…」

 「公爵様のお礼って、この事だったのか…?」

 

 これ…全部揃えたら幾らするんだろう?

 さすがに貰い過ぎだと思った。


 「お兄ちゃん、今日はどうするの?」

 「ちょっと待って、驚きすぎて考えが纏まらないから…」


 えっと、確か今日は…?

 そうだ! 依頼を休んで妹達の買い物をしようと思ったんだっけ?

 そして僕は用意して扉に行くと、扉もより強固な扉に変化していた。

 更に鍵は魔導キーだった。

 僕は家の中を色々見回ると、窓や屋根も強固な物に変化しているのだった。


 「公爵様は…どれだけの事をしてくれたんだ?」

 

 しかも僕が寝ている間に…

 僕は驚きすぎて疲れた。

 そして妹達の用意が終わると、扉から出ようとした。

 そして扉を開けると、家の前には大勢の人達が待ち構えていた。


 「お前…明日から大変になるぞ!」

 「ギルマスの言っていた事は、こういう事だったのか!」

 

 僕は扉から出られずに悩んでいた。

 

 「さて、どうやって外に出ようかな?」

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