第10話 妹達とお出掛け…の筈だったのですが

 【クレーメルの街】

 この街には面白い様に6つの区画に分かれている。

 職人街・商業街・住民街・貴族街・風俗街・商店街と…

 そして中心に、この街を治めるグランベリオン公爵家がある。

 貴族街に住む貴族達は、下位貴族でもない限り商店街に足を踏む入れる者は多くない。

 上位貴族は、商業街の商人達から物を購入するので滅多に屋敷から出る事は無いのだ。

 商店街には、様々なお店がある。

 武器屋に防具屋、道具屋に薬屋、雑貨屋に宝石店など…他にも色々あるが、言い出したらキリがない。

 そして雑貨屋には、貴族が購入する物から平民が購入する物まで揃っている。


 テッドと妹達は、現在その雑貨屋に向かっているのだった…が?


 「あれ? ギルマスにライラさん?」

 「おぅ…テッドか? どうした?」

 「お二人も…デートですか?」

 「ちげぇよ! 備品購入の為に、雑貨屋に行くんだよ!」

 「なら、一緒に行きませんか? 僕達も雑貨屋に行くので…」


 僕達は雑貨屋に向かっていた。

 途中、ルットとロットが言い出した。


 「まるで家族でお買い物に行くみたいだね。」

 「そうなると、テスタおじさまがパパで、ライラさんがママになるのかな?」

 「ママって…せめてお姉ちゃんにして! ギルマスはパパでも良いから!」

 「俺は確かにバットンと同じ年だが、パパって…」

 

 テスタおじさんとライラさんは困った顔で言っていた。

 僕とリットは、その様子を見て笑っていた。

 そんな話をしていると、雑貨屋に着いたのだった。


 「お兄ちゃん、好きな物を買って良いんだよね?」

 「あぁ…軍資金はたっぷりある! もしも足りなくなったり、高い物が欲しくなったら…パパにおねだりしなさい!」

 「「は~い!」」

 「おい、テッド! 俺に買わせる気か⁉」

 

 僕とテスタおじさんは店の中を色々見ていて、妹達はライラさんと一緒に品物を見ていた。

 するとルットが、ある物に指を指して言った。


 「お兄ちゃん、私これ欲しい!」

 「どれどれ…って、えぇ⁉」


 ルットが選んだのは、最新式の魔導ミシンだった。

 しかも値段が銀貨1200枚…

 買えない事は無いけど、リターンズの財力では破格の値段だった。

 

 「高っ! だけど、ルットには色々作って貰っているしな…う~ん?」

 

 僕はリットを見ると、首を振っていた。

 確かに最新式じゃなくても良いのかと思うが、ルットが目を輝かしていると無下に断れない。

 そう! こういう時にパパがいた!

 僕はテスタおじさんを見て言った。


 「パパ、これを娘の為に買ってあげて!」

 「パパお願い! 買って!」

 「俺はパパじゃねぇ! それに、銀貨1200枚なんて買えるか‼」

 

 まぁ、当然の反応だよな…

 リターンズ家で銀貨1200枚なんて言ったら、何年間…いや、下手すれば何十年間の生活費だ。

 銀貨は5000枚あるが、4分の1の値段かぁ…

 仕方ない! 値切るか…

 僕は店員さんを呼んで交渉をした。


 「すいません、この魔導ミシンが欲しいのですが…お安く出来ませんか?」

 「申し訳ありません。 この魔導ミシンは最新式ですので、当店でもこの価格より安くは…」

 「やっぱ無理か…」

 

 そりゃ当然だよな?

 僕は悩んでいると、奥から店長らしき人が出て来て言った。


 「英雄様…弟の仇を取って戴いてありがとうございます。」

 「え?」

 「この女将…マルグレーデの弟がCランク冒険者のマクレガーだったんだが、お前が倒したマーダーグリズリーに殺されてな。」

 「それを英雄様が仇を取って下さいました。 その気持ちにお答えしたいのですが、あいにくこの商品は発売されたばかりの新作になりますので…」

 「なら、その魔導ミシンの値段は私が支払おう!」


 僕は振り返ると、そこにはティーダス公爵がいたのだった。

 僕と妹達は跪いた。

 だが、ティーダス公爵は僕達の行為を嫌がって立つ様に言われた。


 「いやいやいや…家の家具やリフォームまでして貰って大変申し訳ないのに、これ以上は…」

 「なぁに、気にする事はない。 魔導ミシンと…そちらのお嬢さんは欲しい物がないかな?」

 「私は…お兄ちゃんに新しいブレスレットを作ってあげたいです。」

 「なるほど…店主よ、この職人専用の魔道裁縫機材と魔導彫金機材を購入する。 この…英雄殿の家に届けて置いてくれ!」

 「「「「!?」」」」


 職人専用の魔道機材って…マスタークラスの職人が使用する最高級品だ!

