秘密の…

〈ユキナ視点〉









「ァ……ぎくん…ッ…」






休憩時間も残り少なくなってきているのが分かり

そろそろ…と伝えたくて名前を口にすると

彼は「そうだね」と唇を離し…






首後ろにある手をそのままに

私の目を見つめながら「戻らなきゃね」と笑っていて

機嫌が良さそうな事に少しホッとした






退勤時間に階段通路ここで私を待っていたあの日以来

青城君は当たり前の様にキスをしてくる…







そして…






アスカ「つけなおすから後ろ向いて」





「・・・・・・」






首の後ろにある痕が少しでも薄くなると

新しい痕を上から重ねづけしていた…






髪を結んでいる真下だから

あまり目立ちはしないけれど…






高島さんが後ろを通る度にヒヤヒヤとするし

他部署に行く時もいつも以上に落ち着かない…






「・・・あの…」






首の後ろの痕は出来ればやめてほしいと

何度も言おうとするけれど…

「早く」と言う青城君の声に逆らえない自分がいて

今日も彼に背中を向けていた





いつもの様に首後ろに熱い痛みを感じ

目をギュッと閉じていると

「白いから目立つね」と

楽しそうに笑っている青城君の声が聞こえ…






「ダッ…だれかに……見られたら……その…」






壁についている手に力を入れてそう口にすると

コツっという足音と一緒に

「誰かって…ダレ?」と

耳元に熱い吐息混じりに囁かれ

身体全身がビクッと小さな熱を感じた…






( ・・・変だ… )






アスカ「こんな至近距離に近寄る奴がいるの?」







青城君の問いかけに首を横に振って答えると

「じゃあ大丈夫だよ」と言って私から離れ

「今日はちょっと遅くなるから」と

階段を上がって行くのが分かり

彼の足音が遠くなってからソッと目を開けた…






朝かお昼か…退勤する時…

青城君は必ず何処かで会いにくる







そして毎晩電話をしてきては

6年前の教育実習の話や

「仕事はどう?」と問いかけてきて…






まるで…

今日1日私が何をしていたのかを確認するかの様に

「それで?」と細かく聞いてきていた







( ・・・監視されてるみたい… )







バックを持ってフロア通路へ出ると

経理課の部屋に戻る前にトイレへと向かった





歯磨きもしたいし…

何よりも彼と唇を重ねてる時間は長くて…

冷たい水で顔洗って気を引き締めたかった…






青城君は…23歳になる年で…

年下だけど、もう子供でもなく…

彼がしてくるキスは大人のキスで…





そんなキスを抱きしめられながら

15分近くもされていれば

頭の中も気分も…糸が切れた凧の様に

フワフワと浮いている様になってしまう…






冷たい水を顔に当てても

唇に残る熱は中々引いてくれず…

キスの合間に漏らす

青城君の吐息が今でも聞こえてきそうだった







「・・・仕事なんだから…」






いくら経理課のお荷物でも

入社5年目の私が

仕事場であるあの部屋に

こんな顔で戻るわけにはいけない…






必死に熱を冷まし…

トイレから出て行くと

高島さんが「あっ!いた」と言って

私に駆け寄ってきたから

何かあったのかと思い

濡れている前髪を手で押さえながら

「何かありましたか?」と尋ねた







タカシマ「いや…お前ずっとトイレにいたのか?」







「えっ……いえ…」







高島さんは首を傾けながら

「ん?」と言っているけど

階段通路に居ましたと答えて

今後私を探してあの扉を開けられても困ると思った私は

「お茶を…溢して…」と咄嗟に嘘を吐いた








タカシマ「あー…スカートかなんかに溢したのか

    コーヒーじゃなくて良かったな?笑」


 






嘘を1つ言えばドンドン嘘の数は大きくなっていき

「そう…ですね」と高島さんの目を見れずに答えると

「あっ!それよりもさ」と

自分の掌をパンッと合わせて

話し出す高島さんに顔を向けた…







タカシマ「お前…LINEしだしたよな?」







「・・・えっ?」







青城君からの電話に気付かない事が多く

「帰ったらマナーモード解除してよ」と言われ…

解除したままのスマホからLINEの通知音が

聞こえていたらしい…







タカシマ「でさ…あの…」






急に言いにくそうに

目線を泳がせだす高島さんに

「直ぐにマナーモードにします」と謝ると

「そうじゃなくて…」と言われ…

高島さんの続く言葉を待っていると…







タカシマ「LINEのIDを知りたがってる人がいてな…」







「・・・・・・」







タカシマ「・・・あー…お前の!笑」








(   ヤダ……ダメッ!!  )







5年前の事が頭の中によぎり

「ダッ…ダメです」と声を上げた






タカシマ「え?」






「あっ…あれは……家族専用で…」







26歳の私が何を言っているんだと

高島さんが驚いているのは分かっているけれど

誰にも知られたくなかった…






タカシマ「いやでも…お前と連絡したがってるのは」







「ムリ…ですッ…連絡は……無理です…」







そう言って逃げる様に経理課の方へと走って行き

午後の勤務時間の間中…

隣りからコッチを見ている高島さんの視線に

ずっと…顔を背けていた…








  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る