夜…

〈ユキナ視点〉











ベッドに入ろうとして

「あっ…」とある事を思い出し

ベッドへと上げた片足を降ろして

通勤バックから入れたままのスマホを取り出した







アスカ「とりあえず1日4回はスマホ見て」







青城君から言われていた言葉を思い出し

暗くなっているスマホの画面をタップすると

LINEの通知が表記されていて…






「・・・・・・」






なんとなくアプリを開かないまま

スマホを胸に抱きしめて

パチンっと部屋の明かりを消してから

ベッドの中へと体を潜り込ませた




一人暮らしで誰もいない

暗い部屋の中で

更に毛布の中へと顔を隠してから

手にあるスマホの通知画面をタップし

届いているLINEを見てみると…






『眼鏡戻ってきて良かったね』






青城君のLINEにある様に…

私の涙が止まって経理課へと戻ると

入り口側に座っている児玉さんが

「これ…」と溝口トオルから

取られた眼鏡を差し出してきた







コダマ「悪かったって…言ってました…」






「・・・・ありがとうございます…」







児玉さんは私の1つ上の先輩で…

私の様に口数も少なく…

いつも黙々と仕事をしていて

あまり話した事もないから

それ以上なにも言えずに

眼鏡を受け取ってから自分の席へと腰を降ろした





悪かったと言っていたのも

届けに来たのもおそらく溝口トオルだろう…





福谷さんも高島さんも…

皆んな何も言わないまま仕事を続けていて…

私も、何もなかったかの様に

自分のデスクで無言で仕事を続けた





スマホに映るLINEを眺めながら

何故あそこにいると分かったんだろうと不思議に思い

右手を伸ばして聞いてみようかと思ったけれど…






【 昨日の夜LINEきてさぁ… 】






昔の記憶が止めた方がいいと言っている気がして

打ちかけた文を全て消し

『うん』とだけ返事を返してから

スマホを枕の下へと置いた…






( ・・・・・・ )






質問を送るのも…

おやすみと送るのも…

きっと間違っている…






青城君は昔の私を知っているから

つい…気が緩んでしまう…





並んでドーナツを食べたり

涙を拭いてくれたりするから

まるで友達なんじゃって…

錯覚してしまいそうになる…






「あの子は…の私に

 優しくしてくれてるだけなんだから…」






青城君が私に告白してくれた理由が

ずっと分からなかったけれど…





今日思い出した記憶…

きっとアレだったんだろう…





自分のコンプレックスに対して

私が…昔の私があんな風にアドバイスした事が

彼の中で嬉しかったんじゃないかな…






17歳…

あの位の年齢じゃよくある事だし…

教育実習生という物珍しさもあって

あの言葉をくれたんだろうけど





今の私は…コンプレックスの塊で

人の目を見て話す事も出来ない…

情けない先輩で…







アスカ「しっかりしてくださいよ…先生」







( ・・・しっかり… )







彼から言われた言葉とは別に

また唇を重ねられた事を思い出した私は

枕に顔を埋めて「ンーッ…」と声を漏らし

足を小さくバタつかせた…




キスなんて5年ぶりで…

前の時とは違って抵抗をしなかった自分に

少なからず動揺していた…






( ・・・だけど… )






「ダメ…関わっちゃ…ダメ…」







【 男の前だと無駄に髪の毛触ったり… 】






【 コンタクトじゃないんですとか…

  コンタクト入れてるアタシらへの嫌味かっての 】







最初は…

アレが原因だったんだから…





彼と関われば…

きっと…周りから見られる…

また…あんな風に言われる…





私だけじゃなくて…

私なんかと関わっている彼も…

きっと変な目で見られ出す…





彼が優しくしたいのは

6年前の…先生の私で…





その私は…もういないんだから…








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