第36話 新幹線はSF

 休日、咲夜さくやは押入れの整理をしていたところ、それを見かけた竜一りゅういちが彼女に声をかけてきた。


「咲夜さん、荷物の整理ですか? 俺も手伝うよ」

「あらありがとう。気が利くじゃない」


 気が利く義理の兄に彼女は上機嫌だ。2人が協力して押入れの中から出してきたものは、竜也たつやが幼稚園児の頃使っていたクレヨンやカバンだった。




「カバン、ずいぶんと小さいな」

「そうねぇ、竜也が幼稚園児だったころのものだからもう10年以上前の話になるわね。今と比べても随分とちっちゃくて、私がTVを見てたらよく膝の上に乗ってたわね」


 咲夜が昔を思い出しながら作業を進めると次いで出てきた本は新幹線や電車に関する子供用の本だった。


「竜也の奴、新幹線が好きだったんだな」


 幼稚園児や小学校1~2年程度の男の子は大体は「でかい=凄い」という方程式が成り立つ。

 だから自分からしたらはるかにでかい電車や飛行機、恐竜や宇宙は時代を問わない鉄板のコンテンツだ。その辺は竜也の世代でも変わらないようだ。


「そうねぇ。あの子は電車や新幹線を見るたびにはしゃいでたわねぇ。懐かしいわね」

「俺も昔は宇宙のでかさにスゲェって思ってたなぁ。それがSFにハマるきっかけだったんだよなぁ」

「へぇそうなんだ」


 手を止めて昔話をしていた2人だったが竜一が本を見てちょっとだけ気になったことを咲夜に問う。


「そういえば30年後の新幹線ってどうなってんの? スゲェのか?」

「凄いかどうかは分からないけど、確か北海道まで新幹線で行けるようになったとは聞いてるわ」

「ええっ!? 新幹線で北海道に行けるのか!? もう飛行機に乗らなくてもいいのか!? スゲェな!」


 新幹線で北海道に行ける。昔は飛行機に乗らないといけない場所まで陸路で行けるとは! 竜一にとっては十分凄いことだった。

 実際には青函せいかんトンネルは80年代に運用が始まっており、在来線がトンネル内を走っていたので

 この時点で陸路で北海道まで行けたのだが、新幹線が乗り入れるようになったのはまだ10年も経っていないごく最近の事だ。


「元から新幹線を通すつもりでトンネル作ってたって言うのは聞いたことがあるわ」

「へぇそうなんだ! いやぁスゲェなぁ! 新幹線が北海道まで通ってるとはなぁ! 「先見の明」って奴があったんだなぁ。

 ……そういえば今の新幹線ってどんな形をしてるんだろ?」


 竜一は気になってスマホで検索してみると……。


「なんか最近の新幹線は妙に顔の下の部分が長いなぁ。昔はこの辺シュッとしてたのに。なんでこんな形になっちまったんだ?」


 昔の新幹線、具体的には「300系のぞみ」の頃はもう少し丸っこい形をしていた。今の新幹線はやたらと下部が長く、30年前の人間からしたら新幹線の「顔」としてはだいぶ奇妙な印象を受ける。




「私はなぜそうなのか分からないけど多分調べれば載っていると思うよ」

「そ、そうか。じゃあ試しに……」


 竜一はついでになぜこんな顔になっているのかをスマホで調べた。


「へー。空気抵抗を少なくするのと、トンネルを抜ける際に騒音が出ないためにこういう形が一番なんだって。未来の新幹線はもっと尖ってる感じのイメージ持ってたんだけどなぁ」


 竜一はせいぜいが「空気抵抗関係」だとしか思っていなかったがトンネル周りのためだというのが予想外の答えが載っていた。


「それにしても何でもかんでもスマホでパパっと検索かぁ、時代は変わったなぁ。

 昔は分からない事があったら「どうしてそうなのか自分で考えてごらん」って言われてたけどもうそんな時間は無いのか。なんか寂しいなぁ」


 竜一にとって大人達が子供からの質問に分からなくて答えが出せなかった時にいう苦し紛れの言い訳が無くなったのは、ちょっと寂しかった。

 想像力をかき立てる必要がなくなった今時の若い人たちはZ世代などと呼ばれているらしい。


「私も子供の頃はよく言われたなぁ……私にとっては今の子供たちがうらやましいわ。すぐ答えが分かるんだもん。

 大人たちの「自分で考えてごらん」って要は大人にも分からないからそんな事言うんでしょ? それを聞かずに済むのって結構いい事だとは思うんだけど」

「そうか……そういうものなのか」


 咲夜は今の子供たちを「うらやましい」と言っていた。そういうものなのか、と竜一は思う事にした。




【次回予告】

 社会現象を起こしたRPGがある。それはシリーズ化されて初代が発売されて25年以上も経った今でも現役でプレーヤーを魅了し続けている。

 そのゲームの「派生作」に竜一が触れることになった。


 第37話 「位置情報ゲームはSF」

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