第7話 二人のグランベリオン

 冒険者ギルドのギルドマスターテスタは…現在、資料整理に追われていた。

 ガタイが良く、顔は強面で…凶悪犯とか犯罪者とか色々言われているが、実は…?


 「ギルマス! 宜しいでしょうか?」

 「ライラか? どうした…?」

 「公爵家の方がいらしております。 グランベリオン御当主の公爵様が…」

 「はぁ、通せ…」


 扉から入って来たのは、先程のティーダス公爵だった。


 「兄貴…随分久しぶりだが、今日は何の用だ?」

 「そう嫌そうにするな、弟よ…実は今日は話が合って来たのだ。」

 「父さんの当主の座を兄貴が継いだ…俺は家を飛び出したんだ、もう家の事とは関係ない筈だが?」

 「あぁ、今日来た要件は家の事ではない。 実はな…今日娘のセリアと息子のアートが魔獣に襲われてな…」

 「兄貴の子供達なら、護衛の騎士団がいるだろ? そいつらはどうしたんだ?」

 「全滅だった。」

 「はぁ? 公爵家の騎士団がか⁉ そう言えばさっき魔獣と言っていたな?」

 

 公爵家の騎士団は、王国の騎士団に相当する強さを誇る者達だ。

 それが魔獣に全滅だと⁉


 「ルーカスの話によると、マーダーグリズリーという魔獣だったという話だ。」

 「あの、冒険者殺しのか?」

 「あぁ、数々の勇敢な猛者達が挑んで殺されて行ったという懸賞金の掛ったな…」

 「それで、セリアやアートは無事なのか⁉」

 「無事だ! ここの冒険者ギルドの者に助けて貰ってな…しかも、マーダーグリズリーを討伐したのだ!」

 

 俺の所のギルドの奴で冒険者殺しを倒せる程の奴がいるとすれば…?

 Aランクのローグか?

 Sランクのクレストル…は、別大陸にいるか。

 あと考え付くとしたら…誰だ?

 テスタは茶を口に含みながら考えていた。


 「テスタよ! あの少年を紹介してくれ! セリアと同じ位の少年を…その少年がマーダーグリズリーを単騎で討伐したんだ‼」

 「ブゥハッ!」


 テスタは口に含んでいた茶を一気に吹いた。

 そして信じられない表情でティーダスを見た。


 「セリアってまだ10歳位だよな? それと同じくらいの少年って…?」

 「あぁ…名前を聞こうとしたのだが、名を名乗るほどの者では無いと言って去って行ったんだ。 怪我を治療させてくれと言ったら、冒険者は自己責任が基本だと言っていたので、お前の所の冒険者なんだろ?」


 セリアと同じ位の少年って…テッドしかいねぇじゃねえか‼

 公爵家の騎士団が全滅させられて、数々の冒険者を殺してきたマーダーグリズリーを単騎討伐しただと⁉

 訳が分からねぇ…一体どうなっていやがる⁉


 「確かに兄貴の言った少年は、俺のギルドに所属しているが…紹介して、その後どうするんだ?」

 「彼にはちゃんと礼を言っていなかった。 なのでお礼を言いたいのと…彼が何者かを知りたいんだ!」

 「少年の名前はテッドだ。 テッド・リターンズ…兄貴ならリターンズ家の名前なら知っているだろう?」

 「リターンズって…あの少年は、バットン殿の御子息か?」

 「そうだ。」

 「数々の遺跡の謎を解き明かして、国王陛下から聖剣を授かったという?」

 「そう…そして、テッドの母親はカノンだ。」

 「カノン…ティスタニア公国の聖女様か!」

 

 ティーダスは震えていた。

 それは寒さや恐怖から来る震えでは無く、偉大な英雄の血を引く2人の子供という事に…


 「テスタ! 是非とも英雄殿の御子息を紹介してくれ‼」

 「いや、待て兄貴! テッドには…いや、子供達にはあの2人の詳細は伏せてあるんだ。 バットンからの頼みでな! バットンとカノンはあくまでも冒険者だった…それ以外の情報は伏せているんだよ!」

 「事情があるのか?」


 テスタはティーダスに、バットンからの詳細の一部始終を全て話した。

 ティーダスは悩みぬいた末に頷いたのだった。


 「事情は分かった…なら、マーダーグリズリー討伐の懸賞金を与える位なら構わないだろ?」

 「現在の懸賞金は、確か…銀貨5000枚だったな。」

 「それと、私の子供達を救ってくれたお礼と…魔獣殺しの称号を与えたいと思うのだが…」

 「兄貴…その礼だが、まさか白金貨でも渡す気か?」

 「それ位の価値はあると思ったのだが…」

 「あの子達には両親が居ないんだぞ! そんな大金を渡したら、あの家に強盗が入るだろ⁉」

 「ならどうする?」

 「金は俺が預かっておいてから、あの子達が成人になったら渡すという形をとるよ。 バットンからも成人になったら渡して欲しいと頼まれている物もあるしな…」


 テスタは部屋の隅にある2本の剣を見た。

 

 「なら…今渡せられる別の物として、何か良い物は無いか?」

 「テッドは最近…魔物を多く狩るからな。 魔物肉を保存出来る魔導冷蔵庫とか、魔導キッチンとか…」

 「そんな物で良いのか⁉ なら、最上級の物を…」

 「あのなぁ…バットンの家の大きさを考えろ! 普通の家に貴族で使っている魔導冷蔵庫や魔導キッチンが入るか‼」

 「解った…一般家庭用の魔道キッチンと冷蔵庫を用意しよう。」

 「それとだな…」


 テスタは棚から2つの壺を取り出した。

 ティーダスは、壺の蓋を取って中身を確かめた。


 「これは…塩か⁉ なんてきめ細かく白いんだ! それにこのビネガーは…かなり上質な物じゃないか⁉ これはどうしたんだ?」

 「テッドが街で噂になっている調味料の少年だ。」

 「なんと! あの少年が神託で調味料というスキルを授かったという少年だったのか!」

 「兄貴の目から見て…この2つは売れると思うか?」

 「これだけ上質な物なら、名のある料理人なら殺到するだろう。 他には無いのか?」

 「今は何とも言えない。 あいつの調味料を覚える方法はレベルが上がる事で覚えていくらしいんだ。 だから、今回のマーダーグリズリーを討伐したとなると…かなりのレベルアップをしているとは思うんだが?」

 「解った! こちらの商品の販売ルートを確保しよう。 それと、マーダーグリズリーの死体だが…ホールに置いても構わないか?」

 「持って来たのか…まぁ、構わない! それと、ライラ!」


 テスタが叫ぶと、ライラが扉から入って来た。


 「大至急、ギルド職員をテッドの家に迎えに行って来い!」

 「一体どうしたのですか?」

 「テッドが…冒険者殺しの魔獣を単騎討伐しやがったんだ! いま、公爵家の騎士団がマーダーグリズリーの死体をホールに置くのでそれを確認しろ!」

 「は、はい!」


 ライラは扉から出て行って、下の階では大騒ぎになっていた。

 テスタはソファーに深く寄りかかり、溜息を吐いた。


 「これで良いか、兄貴…」

 「あぁ、彼が来るまでホールで待っていても良いか?」

 「好きにしてくれ…それと、俺はギルドマスターだ。 公爵家とは関係ない…いいか?」

 「お前の立場もあるからな、了解した!」


 2人のグランベリオンはギルドホールに移動して、テッドを待つ事にした。

 そしてしばらくすると…テッドが現れたのだった。

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