声…

〈アスカ視点〉










17時になる少し前に椅子から立ち上がり

席から離れ様とすると

「どこ行くんだ」と甲斐から呼び止められ

「お腹の調子が…」と眉を下げて

笑いながら答えると

「早く行け」と呆れた顔で笑っていたから

そのままフロアから出て行き

階段通路の方へと入って行った







( ・・・・・・ )







早足で階段を降りながら

数時間前の出来事に「チッ…」と舌打ちをこぼし

4階のドアの前に立ち

あの人が出てくるのを待っていた







アスカ「・・・まさかあんなに大胆に動くなんてね…」







ズボンのポケットへと両手を突っ込み

苛立つ気分は足えと流れ落ちていて

不機嫌気味に革靴の音を鳴らしていると

ドアノブがギィと動き扉が開いた







「・・・・ッ!」







先生は俺を見ると

目を大きくして驚き

階段通路側へと足を進めず立ち止まっているから

グッと手を引いて階段通路の中へと引き込み

ドアをバタンと閉め

「お疲れ様」と先生を見下ろした







「・・ぉ…お疲れ様です…」







俺の機嫌の悪さを感じ取っているのか

おずおずと見上げている顔に手を当てて

「何渡されたの?」と笑って問いかけた…








「・・・ぇ…」







アスカ「さっき…何か渡されてたでしょ?」








俺の問いかけている意味が分からないのか

「さっき?」と小さく呟いて

不安気に目を動かしているから

頬を優しく撫でながら「溝口先輩にだよ」と

目を見ながら言うと「ぁ…」と思い出したようだ…







「あれは……福谷さんへのお遣いで…」







溝口が渡したのは

俺が思っていた通りの物だったけれど

先生は意味をちゃんと理解していないようで

溝口アイツの番号は別の所に流れていっていた






( ・・・・・・ )







6年前は…

恋愛相談をする俺たち学生に

アドバイスみたいな事をしていたのに





溝口の分かりやすいアプローチにも気付かず

自分に気があるんじゃ…

なんて微塵にも思っていないようで…





先生は…見た目以上に

内面の方が変わってしまっている気がした







アスカ「・・・・・・」







「・・・あの…」







いつも自信なさげに顔を隠しているし…

会話も「あの」「その」と口籠もってばかりだ…






6年前の先生はいつも顔を上げて歩いていたし

「こらッ!」とふざけて怒ったりもしていたのに…






まぁ…そんな先生だから

今、俺の言う事を聞いているんだろうけど…






先生の頬を撫でている手を唇へと当て

「口紅…つけてないよね?」と問いかけると

気まずそうに目線を下げて

「ごめんなさい」となぜか謝る先生に

また疑問を感じながら






「つけなくていいよ…」と言って

先生の赤い唇に自分の唇を重ねた






先生が俺を怖がって

突き飛ばさない事は分かっているし

このキスを受け入れていない事も知ってる…







( ・・・でも…それでもいいよ… )







唇を少し離して「舌…だして」と言うと

先生は眉を少し動かして困った表情をしているけど…





「早く…」と不機嫌気味に言えば

アナタが俺の言う事をきく事も…分かってる…







アスカ「時間ないから早く出して」







声を低くしてそう言うと

先生は口を少しだけ開き微かに舌をだしてきたから

「もっとちゃんと出してよ」と言ってまた唇を重ね

ワザと荒く舌を絡ませて

「ン…」と声を漏らす先生に口の端を上げた








( お前には、聞けない声だよ… )

















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