 1つだけで金貨10枚は軽く吹っ飛ぶのに…それが2台も⁉

 さすがにこれを貰う訳にはいかなかった。


 「公爵様! さすがにそれは…」

 「よい! それにこれは投資だ! この2人のお嬢さん達がいずれ名のある職人になる為のな。」

 「で…ですが! さすがにこれは…」

 「これで、君の恩に報いて貰えたかな?」

 「じゅ…十分過ぎます! ですが本当に良いのですか⁉」

 「これでもまだ足りない位だ。 だが、言い出したらキリが無いからな…これでな! 残りの材料は自分達で買うんだぞ!」

 「は…はい! あろがとうございました!」

 

 あまりの申し訳なさに、ろれつが回らないでお礼を言ってしまった。

 すると、公爵様はテスタおじさんと小声で話をしていた。

 

 「兄貴…さすがにやり過ぎだ!」

 「これくらい、子供達を助けてくれたことに比べたら安い物だ。 それにしても、お前がパパか…離れた所から見ていて笑ったぞ!」

 「うるせぇよ! 用が済んだのなら、さっさと帰れ!」


 ティーダス公爵様は、笑いながら店を出て行った。

 そして僕とリットは凄く疲れていたのだった。


 「はぁ…ルットにロット、欲しい素材があったら持ってきて良いぞ!」

 「なら私は布材と革材が欲しいんだけど!」

 「私は糸や紐に魔石も欲しいんだけど…」

 「リットは調理器具とか必要なんじゃないのか?」

 「魔導キッチンが届いた時にね、包丁セットやフライパンや鍋も一緒に届いてね…それ以外だと欲しい物は無いかな?」

 「あ…そ。 本当に何から何まで・…」

 「お兄ちゃんこそ、欲しい物は無いの?」

 

 僕はリットに言われて考えた。

 武器は、ミドルソードとダガーがある。

 欲を言えばロングソードが欲しいけど、僕の筋力を考えると使いこなせられる自信がない。

 防具や装飾品に関しては、ルットやロットが作ってくれるだろうし?

 それ以外となると、欲しい物が思い付かなかった。


 「あ! 瓶が欲しいかな?」

 「瓶?」

 「調味料を入れる器としてね…壺だと蓋を開けないと解らないし、瓶なら一目でわかるだろ?」

 「瓶って…お兄ちゃん、欲が無さすぎ!」

 

 僕はリットの言葉に腹が立って、店の中にある瓶を全部購入した。

 そしてルットとロットの欲しい素材を全て合計しても、銀貨800枚程度で済んだのだった。


 「さて、店を出てレストランにでも行って食事にしよう。 そこは俺が出してやるから…」

 「ゴチになります!」


 僕達はレストランに移動して、食事を楽しんだ。

 その後…ライラさんはギルドに帰って行き、テスタおじさんは僕達にもう少し付き合ってくれた。

 その途中で神殿の前の通って、リットを見た。


 「そういえば、リットはまだ神託の儀を受けてなかったよな?」

 「うん…経済的に無理だったからね。」

 「なら、神託の儀…やってみたらどうだ?」


 僕とテスタおじさんが言うと、僕達は神殿に入って行った。

 そして神殿にお布施をしてから中に入ると、その他にも数人…神託の儀を受けている者達がいた。

 その中の子供が僕を指さして言った。


 「あ、調味料だ!」

 

 またか…まぁ、もう言われ慣れているから気にはしていなかった。

 だけどその子供は、付き添いの親に殴られて子供は泣き出した。

 そして神殿内がうるさくなったので、子供は外に連れ出されたのだった。

 何人かの子供が神託の儀を済ませると、次はリットの番になった。

 神殿長が神に祈りをして、リットに神託を授けたのだった。


 「リット・リターンズの神託は………」


 リットの神託は、とんでもない物だった。

 神殿中が騒めき、僕やテスタおじさんも驚いていたのだった。

 一番信じられないという表情をしていたのは、リットだった。


 はたして、リットは神託の儀で何を授かったのか…?

 それは次回に持ち越されるのだった。

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