目…

〈ユキナ視点〉












カイ「だから違うって言ってんじゃん」







毎朝、比較的空いている時間に出社しているけど…

ロビーの奥から大きな話声が聞こえ足を止めた







( ・・・・あの声は営業課の… )






カイ「誤解だってッ!」






聞こえてくる会話に喧嘩でもしているのかと思い

端の方へ姿を隠したまま

小さく息を溢した…





営業課の甲斐君と言えば

お調子者の様な性格をしていて

数ヶ月も前の領収書を持って来たり

日付けをデタラメに記入してきたりと

経理課の中では問題児的な存在で…






( ・・・確か… )






フクタニ「営業のあの甲斐君!

   女の子と仲良く歩いてたんだけど…

   数日前の子と違ったのよねぇ…」


 



タカシマ「それが…営業課だろ?笑」






女子社員達からの人気もあり…

取引先の受付け嬢達とも

よく…お付き合いがあるらしい…




顔をちゃんと見た事はないけれど

福谷さんいわく

ジャニーズ系の可愛い顔をしているみたいだから

営業課の中でも人気があるんだろう…





「・・・・・・」





ふと…

昨日見た青城君の顔を思い出した…




彼も…綺麗な顔をしていたし

甲斐君の様にお付き合いが忙しくなるんだろうな…




ぽてっと可愛い厚みのある唇の印象とは違い

目は…男の子だった…






カイ「今夜時間作るよ…

  うん…少し残業になると思うけど

  その後部屋に行くから」






甲斐君だけの声しか聞こえて来ないから

きっと…電話だったんだろう




小さなタメ息が聞こえた後

革靴の遠ざかって行く足音にホッとし

甲斐君がエレベーターに乗るまで

姿を隠していると…






アスカ「おはようございます」





「ぇっ……キャッ!」






後ろから突然聞こえてきた声に驚いて

「おっ…おはようございます」と

ズレた眼鏡を元に戻しながら挨拶をし…

逃げる様に早足でエレベーターへと向かった





甲斐君はもうエレベーターに乗って行った様で

上昇しているマークのエレベーターを見て

隣りにあるもう一台の

エレベーターのボタンを連打しながら

後ろから来るであろう青城君にソワソワとしてた






( はやく!早く! )






ゆっくりと開く扉に

(もう!)と思いながら

エレベーターの中へと入り込み

急いで〝閉〟のボタンを押すけれど

閉まりかけたドアの隙間から

白い手がグッと入って来たのが見え

「ぁ…」と呟き…





「乗ります」と不機嫌顔で

エレベーターの中へと足を踏み入れる青城君に

目が合わせられないまま

自分と青城君の行き先ボタンを押した






「・・・・・・」





気まずくて…

自分の息遣いが妙に大きく感じ

口を閉じて息を止めていると

「視力…悪くなかったですよね」と

後ろから問いかけられ

肩にかけられている

バックの肩紐をギュッと握りしめた





アスカ「・・・目も」





「・・・ッ…目…悪いの…」





彼が何を言おうとしているのかが分かり

慌てて閉じていた口を開けて言葉を返した






アスカ「・・・・・・」





「きゅっ…急に悪くなって…」






何も答えない青城君が

どんな顔で私を見ているのか分からないけれど

それ以上は何も言ってこなかったから

エレベーターが4階に着くと

また逃げる様に

彼に背を向けたまま走って行き




営業課のドアを開けて

「おはようございます」と

誰もいない部屋に小さく挨拶をしてから

自分の席へと荷物を降ろした





「・・・・ハァ…」





6年前の私を知っている青城君に会うと…

「離れろ」と言うような

激しいアラート音が全身から聞こえ出す





( あの子に近づいちゃダメだ… )























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