電話…

〈ユキナ視点〉









『眠る前に電話して』






夕方にスマホを確認した時には

LINEは届いてなくて

少しホッとしていたけれど

眠る前にもう一度スマホへと手を伸ばし

届いてないでと願いながらタップしてみると

青城君からのLINEが届いていて…





電話をしろという指示に

パジャマの裾をギュッと握りしめて

怖いと思いながらも発信するしかなかった…






既読マークをつけて

いつまでも発信をしなければ

きっとまた機嫌を悪くする…






ある意味このLINEアプリは

青城君が私につけた首輪の様だ…







既読スルーでも、未読スルーでも

青城君は許さなくて…

電話をしろと言われれば

言われた通りに発信をしなければならない…






緊張と恐怖で気持ちの悪さを感じている

私の心情とは関係なく

陽気な発信音が耳に届いていて

ブッと通話に切り替わった瞬間

身体全身が小さく揺れたのを感じながら

「あの…」と言葉を発した…






アスカ「ふふ…先生もう寝るんですか?笑」







「・・・あの……ハイ…」







耳に届く青城君の声は笑っていて

機嫌は良さそうだけれど…





早く切ってしまって

ベッドの中で静かに眠りたいと思っていると

「空を見てみてよ」と言われ

言われた通りにカーテンを開けて

暗い夜空に目を向けてみたが

いつも通りの月と星だけの空で…







不思議に思いながら「見ました…」と答えると…

電話の向こう側から楽しそうな笑い声が聞こえた







アスカ「全然ロマンチストじゃないじゃん…笑」







青城君の言葉に「え?」と戸惑っていると

「月を見てよ」と言われ

もう一度空にある月に目を向けると

「ウサギがいるね」と聞こえ

「ウサギ?」と目に力を入れて月を見てみると…







「・・・ぁッ…笑」







アスカ「先生は絵心ないね

   美術とかギリギリ及第点だった?笑」








月の模様がなんとなくウサギの様に見えていて

その事を言っているんだろうけど…




急に言われたって…

ピンとこないわよ…







「美術は…苦手で…」






アスカ「だろうね?笑

   授業中に描いた世界地図も酷いデキだったし」







「へ?」と言いながら

6年前の記憶を辿っていくと…







生徒「先生!日本の周りの国ってなんですか?」







公開授業の日に

クラスのムードメーカーだった男子生徒が

急にふざけてそんな事を言ってきて…




口で説明しても「分かりません」の一点張りで

慌てて黒板に描いた地図を…

「妖怪にしか見えませんよ」と

生徒達から笑われた記憶を思い出した







「あっ…アレは…急に言われて…

  普段はもっと…ちゃんと描けるわよ…」







自分でも忘れていた

恥ずかしい記憶の一部を

青城君に覚えられていて

何となく面白くなくて…





ポツポツと言い返してみると

「字はめちゃくちゃ綺麗なのに」と

意外な言葉が返ってきて

口がムズッと小さく動いた…







アスカ「先生の字…好きだったよ」






「・・・・・・」






アスカ「全然女の子らしい丸字とかじゃないのに…

   なんか凛としてて…綺麗だった…」








5月頭の今…

虫の鳴き声が聞こえ出すには

まだ早くて…

   





窓から聞こえてくるのは

遠くの道路を走る車の音だけで…

全然なんてことのない夜なのに…






緊張とも恐怖とも違う…

不思議な気分だった…








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