お節介…

〈タカシマ視点〉











( はぁ…寝みぃな… )







眠気の増す15時過ぎに

コーヒーでも煎れてこようかと思い

膝に力を入れて立ち上がると

ちょうど白石が営業課から戻って来たから

「コーヒー頼めるか?」と声をかけた






「はい」と返事をする白石に

「悪いな」と言って何気なく顔を向けると

白石の抱えているファイルに

付箋メモが貼られているのが見え

どうみても携帯番号だった






( ・・・なんだ… )






携帯番号のメモと言ったら

業務の一環か…

オフィスラブ的なものだ…





普段の白石のイメージならば

間違いなく業務だが…





あの性格だし…

交換なんてありえないだろう…





ましてや…

他部署から白石、個人に何かを頼むなんて事も

考えられないし…






誰の番号なんだと気になり

白石の行動に目を向けていると

「福谷さん…コレ…」と持ち帰った

ファイルを福谷さんに渡しているが…





福谷さんは「ありがとう」と声を発した後…

「ん?」と眉を寄せて首を傾けながら

「白石、コレ何?」と問いかけている







「あっ……営業課の溝口さんからです…」







フクタニ「えっ?溝口?」







( ・・・営業課の…溝口トオル? )







番号の相手が溝口さんだと分かった瞬間

先日の昼休みの事を思い出し

(ん?)と思った…







フクタニ「溝口の番号よね?なんで私に?」






「詳しくは……その…伝言をって…」






フクタニ「なに…なんかやましい頼みじゃないわよね…」







福谷さんは眉を寄せながら

付箋メモの番号を眺めているけど…







トオル「いや…福谷の機嫌はどうかなーって?笑」

 






( ・・・それ… )






あの時間に経理課にいる人物は

基本…一人だけだし…





いつも領収書の件で

仲良さそうに喧嘩をしているが

福谷さんと溝口さんには

同期以上の関係がある様には見えない…







( ・・・その…番号って… )







タカシマ「白石…」






「・・・はい?」







コーヒーを煎れに行こうとしている白石を呼び止め

どうやって渡されたと聞きたいが

それをココで聞くのは何となくマズイ気がして…







タカシマ「やっぱりコーヒーは自分で煎れるよ」







そう言って部屋から出て行き

口元に手を当てながら

「いや……えぇ!?」と

一人で戸惑いの声を上げていた






多分…俺の考えは合ってる…

だけどコレを誰かに話した所で笑われるだけだ…


 





( あの溝口トオルが!?白石を?? )






タカシマ「何があったんだ…」







社内1モテ男の溝口トオルが

経理課の端で顔を俯けている白石に番号?






俺は給湯室を通り過ぎると

エレベーターのボタンを勢いよく押し

片足で床をタンタンタンと軽く叩きながら

「はぁー」と落ち着かない息を漏らした






アイドルの熱愛スクープを撮った

カメラマンってこんな気分なのかと思いながら

エレベーターへと乗り込み

「ふ…」とニヤけ出す口元にまた手を当てて隠し…






無意識に押している6階へのボタンを見て

さっきとは違うタメ息が漏れた…







タカシマ「・・・白石…にだよな?」







まさか本当に福谷さんにじゃないよなと

口元にある人差し指を鼻先に当てて考えてみたが…





内線もあるし…

ワザワザ個人番号を渡す意味もないだろう…






チンっと音を立てて

6階に着いたエレベーターから足を降ろし

余計なお世話かなと思いながらも

営業課の扉へと歩いて行き

「お疲れ様です」と顔を覗かせた







( ・・・溝口さんは… )







経理課うちよりも広いフロアを見渡しながら

会いに来た溝口さんを探していると

「高島じゃん!」と

同じサークルにいた先輩が声をかけてきたから

「お疲れです」と近づいて行き

溝口さんの居場所を尋ねた







先輩「溝口?席にいないし…トイレか?」






トイレの方が都合がいいと思い

先輩に「また飲みましょう」と

流れる様な挨拶をしてから

早足でトイレへと向かうと先輩の言う通り

丁度、溝口さんがトイレから出てきた






「溝口さん!」と名前を呼びながら駆け寄って行くと

「どうした?」と驚いていて





マジマジと溝口さんの顔を見上げながら

なんで白石なんだと首を傾けたくなった…







( 男の俺から見ても…カッコイイな… )







タカシマ「いや…ちょっと…」







俺は溝口さんを通路の端へと連れて行き

誰もいないのを確認してから

「付箋の番号…なんですけど…」と

控えめに問いかけてみると

溝口さんは目を見開いたまま固まっていて

俺の思った通りなんだと分かった







タカシマ「あのー…実は…」







だいぶお節介な事だと自覚しながらも…

白石は自分にだとは全く気付いてなく

メモも福谷さんに渡してしまっていると

溝口さんに伝えた…






俺の髭はわりと濃ゆく…

毎朝、電動シェーバーで

念入りに手入れをしないといけなし






仕事の後に飲むビールのおかげで

メタボ体型になりつつある…

至って普通のアラサー男だが…






可哀想なヒロインを

カッコイイ王子様が救う…

なんてよくある童話が…実は嫌いじゃない…












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