「この小娘の世話をしろだと!?」

「この小娘の世話をしろだと!?」

 心底、嫌そうな顔でありました。

──気持ちは分かります。

 いきなり見ず知らずの娘──といっても一応、親族ではありますが──の世話を押し付けられたのでありますから。不満に思うことは当然でありましょう。

 しかし、当人としては、彼の言い様は心に突き刺さるものがありました。


 そんなカールに物怖じせず、紳士はあくまでも冷静な態度を崩さずに頷いてみせました。

「ええ、それが故人の意思です。勿論、放棄して頂いても構いません」

「それじゃあ、遺産丸々放棄ってことになるじゃねぇか! この小娘の世話をしなきゃ、遺産は貰えないってことかよ!?」

「まぁ、そうなりますね……」

 紳士は苦笑をし、「最も、お世話をしたところで、遺産自体を見付けなければ一円も貰えはしないようですがね……」などと余計な言葉を付け足した。

「……チッ!」とカールは舌打ちをして、かなり苛立った様子になっています。


──私としては複雑な心境でありました。

 私の存在がこうも疎ましく思われ、嫌そうな顔をされるなどとは夢にも思っていませんでしたので、とても気分の良いものとは言えませんでした。


 カールは悲しげな私の表情に気が付くと、ハァと深々と溜め息をつきました。そして、言い過ぎたとばかりに自分を諌めるように頭を掻き毟りました。

「あの爺さんも、どういうつもりなんだよ……。そんな面倒な頼みを置いてくんじゃなくて、 大人しく遺産だけ遺しておけばいいのによー」

 本当に、カールは嫌そうでした。

 でも、私は自分のことならまだしもお爺様に失礼なことを言うカールに、なんだか怒りが込み上げてきたものです。

 私は負けじと、カールを睨み付けてやりました。


「ああん?」

──そんな精一杯の私の睨みを、カールは鼻で笑い飛ばしました。

「目に虫でも入ったっていうのか?」

 そんなことを平然と言うカールを、私は目を細めて見ました。

 この人には、おそらく私の気持ちは何も伝わることはないでしょう──。

 渾身の睨みを茶化されてしまった私は、プーッと頬を膨らまして怒りを露わにしました。


 相変わらず、カールは私のことなど眼中にないようです。一人でなにやら考えて、ウンウンと頷いておりました。

「……ああ、そうだ。良いことを考えた。……よし、こうしよう小娘。俺が引き取ってやるよ」

「……え?」

 あんなにも嫌そうだったのに、どういう風の吹き回しでしょう。私は思わず目をパチクリと瞬きました。

 勿論、ただの親切心から気が変わったわけではないようでありました。


 カールは指を立て、こんなことを言い出したのです。


「ただし、条件がある。……服を脱いで裸になれ!」


──その瞬間、部屋の中が凍り付いてしぃんと静まり返ったのでありました。

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