昼食…

〈ユキナ視点〉









休憩開始のチャイムが鳴り出し

いつもの様に立ち上がる

先輩達を見送った後…





自分のバックを手に取り

部屋の外へと出て

人の通りがなくなったのを見計らってから

階段通路の方へと入っていった






( ・・・まだ来てない… )






ドアにもたれかかったまま

ぼーっと立っていると

バタンと上の階のドアが閉まる音が聞こえ

背筋を伸ばして立ち直し

カツカツカツと早足に階段を降りて来る足音に

ギュッとバックの肩紐部分を握りしめ

「お待たせ」と顔を出した青城君に

「お疲れ様…です」と挨拶をした






あの日以来…

青城君から毎晩電話がくる様になり…







アスカ「お昼はどうしてるんです?」






「経理課で…」






アスカ「・・・毎日?」







毎日一人で経理課で食べているなんて…

きっと寂しいヤツだなとか思ってるよね…






青城君の問いかけに

小さく「うん…」と答えると

数秒の間の後「明日…階段に来て」と言われた






アスカ「座って食べようか」






「・・・・・・」






朝と違って誰かが通路に来たらと思うと

中々座れなくて…

立ったままでいると青城君が笑って振り返り…







アスカ「ドアの開く音が聞こえたら

   直ぐに4階フロアに逃げたらいいよ?笑」







「・・・青城君…が見られちゃうよ?」







アスカ「俺は適当に流すから」








「座って」と自分の隣りを軽く叩く青城君に

小さく頷いてから腰を降ろして

バックからいつもの様に

カロリーメイトと水筒を取り出すと

「それだけ?」と驚いた顔をコッチに向けている彼に

「うん…」と顔を手元に向けたまま答えると…







アスカ「なに、寝坊したの?」






「・・・寝坊とかじゃ…なくて…」






社食に行きたくないのも…

一人でベンチに座って食べる勇気がないのも

何となく話ずらくて…

顔を俯けていると

「先生好き嫌いあります?」と

ランチバックから

お弁当箱を取り出しながら問いかけられた






「・・・えっ…」






アスカ「先に言っておきますけど

   ゴクゴク普通の腕前ですからね?笑」






「・・・青城君…作って来たの?」







アスカ「他に誰が作るんです?笑

   先生と食べる為に早起きしたんだけどなぁ…」







青城君は本当に不思議な子で…

時折まざる敬語と砕けた話し方の様に…

表情も変わる子で…






週頭の月曜日以来…

彼の怒った顔は見てなくて…






電話でも…

ずっと優しいままの青城君だった…







アスカ「ソレだけじゃ足りないでしょ

   何がいいかな…とりあえずコレかな?笑」







箸の先に挟んだ卵焼きを

私に差し出してきたから

「いいよ」と手を振って断ると

「いいから口開けて」と言われ…





小さく口を開けると

「もっと開けてよ」と笑いながら

私の口に綺麗に焼かれた卵焼きを入れてきた







ほんのり甘い味付けに

口元に手を当てて「美味しい」と伝えると

「ふふ…」と目を細めて笑い

「じゃー次は何しようかな」と

お弁当の中を覗いていて

味気ないカロリーメイトを持って来ていた事が

なんだか申し訳なく感じた…






( 久しぶりだ… )






自分やお母さんの作る手料理意外の物を

口にするのは本当に久しぶりで…




青城君が口に運んでくれた

生姜焼きも卵焼きも…全部美味しかった…






「ご馳走様でした」とお礼を伝えて

水筒をバックの中にしまい

早めに部屋に戻ろうかと思っていると

「痕は消えた?」と

首の後ろに青城君が手を伸ばしてきたから

思わず逃げる様な動きをしてしまい…





そんな私を見て

目を小さく見開いた後

困った様に笑って「もう酷い事はしないよ」と

腰を上げて私の後ろに回ると

髪を横にズラして首の後ろを確認しだした






( ・・・そろそろ…消えるよね? )






金曜日の今日…

青城君から痕をつけられて4日目になるし…

だいぶ目立たなくなっているはずだ…






前の様に首の後ろを優しく撫でてくる青城君に

「んッ…」と身体を反応させると

「優しくするから」と後ろから声が聞こえてきて

首の後ろに数日前と同じ熱さを感じ

身体を小さく捩らせると

肩を後ろから抱きしめられ

チクッとした痛みが走った…






「・・・・・・」






また痕をつけたんだと分かり

正直どんな顔を向けたらいいのか分からなくて

固まったまま動けないでいると

抱きしめられていた腕がそっと解かれ

「また消えかけたらつけるよ」と囁かれた…






どんなに機嫌良く…

甘い笑顔を向けてくれても…





あの日の事は

やっぱり夢なんかじゃなく…





いつまたあんな怖い目にあうのかと思うと

「止めて」とは口に出来なくて…






アスカ「夜にまた電話するよ」






そう言って優しく頭を撫でる

青城君に「うん」と頷く事しか出来なかった…





私が反抗したりしなければ

青城君は優しいままだから…








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