隣りの席の…

〈タカシマ視点〉








昼食の後

喫煙所でいっぷくし

アクビを溢しながら歩いていると

経理課の前にまた溝口さんが立っていた







( ・・・まじか… )







休憩時間の今…

皆んなが出払った経理課に

溝口さんが訪れる理由が分かっている俺は

アクビを隠そうと口元に持っていった手を頬側にズラし

痒くもない自分の頬を数回かいていた…






溝口さんは先週…

白石に番号を渡したけれど…






( ・・・綺麗にかわされたからな… )






ワザとではないだろうが

会社1のモテ男の番号は…

福谷さんに渡されてしまっていた…






溝口さんは腕時計を見た後

エレベーターのあるコッチ側に向かって歩き出し

少し先にいる俺を見つけて

気まずそうな表情を浮かべた後…

「お疲れ」と小さく笑っている






白石に会いに来たんだろうけど

溝口さんの表情からして

いい進展はなかったんだろう…







タカシマ「あー…俺しばらく席外しますよ」







気を遣ってそう言うと

また眉を下げて笑い

「その必要はないんだよ」と言われ…





白石は席を外していて

進展どころか会えてもいないんだと知り

益々、溝口さんが気の毒になった…






聞けばこんな風に会いに来るのは数回目で…

いつも白石は居ないらしく…






王子とヒロインを会わせない魔女か何かに

邪魔でもされているのかと

ふざけた事を思っていると







トオル「また懲りずに覗きに来てみるよ?笑」







タカシマ「・・・・あっ!」








休憩時間は残り20分程で…

昼飯も食べずに

ずっと待っていたんじゃないかと思った俺は

「俺が連絡先を渡しておきましょうか?」と提案した






「え?」と大きな目をキョトンとさせて驚く溝口さんに

「ちゃんと、溝口さんからだって伝えますから」と

ニッと笑いながら言うと

溝口さんは少し考えた顔をして「いや…」と首を振り…







トオル「またかわされそうだから…

   彼女の連絡先を俺に教えてもいいか

   聞いてもらえないかな?」







タカシマ「えっ??」







トオル「出来れば自分で聞きたかったけど…

   中々会えないしね…笑」







確かに…

白石に番号を渡した所で…







( ・・・・・・ )







自分からは絶対に

連絡なんかしない様な気がした…








タカシマ「分かりました!聞いておきますね」







そう言って

溝口さんの連絡先を教えてもらい…

トイレから出てきた白石に

溝口さんが連絡を取りたがってると伝えようとしたが…







「ムリ…ですッ…連絡は……無理です…」







タカシマ「ちょっ!ちょっと待て!」








相手が誰かを言う前に

ハッキリと断られてしまい

慌てて後を追ったけれど

経理課には福谷さんも戻っていて…







( ・・・言わない方がいいよな… )







この事は誰にも知られない方がいい気がした…

そっと近づいて…

そっと親しくなって…

そっと…くっ付いた方がいい…







自分の席へと着き

どうしようかと考えながら

白石に目線を向けるが

俺の視線を嫌がるかの様に

背中ごと顔を背けていて

口で説得するのは無理な気がした…






( ・・・・・・ )







タカシマ「変な事聞いてもいいですか…」






トオル「ん?」






タカシマ「その…なんで白石なんです?」







他部署からも声がかかるであろう溝口さんが

なんで白石なんだ?とずっと不思議だった…





悪いヤツではないけれど

見た目も何もかもが合わない気がして…






珍しいタイプだから

手をつけたくなったのかと思い

そう尋ねると…






トオル「んー…逆に…

   なんで白石さんじゃダメなの?笑」







タカシマ「へ?」







トオル「彼女は充分魅力的だと思うよ」








まさか、あんな返答がくるとは思ってなく…

ただの先輩である筈の俺は

なんとなく胸の辺りがくすぐったく…

ちょっとだけ暖かい気持ちになり…






隣りで顔を背けたまま

背中を丸くして仕事をしている

白石を見ながら「任せろ」と小さく呟いた







俺がお前を

ヒロインってやつにしてやる!







つい数時間前までは

なんとも思っていない

隣りの席のただの後輩だったのに…

今じゃ勝手に兄貴気分になっていた






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