第9話 テッド…激怒する!

 僕は家の扉の隙間から外を見た。

 すると大勢の街の人達が、僕が出て来るのを待ち構えている様だった。


 「一体、僕に何の用があるんだよ!」

 「やっぱり、この新聞の内容じゃないかな? 英雄テッドと少しでもお近付になりたくて…」

 「現金な奴等だなぁ…今迄僕達の事を調味料と言って馬鹿にしていた癖に…」

 「どうするのお兄ちゃん? このままじゃ、家から出られないよぉ…」

 「ちょっと出て来る! 迎えに来るまで待っていて!」


 僕は扉から出ると、大勢の人達が僕を囲んで言って来た。


 「新聞見たよ! さすがテッド君だ!」

 「英雄になったんだね! やっぱり君には人にはない才能があると思っていたんだ!」

 「テッド、俺達友達だよな? 皆に言っても信じないんだよ!」

 

 コイツ等の話を聞いていて、段々腹が立って来た。

 本当に都合の良い事しか言ってないな…?

 僕は大きく手を叩いた。


 「あのさぁ、僕達はこれから買い物に行きたいんだけど…家の前にいると迷惑だから、何処かに行ってくれませんか?」

 「なら、一緒にどうだい?」

 「いや、俺と一緒に行こう!」

 「俺達友達じゃないか! 俺達と一緒に行こうぜ!」

 

 駄目だ…全然散る気配がない!

 これを打開する手はないかな?


 「おい調味料! 英雄とか呼ばれて調子に乗っているんじゃねえよ‼」

 

 僕は声のした方を見ると、そこには荒くれドニーが子分達を連れて歩いてきた。

 すると集まっている人達が2つに分かれて、ドニーがこっちに来た。

 ドニーには今迄に嫌な目に何度かあって来た。

 調味料と馬鹿にされた事以外に、依頼の報酬を奪われた事もあった。


 「まぐれで英雄になったんだってな? なら、金はあるんだろ? 出せよ!」

 「悪いけど、ドニーに渡す金は無いよ。」

 「へっ…お前が魔獣を倒しただと? 今すぐお前の化けの皮を剥がしてやるよ!」


 そういってドニーは僕を殴ろうとしてきた…のだが、ドニーの拳がやたら遅くて僕は軽々と躱した。

 そして軽く腹にパンチをすると、ドニーは吹っ飛んだ。


 「あ…あれ? 何か弱くね?」

 「おい、調味料…よくもやりやがったな!」


 ドニーは再び向かって来たが、僕はドニーからの攻撃を全て躱すと、顔面を思いっ切り殴った。

 するとドニーはまたも吹っ飛んで行った。


 「ドニーさん!」

 「どうなっていやがるんだ⁉」

 

 普段ならここまでの力は無い筈?

 マーダーグリズリーとの戦いで何かが変わったのかな?

 ドニーは立ち上がると、怒り狂ったように向かって来たのだった。

 僕はドニーの顔を殴ってから足を払って倒し、馬乗りになって何度も顔を殴って行った。

 ドニーの歯は折れて血だらけになり、鼻の骨も折って顔中が腫れ上がるまで殴っていたら、ドニーが何か言っていた。


 「悪かった…調味料、許してくれ!」

 「何で喧嘩売って来たお前が仕切るんだ? それに僕の名前は調味料じゃねぇよ‼」

 

 僕は近くにあった拳大の大きさの石をドニーの口の中に入れてから殴り続けて行った。

 そして胸倉を掴んでから腕をへし折り、反対側の腕もへし折った。

 その後に何度も腹に蹴りを入れていった。

 

 「も…もう、辞めてくれよ! 俺達が悪かったから…」

 「じゃあ、今迄に僕や妹から巻き上げた金を返せ!」

 

 僕がそう言うと、子分たちはポケットから出した金を集めて差し出してきた。

 だが、どうみても足りなかった。


 「全然足りない…これだけ?」

 「アジトに帰れば…」

 「なら取って来い! そしてこれを見ろ!」


 僕はドニーの手首を掴んで人差し指を掴んだ。

 

 「お前がアジトから金を持って来る間、指折り数えて待っているから早くするんだね…いーち!」

 「ぐわぁ!」


 僕はドニーの指を折った。

 

 「ほら、早くしろ! にーい!」

 「ぐがぁ!」


 僕は中指を折った。

 すると子分の1人が走り去って行った。

 だが、他の子分はそこにいたので、次は薬指を折った。

 非道な行為に見えるかもしれないけど、ドニーの悪行は僕から金を奪っただけじゃない!

 妹達の仕事で稼いだお金をうばったり、ルットの作った服を目の前で破かれたりしていた。

 そして全ての指を折ると、次は反対側の指を折りだした。

 最後の小指を折ろうとした時に、子分が帰って来て金を差し出してきた。


 「これで全部です!」

 「たったこれだけ? 全然足りないね…」

 

 僕は最後の指を折ってから、両足もへし折った。

 すると、ドニーは失禁をした。

 幸い、僕の家の庭ではないので良かったが…道が汚れてしまったのだ。

 僕はドニーが来ている服で地面を拭いてから、子分達に投げた。


 「このゴミを持って憲兵の屯所に行って、今迄の悪事を全て話して牢屋に入っていろ! もしも、このゴミやお前等の姿を見掛けた時は、今度は本気で殺す! このゴミの姿を目の当たりにしているんだ、僕が嘘を言っていない事くらい解っているよなぁ⁉」

 「「「「は、はい!」」」」

 「なら、さっさと失せろ‼」

 「「「「は…はい~~~!!」」」」


 子分達はドニーを連れて憲兵の所に走って行った。

 僕は血の付いた手を庭の壺の水で洗うと、立ち上がった。

 時間的には、20分くらいだった。

 

 僕は背後を振り返ると、まだ街の人間たちはいたのだった。

 そして大きな歓声がした。

 ドニーに苦しめられていたのは僕だけじゃない。

 街の住人達もドニーがやられて喜んでいたのだった。


 「さてと…今のはドニーの分だけど…」

 

 僕がそう言うと、歓声はピタリと止んだ。

 

 「次は君達の誰かだね? 僕の事を調味料と言って馬鹿にした人は前に出て来て…ドニーと同じ目に遭わせるから!」

 

 僕がそう言って指を鳴らすと、住人達は一斉に逃げて行った。

 これで…当分は静かに過ごせるだろう。

 僕は子分達が持って来た金を拾い上げると、ポケットにしまった。


 「それにしても…あのドニーに勝てるなんて思わなかった。 僕のレベルは今幾つなんだ?」


 昨日の宴会以降…ギルドカードは冒険者ギルドに預けているので手元にない。

 ランク昇格でギルドカードの調整があるとかで、数日掛かるらしいのだ。

 僕は扉をノックして妹達を呼んだ。

 そして、少し遅くなったが…僕と妹達は買い物に出掛けるのだった。

 

 

 ・・・・・・・・・一方、ドニーと子分達は・・・・・・・・・


 僕に言われた通りに、憲兵の屯所に行って今迄の悪事を全て告白した。

 その罪の量は多く、ドニーと子分達は牢屋に入れられて…処刑される事は無かったが、鉱山に送られて二度と外に出られる事は無かった。

 そして鉱山で稼いだ金は、今迄の被害者の元に届けられたという話だった。

 

 テッドのやった事は確かに少しやり過ぎた部分もあった。

 だが、そのお陰で街は少し平和になったのだった。

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