日曜日

〈ユキナ視点〉









玄関のドアノブをギュッと握り

「はぁー」と深い深呼吸をしてから

ゆっくりとドアを開けて

目元の直ぐ上にある帽子のツバ部分を

グッと下げてから一歩踏み出した






( ・・・大丈夫… )






日曜日だし…

まだ…朝の8時前だし…





右の手首にある

黒いヘアゴムをチラッと見て

「大丈夫…」と小さく呟きながら

道の端に体を寄せて

いつもよりも顔を俯かせて歩いた…





伸びてきた髪を切りに

少し先にある理髪店へと向かっているけれど

私の髪は…今日だけは束ねられない…






理「うーん…

  髪を結ばれると切りにくいからね…

  次回からは結ばないで来れるかい?」






私はヘアゴムでキツく髪を結ぶから

髪にその癖がつくようで…

一度シャンプーをしなくちゃいけなくなるらしい…





今のアパートに引っ越して来てから

この4年ちょっと…




今から行く理髪店にずっと通っていて

おじさんとおばさんの二人だけで営んでいる

あの小さなお店が好きで…





8時開店の所も気に入っていて

いつも人通りの少ない

日曜日の朝1番の予約をとっていた






「おはよう…ございます…」






昔ながらの青と白と赤の3色が

クルクルと回るサインポールの直ぐ隣りにある

ガラスのドアを開けて声をかけると

「いつも時間ピッタリだね」と

笑って迎えてくれるおじさんにホッとしながら

中へと足をすすめた





普通ならば

10分前とかに来た方がいいんだろうけど…

開店時間からの予約だから

早く現れるのも気が引けて

8時ちょうどにドアを開ける様にしている






理「さっ…今日はどうするの?」





「えっと…いつも通りに

 肩より少し…眺めで…

 あと前髪も…いつも通りで…笑」






この4年間…

注文を一度だって変えた事はないのに

おじさんは必ず「どうする」と尋ねてくる







理「雪菜ちゃんは

  もっと可愛い髪型が似合うと思うんだけどなぁ…」







「いつもの髪型が落ち着くんです」







もう少し短くして

ボブにでもするかいと言われた事もあったけれど

ボブなんて髪型…私には似合わないし

地味に過ごしたい私には…必要ないから…






理「前髪は眉の少し下だったね」





「はい…長めでお願いします」






少しでも顔や目元が

隠れていてほしいから

前髪は目元ギリギリの長さにしていて

伸びてきたら自分でカットしていた






30分もしないでカットが終わり

「ありがとうございました」と

お礼を伝えてからお店を後にし

24時間開いているスーパーへと行って

1週間分の買い出しをしてきた






9時半前にはアパートへと帰りつき

そこからは一歩も外へとは出ずに

洗濯をしたりテレビを見たりして1日を過ごす…

これが私の休日の過ごし方だった






誰の目も気にする事なく

一人で過ごすこの1日が気に入っていた…














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る