第37話 位置情報ゲームはSF

 夕方、仕事を終えた竜二りゅうじは外へ出かける準備をしていた。マスクをしてスニーカーをいてスマホを片手に持っていた。


「あれ? 竜二、どこ行くんだ?」


 家の玄関を出ようとした竜二に竜一は声をかける。こんな暑い中家を出るなんて、車のカギを持っていなかったので車にも乗らずにどこへ行くのか疑問に思っていたのだ。


「兄貴か、ウォーキングだよ。俺、こんな腹だろ? 健康診断で毎年毎年運動しろ、って医者から言われてるからやってるんだ」


 竜二は見事に中年太りした腹を揺らして兄である竜一りゅういちに無用なアピールする。


「なるほど運動か。俺も一緒に行っていいか? 兄弟で話をする機会なんてあんまり無かったからさ、いいだろ?」

「んー……そうだな。分かった。一緒に行こうぜ」


 竜一は竜二と一緒におよそ30年ぶりに兄弟一緒の時間を過ごすことになった。




「で、学校はどうだ?」

「ああ、クラスメートや竜也たつやとも仲良くやってるよ。特に心配するようなことは起こってないから安心してくれ」

「そうかそうか……って、おっと」


 兄の学校での出来事や、弟の仕事の状況を話し合っていると、スマホが振動して竜二は何かが起こったことを悟る。

 画面を見ると竜一には馴染みの無い、謎のキャラクターが表示されていた。


「竜二、何だそれ?」

「『ポケクリGO』っていう位置情報ゲームだよ。ウォーキングしている際には必ず起動しているんだ」

「『ぽけくり』……? 位置情報ゲーム……? 何だそれ?」


 竜一は弟の言う事に全くついていけない。中国語を一切知らない人間が急に中国語で話しかけたのと同じくらいに、何が何だか分からないものであった。


「ああそうか。ポケクリシリーズの初代が出たのは1996年だから兄貴は知らないのも無理ないか。じゃあ教えるよ」


 竜二は兄に対してまずは『ポケクリ』の解説を始めた。それをまとめると……。


 ポケットクリーチャー……略して「ポケクリ」と呼ばれる生き物を捕まえて仲間にし、ライバルと戦う携帯ゲーム機のRPG。

 RPGとしてソフト単体で完結しているが、通信プレイに対応していてお互いに捕まえたポケクリを交換したり対人戦が出来るようになっているのが大きな特徴だ。

 ソフトがバージョン違いの2種類あり、出てくるポケクリの種類が違うのも、通信プレイを促している要素だ。


 一時期は風前の灯火だった携帯ゲーム機市場を1発で復活させ、通信プレイという携帯ゲーム機の今後の方向性さえ決めた、まさに革命を起こしたといえる怪物ソフトだそうだ。

 そのスマホ版である「ポケクリGO」はサービス開始から何年も経つのにいまだに衰え知らずの大人気ゲームアプリなのだという。


「へぇー。そんな人気ゲームが俺の知らないところで生まれてたんだなぁ」

「人気なんてもんじゃないよ。噂じゃ世界レベルでこれを知らない人が少数派って話だぜ? ゲーム業界におけるミッキーマウスみたいなもんだぜ?」

「へぇそこまで言うか! スゲェなぁミッキーマウスレベルとまで言い切るとはなー。で、位置情報ゲームって何だ?」

「分かった。それも教えるよ」


 次に始まったのは「位置情報ゲーム」に関する解説。それをまとめると……。


 位置情報ゲーム……スマホには位置情報を知らせる機能が初めから備わっており、それを利用してプレーヤーの現在位置をゲームメーカー側が把握して「実際に移動すること」で進めていくゲームだ。

 正確に言えばスマホより1世代前の携帯電話ガラケーの時代からあったのだが「ポケクリGO」の世界規模の超絶大ヒット、

 具体的には「リリース当初はあまりにも売り上げが大き過ぎて、当時放映されていた映画の興行収入こうぎょうしゅうにゅうと比較したけどそれにも勝っている」というとんでもない出来事で一気に有名になったジャンルだ。


「へぇスマホの機能を使ったゲームかぁ! そんなものまであるとはなぁ! SFでも出てこないゲームだなスゲェなぁ。

 でもわざわざ移動しなければゲームを進められないって面倒なことなんじゃないの?」

「そこはもう俺みたいな運動不足な人間なんていくらでもいるから、莫大な需要があって今でも新しい位置情報ゲームが作られ続けてるそうだぞ」


 竜二は兄にそう語るも、自虐的な意味は無かった。


 一説では「何言っても外に出なかったうつ病患者がポケクリGOをきっかけに出るようになって「医者はゲームに勝てないのか?」と無力を感じた精神科医がいた」

 という逸話があるとかないとか、という話まであるそうだ。

 そうでなくても定年後や老後の健康づくりのためや、子供や孫がやってるから。と始める人もいるのだとか。


「へぇー。スマホじゃないと遊べないゲームか! 携帯ゲーム機のゲームからは考えられないなぁ。俺もスマホ持ってるから遊べるんだよね?」

「ああそうだよ。アプリストアでいつでもダウンロードできるぜ。家に帰ったら兄貴もダウンロードしてやってみなよ」


 竜一は通信に関しては「動画視聴やアプリダウンロードといったデータ量のかかる物は家でやれ」と言われていたのを思い出した。

 確かWi-Fiなるものと無線で接続すれば通信費がWi-Fiの定額の物になって通信料を節約できるのだそうだ。


「いやー科学の進歩って奴は本当にスゲェなー! SFの世界にしか無かった物が次々と現実になるし、SF作家ですら思いつかなかったものがあるなんてなー!

 いい世の中だ! 本当に良い世の中になったものだ!」


 竜一が2023年によみがえってから3~4ヶ月ほど経つが、センスオブワンダーあふれる未来のハイテク機器が現実のものになっていることに驚き続けていた。

 本人が言うにはよみがえってよかった! と心の底から満足し「次はどんなSFガジェットが出てくるのだろう」という「小学生の遠足前日」がずっと続いている状態なのだという。




【次回予告】

 竜一は謎解きがメインのゲームをしていたが、どうしても解けずに詰まっていた。

 昔は攻略本を買って読んでいたのだが最近は攻略情報も全てネットに上がっているらしい。


 第38話 「攻略WikiはSF」

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