Epilogue -Anna and Marie-

「「いままでお世話になりました」」

「いいんだよ。今度はぜひみんなでおいで。アンナさんも一緒に」

「はい、大叔父様。」

「…ありがとうございます…」


長かったような…でも、とても短く過ぎた1週間だった。

滞在させていただいたおばあさまの実家…大叔父様の家を今日出発し、日本へ帰るのだ。

帰り際、セドリックさんにもお礼を言った。


この1週間、とてもお世話になった。

今度はぜひ日本に招待したい。


そう言うと、にこやかに微笑んでくれて、


「ほほほ…ありがとうございます。老い先短い我が人生にも楽しみができましたな。」

「またまた…ぜひいらしてください。おばあさまも喜びます」


そう言うとセドリックさんがニヤリと笑った気がした。


「ほほ…そうですな。シルヴィ様の御令孫にも大切な人が見つかったとご報告せねば」

「―な!」

「―っ!」

「では参りましょう。空港までお送りいたしましょう」

「…もう、セドリックさんたら…」


こうして、顔が火照っているのを自覚しながら、同じく赤くなっている杏奈の手を引いて屋敷を後にした。


―さようなら。いつかまた。


奇跡のような出来事の後、改めて自分たちがたどった軌跡を思い返した。




飛行機の中、肩にもたれかかる杏奈を感じながら、私はまどろみの中ある夢を見ていた。



私とジャンヌは一緒にドンレミの村に戻り、両親にただいまと言ってもみくちゃにされるように喜ばれる。

そしてジャンヌや私の兄弟と一緒に、ジャンヌと私の長かった旅のことを言って聞かせている。


そして―教会を訪れ、牧師様に無事に帰ってきたことを報告する。


やがて、村のはなれにある小川のそばに2人で座り―私はジャンヌの方を向く。

頭一つ分背が高いジャンヌを見上げると、彼女の青い瞳に―私が、頬を赤くして映っている。

彼女の唇が―艶やかに濡れているように見えて、私の鼓動が高鳴る。

そして次の瞬間―ジャンヌが私のあごに手をやり―それを合図にお互いに目を閉じ―



「―っ、夢、なの…?」


ふと気が付くと飛行機の中が暗くなっていて、灯りが落とされている。

どれくらい眠っていたのだろう。


「それにしても―幸せな夢…」


きっと、ジャンヌに何もなければ待っていたであろう未来。

一人の娘に戻った、ジャンヌの姿。


そして―その彼女のそばにいる、私。


夢の最後の瞬間を思い出して、思わず口に出してしまう。


「はぁ…いつも夢は肝心なところで終わってしまうのよね…ジャンヌ…」

「なぁにマリー」

「―!!?」


急に返事をされて振り返ると…杏奈がにこやかに微笑みながら私を見ている。


―肩に寄りかかりながら。


「ねぇマリー、私にもその夢の内容教えて?」

「え!?えっと…し、幸せな夢よ?じゃ、ジャンヌと…私がドンレミに帰って…」

「へぇ…いい夢ね。ねぇ…夢の終わりに、私たち何かしてたかしら?」

「―!!そ、それ…は…」


彼女が―杏奈が、夢の中のジャンヌと重なる。

背も、目の色も、髪の色も―全然違うけど、それでも真っ直ぐで自分を曲げず、周りを巻き込む力がある点は全く同じ。


言われてみれば、性格はそっくりだったんだ―


そんな彼女が、同じように―きれいな瞳を私に向け、その唇が―待っている。


―何を?


「…ふふ、私ね、もう一つ思い出したの。」

「え?な、何?」

「それはね―」

「―ん、んん…!」


その続きは、私たちの唇が重なる音でかき消された。


「あ…だ、だめ、ひ、人が見てる…」

「…マリー」


彼女の瞳が、私を捉える。

愛しい―私の大切な、人。


600年前から、ずっと好きだった人。


「ずっと一緒にいてくれる…?」

「…Oui, ma chere fille(ウィ、マ シェ フィ)」


彼女が嬉しそうに微笑んでいた。


Fin

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ジャンヌ・ダルクに逢いたくて さくら @sakura-miya

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