第52話 弟 6

弟は絶対に誰かがいる時は、決まって誰もいない夜中だった。


大量に食べる時もあれば、全く食べない日もあった。


食べる時には米三合と、昼食、夜御飯と、ポテトチップスの大と


更には、リッターのコーラを飲み干しても足りない程だった。


全く何も食べない日は、本当に一日中何も食べた様子は無かった。


弟は変わった奴の中でも、特に変わった奴だった。


私の中学の同級生の間で、私の弟は有名だった。


弟の同級生よりも、私の同級生のほうが弟を知っていたのは、


私の部屋が当時、たまり場だった為だ。


前にも言ったかもしれないが、調子に乗るタイプの私の同級の


バカが、突然廊下を走ってきて、私の部屋に入って、そのまま奥の


広々とした物置の部屋に入った。ドスドスとゆっくりだが力の入った


足音が聞こえてきた。


私の部屋の扉を、バンッとノブが力で外れそうなくらい力んでいた。


「どこな?」と弟は一言だけ言った。誰もが黙っていたが、周囲を見て


すぐに奥だとバレた。


弟は無言のまま物置のドアを引くと、自らも物置に入って行った。


ドアは開いたままだが、何も見えなかったが、


何が起きているのかは、感じ取れた。


一分ほどの長い時間、一方的にボコボコに殴られ、弟は満足したのか


何も言わず私の部屋から出て行った。


一分と聞いて短いと思う人もいるだろう。


だが、実際殴り合いならまだしも、一方的に1分間も殴るのは長いのだ。


そいつは暫く出て来ず、我々もほっといた。


ずっと出てくる気配がないので、私は「挑発するなと言っただろうが?」


と言ったが、彼は皆が帰るまで出てこなかった。


私はドアを開けて、「お前はアホか?」と言った。


彼は物置の奥まで追い詰められ、ボロボロになっていた。


普通生きていて、殺気というものを本当に感じる事は少ないはずだ。


私と同級生、そして弟が、何かで遊んでいた時、それは起きた。


その私の同級生は、誰もが一番変わっていると言われていた奴だった。


私は中学を卒業した後、そいつと10年以上つるんでいた。


同級生に会う度に言われた。「よく制御できるね」と皆が言った。


それは弟がそれ以上だったからなのかもしれない。


三人で机で麻雀かトランプをしていた時、私は弟が何かをして


私の殺気が漏れた。同級生は丁度中央にいた。何も言葉は言わなかったが、


明らかな空気の変化に気づいていた。


そして弟は、私の殺気を飲み込むほどの殺気を出した。


気合で負ければやられる。私は気勢を張った。


数十秒程度たち、弟は不機嫌そうにドアを殴るように開けて出て行った。


私も友達もお互いを見た。そして友人は言った。


「本物の殺気だった。正直殺されるかと思った」


私も同じ気持ちだった。私が気合負けした相手は弟だけだ。


友人は身長も180センチあり、ガタイも良い。


弟は身長170センチで、ガタイはそれほど良く無い。


それでも彼は冷や汗をかいて、本当に怖がっていた。


一瞬であそこまで、殺す気になれるのは一握りの人だけだろう。


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