3人…

〈ユキナ視点〉










高島さんの後をついて行くと

中の通りにある居酒屋が立ち並ぶ道に出て

金曜日のこの時間は人通りも少し多く…

歩く足に力が入っていった…







「・・・アノ…」







てっきり会社から離れた

道の端辺りで話すのかと思っていたけれど

高島さんがどこかお店に入って

話そうとしているのが分かり

小走りで近づきスーツの裾を掴んで呼び止めた







「高島さん…あの……どっ…何処に…」






タカシマ「個室にするから安心しろ」






立ち止まってコッチに顔を向けた高島さんは

笑ってそう言っているけど…






何となく気持ちがソワソワとして

落ち着かないでいた…






人通りの多いこの場所を歩いている事も…

会社の誰かに見られて

変に勘違いをされて噂されるんじゃないかとか…






沢山の焦りと不安が

グルグルと渦巻くなか

別の胸騒ぎもしていて…






「わっ…私…帰ります…」






高島さんのスーツから手を離して

頭を下げて立ち去ろうとすると

グイッと手首を掴まれ

「あの店だ」とドンドン歩いていく

高島さんに引っ張られて行った






タカシマ「ネット予約していた高島です」






立ち並ぶお店の角を急に曲がったかと思えば

作務衣を来た店員に声をかけていて…

「3名ご予約の高島様ですね」と言う

店員さんの言葉に「え?」となった…






( ・・・3名? )






先に進む店員さんと高島さんの後を

重い足取りでついていくと

濃ゆい茶色のドアをスライドして開けた先に

掘り炬燵の部屋があり

箸などのセットが3人分置かれていたから

誰か来るのかと高島さんに顔を向けると

「福谷さんだよ」と言って靴を脱いでいる






( 福谷さんも? )





福谷さんも来るのなら

よほどのミスをしたのだろう…




それか…

入社5年目なのに…

満足に仕事の出来ない私に話があるのかな…






掘り炬燵に足を降ろすのもどうかと思い

座布団の上で正座をして座っていると

「足降ろしていいぞ」と笑う高島さんに

「いえ…」と顔を俯けた






タカシマ「とりあえず…飲み物だけでも頼むか?」






注文用のデンモクを操作しながら

「ビールかな」と呟いている高島さんに

申し訳ないと思い益々顔が下がっていく…





楽しい週末の始まりである今…

仕事の延長の様な席を設けさせてしまっている自分に

タメ息を溢し店員さんが持って来てくれた

熱いお茶に手を伸ばすと

「お前…彼氏いないよな?」と問いかけられ

ゆっくりと顔を上げた…







「・・・・・・・」







タカシマ「いや!俺じゃないからな!」







数時間前に

高島さんからLINEを教えろと言われた事を思い出し

空いている席へと目を向け…

まさかと不安がよぎり「あの…」と言いかけると







タカシマ「福谷さん遅いなぁ…場所分かるかな?」







そう言ってスマホを触りだしたから

今から来るのは福谷さんなんだと安心し

湯飲みを持ち上げて一口飲むと

「ちょっと外見てくるわ」と立ち上がって

外に出て行こうとするから

「わっ…私が見に行きます」と立ち上がったけど…







タカシマ「人通りもあるし俺が行くからいいよ」







「・・・すみません… 」








確かに人の顔を見ながら

福谷さんを探すなんて

私には出来ない気がして

上げた腰を降ろし…





仕事だけでなく

こんな場面でも役に立たないなと思い

パタンと閉じられた部屋の中で

ぼーっとテーブルを見つめていた…







( ・・・・・・ )







「いらっしゃいませー」と声が響く中

中々ドアを開けて入って来ない

高島さん達に不思議に思い

腕時計に目線を落とすと

高島さんが出て行ってから10分近くは経っていて

どうしたんだろうと眉を寄せた






その後も…

ガヤガヤとする声が何度も

この部屋の前を通過していくけれども

ドアが開くことはなく…






私も外に出た方がいいのかと思い

立ち上がってドアの前に行くと

ガラッと開いたドアから

「悪い待たせたな」と高島さんが顔を覗かせ…







「・・・福谷さん…は?」






ドアから入って来たのは

高島さんただ一人で

迎えに行った筈の福谷さんの姿はなかった…







タカシマ「課長と話してるみたいで

   あと30分位で合流できるってさ」






「残業…ですか…」







もしかして私が間違えた書類のせいで

帰れないのかと高島さんに尋ねると

「いやいや、別の件だ」と笑って機械を操作しだし

ホッとしながら私もまた正座をした







タカシマ「福谷さんも来たら直ぐに食べたいだろうし

   適当に注文しとくか?」







先に箸をつけるのは気が引けたが

もう5時半を過ぎていて

後30分もかかるなら福谷さんが

此処に現れるのは6時くらいだし…







( ・・・頼んでおいた方がいいのかもな… )







機械を操作しながら

「コレと…あとコレかな」と

次々と注文しているのを見ながら

随分とコッテリとした物ばかりだなと

不思議に思ったけれど

福谷さんと食事をしたのは

忘年会の数回だけで

社食でたまに一緒に食べている

高島さんの方が好みをしっているんだろうと思った






届いたビールに手をつけて

「白石も飲め」と言う高島さんに首を振り

「福谷さんが来るまで待っています」と言うと…







店「お連れ様ご来店されました」






タカシマ「あっ!はい、どーぞ!」







福谷さんが来たんだと思い

腰を上げて膝立ちをしたまま

ドアの方へと顔を向けた








( ・・・えっ… )







ガラッと開いたドアから現れたのは

福谷さんではなく…






トオル「こんばんは」







「・・・・・・」







どうして…

溝口トオルがここに…







タカシマ「お疲れ様です、生でいいですか?」







高島さんの隣りへと腰を降ろす

溝口さんに頭が追いつかず

座布団から少し体をズラして

後ろの方へと下がると

「驚かせちゃったかな?」と

眉を下げて笑う溝口さんに顔を背けた






「たっ…高島さん……福谷さんは?」







顔を掘り炬燵の底に向けたまま

そう問いかけると

「あー…」と濁す声が聞こえ

福谷さんは来ないんだと分かった…







トオル「白石さんと…話がしたくて

   俺が、高島君に無理を言ったんだよ」







( はっ…話? )







もしかして目の事を

高島さんに話したのだろうか…






視界がドンドン青く

霞んでいきそうになると

「ちょっと」と高島さんの声が聞こえた後

掘り炬燵から足が見えなくなり

部屋から出て行くのが音で分かった






部屋に二人だけになり

息がしずらく感じていると

「昼休み…」と小さな呟きが聞こえ







トオル「何度か尋ねたんだけど…

   白石さん留守でね?笑」






「・・・・・・」







昼休み??

尋ねた?何の為に…







トオル「連絡先も…かわされちゃったから…笑」






「・・・・・・」






トオル「・・・付箋の番号…」






「・・・・へっ…」






昼間の事かと思っていると

聞こえてきたのは

少し前に渡された物の事で…





 



( 福谷さんへのお遣いに渡された付箋の事よね? )








ほんの少し顔を上げて

溝口さんに目を向けると

いつもの陽気な笑顔ではなく

困った様な笑みを浮かべ

「福谷に渡しちゃダメだよ」と言うと

人差し指を私の方へとさし

「白石さんに渡したんだから」と言ってきた…











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