赤…
〈ユキナ視点〉
「・・・・・・」
目に違和感を感じ
顔を少し背けて瞬きを数回してみると
瞳にチクッと痛みが走り
パッと目を押さえて
机の引き出しにある小さなポーチを手に取って
早足でトイレへと向かった
( ・・・コンタクトが破けた? )
依然にも同じ事があり
破けたコンタクトの隙間から見える
自分の本当の目の色に
スーパーの店員さんが驚いていたから
左目を押さえたままトイレに駆け込み
誰もいないのを確認してから
鏡の中に目を向けると…
「やっぱり…」
黒い目の隙間から赤い色がチラチラと見えていて
コンタクトレンズが破けたんだと分かった
ポーチから慌てて
新しいコンタクトレンズを取り出し
破けたレンズをペーパータオルに包んでから捨てて
指に新しいレンズを乗せて取り付けようとすると
話し声が近いて来て「あっ…」と
焦った瞬間レンズが指から落ちてしまった
「レンズが…」
足音が更にコッチに近づいているのが分かり
落ちたレンズをゴミ箱にパッと投げ入れて
個室に逃げこんだ
ドアを閉めた後直ぐにトイレの入り口ドアが開き
「えー信じられない」と
数人の話し声が狭いトイレに響き
肩を振るわせながらポーチの中にある
もう一つのレンズを取り出した
( いっ…急がないとッ… )
この階のトイレはそんなに広くないし
数人いるのならいつまでも
出ないわけにはいかない…
鏡がないけど大丈夫だろうと思い
ポーチと空のケースを便座蓋の上に置いて
右手の人差し指に乗ったレンズを
左目に近づけていくが…
( あれ… )
目に装着しようとしても
指からレンズは離れず上手く装着してくれないレンズに
更に焦っていき左手で目をグッと開けて
もう一度装着しようと指を近づけた瞬間
コンコン…
女「あのー…」
突然背中にある扉をノックされ
驚いて顔をパッと向けると
閉じたままのドアの向こう側から
「まだですか?」と問いかけられ
「すみません」と謝り
早くレンズを着けなければと
人差し指を見て「えっ…」と固まった…
( レンズが…ない? )
何処かに落としてしまったのかと
慌てて周りを確認するけれど
ベージュ色の床にも白いトイレ用具にも
黒いレンズはなく
「どうしよう…」と焦って声を漏らすと
隣りのドアが開き「コッチ使いなよ」と
声が聞こえてきて
用を足し終わった彼女達は…
女「私たちはもう大丈夫ですから
ごゆっくりどうぞ?笑」
女「大変そぉ…笑」
と笑いながら出て行く声が聞こえ
私がお腹を壊していると勘違いしている様だが…
響く声がなくなりホッとして
またレンズを探し出してみるけれど
どこにもなくて…
「どうしよう…」とまた呟いた…
予備のレンズは2個だけで
2つとも使ってしまった今…
黒いコンタクトレンズは
私の右目に装着されている一つだけだ…
片目を隠したまま個室から出ていき
鏡の前へと立ち…
左目に当てている手をそっと降ろすと
赤茶色の目が見え「はぁ…」と息を吐いて
両目をギュッと閉じた…
私の目は…茶色くて…
普通の茶色よりも赤味の強いこの目が
5年前から大嫌いだった…
【 ヴァンパイア気取りかっつーのッ! 】
【 目は吸血鬼だし髪はサダコだし…笑 】
「・・・ヤメテッ!」
思わず声を上げてパッと目を開くと
裸眼の方の目が赤く揺れていて
涙ぐんでいるのが直ぐに分かるのに
右側のレンズを装着している目は
いつも通りで…
「作り物の目が…感情を見せるわけがないよね…」
涙も…悲しさも消してくれる
黒いコンタクトレンズがないと
皆んなの前には行けない…
だけど私は社会人で…
ここは会社で、今は勤務時間中だ…
( 戻らないわけにはいかない… )
息を整えてから
鏡の中の自分を見て
カタカタの目で社内を歩き回るわけにもいかず
右目のコンタクトレンズを外して
赤茶色に光る両目を見て
「本当にヴァンパイアみたい…」と呟いた…
「ふぅー…大丈夫…大丈夫…」
前髪を出来るだけ下にさげようと
手ぐしで下へと伸ばし
度の入っていない黒ぶち眼鏡を着けて
必死に「大丈夫」と自分に言い聞かせてから
トイレから出て行き
下を向いて歩いていると
「あっ!」と嫌な声が耳に届いて来た
トオル「お局さん、いい所に!笑」
( 溝口…トオル… )
左手を前髪に当てて
早足で経理課の方へと向かうと
「ちょっと!?」と言って
後ろから走ってくる足音が聞こえ出し
慌てて足を早めたけれど
長身で足の長い彼から逃げ切る事は出来ず
直ぐに追いつかれてしまった…
トオル「なに?もしかして
年齢間違えてた事怒ってる?」
「・・・いえ…」
私の前で腰に手を当てて立っている彼に
いつもよりも顔が向けれず
前髪を更に強く抑えると
「いいあだ名だと思うんだけど…嫌ならね…」と
遠回しな謝罪をしだした溝口トオルに
「気にしてませんから…」と
早く解放してもらおうとそう言うと
トオル「あれは見た目っていうか…
白石さんの堅いイメージを
例えたあだ名って言うかさ?笑」
「・・・本当に…」
立ち止まっている私達を
遠目に見ている人達がいて
いつも以上に人に見られたくない私は
「仕事に戻ります…」と
溝口トオルの横を抜けようとした瞬間
パシッと前髪を抑えていた左手を掴まれ
グッと腕を引かれた
( ・・・ぁっ… )
トオル「さっきから前髪どーした……の…」
溝口トオルの声がどんどん小さなっていき…
私の何処を見ているのも分かり
咄嗟に右手で
自分の目元を隠してから
「離してください」と腕を振り解き
経理課の方へと逃げて行った…
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