鳶…

〈アスカ視点〉










休憩が終わる10分前に

自分のフロアへと戻ると

甲斐と溝口が入り口近くに立って話していたから

「お疲れ様です」と一声かけて通り過ぎようとすると…







カイ「あっ!お前いつも何処で食べてるんだ?」






アスカ「穴場なので…内緒です?笑」







口元に人差し指を当てて

ワザとあざとく流し…

「お前、先輩だぞ」とふざけて

首に腕を絡ませてくる甲斐に笑っていると…







トオル「せっかく同期で集まってるんだから

   邪魔してやるなよ?笑」







先生と階段で昼食を摂る日は

仲の良い他部署の同期と一緒に

昼食を摂っている事になっていて…





俺が先生を誘う日は

溝口が会社にいる日だった…






営業課でも群を抜いて仕事の出来る溝口は

持っている顧客も多く

会社の外にいる事の方が多い





だけど…1日中いないわけでもなく

休憩時間の前後に

溝口が会社にいる日は

あの階段に来るように言い

時間まで…先生に触れている








カイ「溝口さんもチョイチョイ消えるし…

  この会社にそんな穴場ってあります?」







アスカ「へぇ…先輩も同期の誰かと食べてるんですか?」








甲斐の言葉にヤッパリなと思い

知らないふりをしながら

そう問いかけると溝口は「ん?」と笑った後

「まぁ…そんなところだ」と誤魔化していて

お互い様だなと思った







溝口も俺も…

会いに行っている人物は同じで

お互いが「同期」だと嘘を吐いている






だけど…

俺とお前は違うよ…






お前がいくら会いに行っても

先生は…あの人は俺と一緒に

扉の向こう側にいるんだから…







アスカ「同じじゃないよ…」







自分でも気付かないうちに

口にしていたようで

「何がだ?」と俺の顔を覗き込む甲斐に

「なんでしたっけ?」とまた笑って誤魔化した






自分の席へと座り

課長と話している溝口へと目を向けた後

その視線を自分のデスク上にあるカレンダーへと向けた






もう、そろそろ…

俺も指導係の甲斐と一緒に

外回りの挨拶について行く事になる…






そうなれば…

今みたいに先生を階段に呼び出せず

溝口と会ってしまうだろう…






アスカ「・・・・・・」






口元に手を当てて

カレンダーを見下ろしながら

10分程前まで抱きしめていた

あの人の事を思い出し…

「しつこいね…」と小さく呟いた







甲斐の言う通り

本当に頻繁に消えているのなら





気まぐれや…

何となく気になる程度ではなく…





溝口は先生に対して

もう好意を持っている筈だ…







( ・・・どうする… )







厄介な男だなと考えていると

「随分と低く飛んでるな」と声が聞こえ

飛行機か何かかと興味もなく顔を向けると

窓の外に一羽の鳶の姿が見えた





確かに珍しいなと思いながら

このビル街を彷徨う様に低く飛行している鳶を見て

ある事を思った…







( 鳥籠に入れたらどうなるんだろう… )







インコや梟…オウムなんかを

鳥籠で飼うのは想像出来たが

野生の鳶を鳥籠に入れたらどうなるんだとふと考えた…






あの独特な鳴き声を

狭い鳥籠の中で優雅に鳴けるのだろうかと…







アスカ「・・・・鳥籠…ねぇ…」







俺は多分…

あの人を鳥籠に入れる方法を知っている…





そして…

その籠の中に居れば

いくら溝口が先生に興味を持って会いに行ったとしても

決して…溝口を見ない事も…







アスカ「ふっ…見れなくなるだろうね…」








俺はポケットからスマホを取り出して

ある事を先生に送ると

またスマホをポケットへとしまい

口の端を上げたまま午後の仕事に取り掛かった…








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