〈ユキナ視点〉









タカシマ「休みの日は何してるんだ?」






「・・・家に…います…」







「趣味は?」「休日は?」「料理は?」

そんな会話が続く中…

自分の口から出てくる寂しい回答に

顔を俯けたまま箸にも手を伸ばさないでいると

「俺も休みの日は家にいたい派だな」と

溝口さんのフォローめいた言葉が聞こえ

余計に顔を上げれないでいた…








( ・・・早く…帰りたい… )







決して居心地の良くないこの席に

後どれくらい居なければいけないんだろうと思いながら

膝の上に置いている手が小さく震えている…







【 げっ…コッチ見てきた 】





【 あの目と目があったら… 】






高島さん達の会話の声よりも

はるかに大きく耳に届く

記憶の中の声達にギュッと目を閉じ

「はぁ…」と震える息を溢した






「・・・すっ…すみません…あの…体調が…」






先に帰ろうと思いそう口にすると

「え?」と慌てる声をだす高島さんは






タカシマ「体調がって…でもお前…」






溝口さんは私達よりも年上で…先輩で…

そんな人を置いて先に帰るなんて

失礼な事だって自分でも分かってる…







( だけど…ここにいたくない… )







財布を取り出そうとバックの中に顔を向けて

ドクンッと心臓が大きく跳ねた…






「・・・ぁ… 」






スマホの画面には

青城君からの着信画面が表示されていて

まだ19時前なのにどうしてと驚いていると

着信が止んで待ち受け画面に切り替わった瞬間

もう一度嫌な跳ね方をした…






( ・・・・18件… )






不在着信の多さに固まっていると

「白石さん?」と溝口さんから声をかけられ

思わずスマホの画面を

パッとひっくり返してから顔を上げた






トオル「顔色悪いけど…大丈夫?」






「・・・ぁ……かっ…帰ります…」






22時に電話をすると言っていた彼が

こんなに電話をかけてくるなんて…

きっと…何かあるんだ…






さっきまでの居心地の悪さとは

別の息苦しさを感じて

バックから財布を取り出し「これで…」と

五千札をテーブルに置くと

「白石」と高島さんの呼ぶ声を無視して立ち上がり

「失礼しました」とドアを開けて出て行った






入店した時とは違って

店内のガヤガヤと騒ぐ音も大きく

「6番さんお待ちでーす」と叫んでる店員さんの横を

小走りで通過していき出入り口から一歩外にでると

薄暗くなった空の下に明るい街灯が輝いていた






( ・・・人が… )






金曜日という事もあり

歩く人の多さに戸惑い一瞬足の動きが止まってしまい…






トオル「白石さんッ!」






グイッと腕を後ろに引かれ

数十センチ先にある溝口トオルの顔に驚いて

顔を下に下げると

「送るよ」と優しい声が降ってきた






「・・・いっ…いえ…」






トオル「体調悪そうだし…タクシーで帰ろう」







溝口トオルと二人で歩いてるなんて

誰かに見られでもしたら…





私の手を引いて

タクシーのいる所へと行こうとしている

溝口さんの手をパシッと振り払い

「ほん…本当に大丈夫ですから」と

自分の手をギュッと握りしめて数歩後ろに下がった







トオル「・・・えっと…あの…

   騙す様な真似をしたのは申し訳ないと思ってるよ

   ただ…白石さんの事を知りたくて…」







「・・・わっ…私に…かまわないでください…」







トオル「・・・・・・」







溝口さんは何も言わずに数歩近づくと

ジャリッと足音を立てた後

腰を曲げて俯いている私の顔を覗きこんできた







トオル「・・・嬉しかったよ?」






「・・・へ…」






トオル「俺の目…綺麗だって言ってくれて」






「・・・・・・」






溝口さんの目は

夜の明るい街中で見ても…

変わらず綺麗で…

思わず息を呑んで見つめてしまった…







トオル「・・・・・・」







溝口さんが私の眼鏡に手を伸ばしてきた瞬間

また頭の中に記憶の声が響きだして

「しっ…失礼します」と伸びてきた手から

逃げる様にその場から立ち去り





ジッと見つめられたあの目に

小さく鼓動が早まっているのを感じながら

人混みの中から抜け出そうと

道路の脇に止まっていたタクシーに駆け寄り

ドアをノックするとギッとドアが開いて…






「すっ…すみません…あ…ッ!?」






タクシーの中に片足を入れて

アパートのある住所を告げようとすると

左肩を横から押され驚いて顔を向けると…






「・・・ぁ……あお…」






アスカ「・・・・二人乗ります」







青城君の顔は…

怖い位に真顔で…

目も…態度も…冷たく…





電話に出なかった事を怒っているのだろうと思い

「あの…」と声を発すると…







アスカ「人通りのないホテルに」






「・・・・・・」







運転手にそう伝えると

私の方へと顔を向けてきて

「楽しかった?」と口の端を上げて問いかけてきた…


















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