メモ…

〈トオル視点〉










トオル「・・・また居ない?」







休憩時間に経理課を訪ねても

会いに来た人物の姿がなく

おかしいなと顎に手を当てて

部屋の中を覗いていると

「お疲れ様です」と高島君が部屋に戻って来た







タカシマ「何か急ぎの書類ですか?」






トオル「いや…福谷の機嫌はどうかなーって?笑」

 






我ながら厳しい言い訳に

「はは…」と苦笑いを浮かべて

皆んなでランチミーティングでもしているのかと

高島君に尋ねると「まさか」と笑われた







タカシマ「外での食事は白石が嫌がりますからね」







トオル「・・・嫌がる?」




 


タカシマ「社食にも行きたがらないし…

   忘年会もずっと入り口側に座って

   居心地悪そうにしてますよ

   あれ白石がいない…トイレかな?」







高島君は財布を忘れて

取りに戻って来ただけの様で

誰もいない部屋を見て「あれ?」と

首を傾けていたから

彼女が昼休みに経理課ココにいるのは間違いないようだ…







( ・・・レンズに何かあったかな… )







前回のたまたま見た赤い目は

なにかトラブルがあったからだろうし…







タカシマ「溝口さん?」






トイレのある方へと目を向けていると

財布を手にした高島君が

「時間なくなりますよ?」と

動かない俺を不思議そうに見ていて

「そうだな」と笑いながら

エレベーターの方へと高島君と歩いて行き

社食へと向かった





取引先の訪問などもあり

毎日経理課に行けるわけじゃない…






( だからこそ…会いたかったんだが… )






前回も…今回も会えず…

少なからず気分は下がっていて




もしかして俺が現れるから

何処か違う場所で休憩を取り出したのか?

そんな考えがグルグルと回っていたある日…







トオル「・・・あっ!」







営業先とのアポイント調整の電話を終えて

何気なく入り口に顔を向けると

白石さんがフロアから

出て行こうとしている後ろ姿が見え

思わず立ち上がって「白石さんッ」と叫んでしまった






勢いよく立ち上がったせいか

後ろを歩いていたスタッフに椅子がぶつかってしまい

「悪い」と謝りながら椅子を自分の席へと戻し

顔を白石さんへと向けると…







トオル「えっ…ちょッ!ちょっと待って!」







彼女はさっきよりも

入り口に近い場所に立っていて

今にもドアから出て行こうとしていた…





俺は慌てて白石の元へと走って行き

ファイルを胸に抱きしめて

顔を下げたままでいる彼女を見て

「あー…」としか言葉が出てこない…






何度か会いに行ったけれど

特別…ナニ!と言う用件もなく…





ただ会いに行っただけの俺は…

白石さんを見つけても…

「あのさ!」と切り出す会話がなかった…






( ・・・ちゃんと話した事もないしな… )







会いに行っても

中々会えなかった焦りからなのか

こんな所で呼び止めてしまった自分に

どうするんだと呆れていると…







トオル「・・・・・・」







彼女は顔を下げたままだから

表情を読み取る事はできないが…






ファイルを抱きしめている手は小さく震えていて

この状況に今1番困っているのは彼女だと理解し

「あの…福谷に伝言をいいかな?」と言って






近くのデスクから

「借りるよ」と言って付箋メモを取り

胸ポケットに挿さっていたボールペンで

11桁の番号を書いてから白石さんに渡した







トオル「じゃあ…そう言う事で…」







メモを手に取って

ジッと見ている白石さんにそう伝えながら

胸ポケットにボールペンを挿している自分の手が

妙に緊張していて…

熱を持っているのが分かった…







仕事柄、人前で話すのは得意な方だし…

女の子とのやりとりも、それなりに経験はある…






だけど…

自分からこんな風にアプローチをするなんて

青臭い学生時代以来で…







( いい歳して…なに照れてんだ… )







白石さんは小さく会釈をしてから

「失礼しました」と部屋から出ていき…





バタンとドアが閉まったのと同時に

「ふぅーッ」と息を吐いて

肩の力が抜けていくのが分かり

思っていたよりも

自分が緊張していたんだなと思っていると…








カイ「えっ!今のなんです!?

   ヤバい請求でも見つかったんですか?」







甲斐が俺の側に駆け寄って来て

アレコレと質問をしてきたから

「そんな所だ」と適当に流しながら

自分の席へと戻っていき…






俺はこの時初めて

自分が彼女に惹かれているんだと明確に気付いた…








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