第51話 父 9

父は自分から「弁護士に会ってくれ」とは、


流石に言わなかった。極希に、弁護士の話が出る程度だった。


当然、状況を確認する為に、私のほうから話はふっていた。


当たり前の事だったが「難攻している」とだけ口にした。


私の人生では多く見て来た。


人間の弱さと強さ。金持ちと貧困から来る隔たり。


人は悩みが無ければ普通でいられる。


しかし、問題が持ち上がると悩む。


それは人間だから仕方の無い事だ。


しかし、父たちの動向は、私を裏切り、更には不出来な叔父と


共謀していた事に裏ではなっていた。


あまりの酷さから、息子に絶縁された等とは、兄弟には言えなかったのだろう。


それは兄弟に対しては、良い風に嘘をついてきた代償だった。


私に支払いはしなくていいと言ったのは、父しかいない。


その頃は、父も強きだった。


私を思い通りに使い、土地が売れて、問題無く進んでいるように思えていたからだ。


犠牲は私が全て背負い、終わりが目の前に見えていた。


私は国税局に言うか迷っていた。最初の1千万程度ではあるが、


タンス預金の一部を皆、受け取った。当然、バレない金だ。


しかし、遠縁ではあるが国税局に努めている人がいた。


世の中がまともじゃない事を、知っている人は数少ない。


父も母も無茶苦茶だった。


通常の世界で予測を立てても無意味でしかない。


常識が通じる相手では無い事をまず理解しなければ


闘いにもならない。


私が敵対者となって、皆、国税局に支払うよう相続人に


遠縁の叔父は呼びかけていた。


まだ訴えられる前の話だ。


父は私を説得するように、兄弟から何度も言われていた。


しかし、私には支払いをしなくていいと言い、


支払わない代わりに絶縁されていた。


そして、それほど頭のおかしい私の親族が、可哀そうだと思う訳が無い。


それは、昔から知っていた。だから特別、怒りが込み上がる事も無かった。


板挟みの状態のまま一年が過ぎようとしていた。


弁護士に内輪の話を公開していない事は明白だった。


自分たちがした事は犯罪だからだ。


自分たちにとって言いやすい事しか言わないから、弁護士の頭の中で少しずつ


見えて来てはいたのだと思う。


私は一応、前後の三日間、地元ではなく市内まで出て、外泊した。


そして家に戻った。父から少ない情報だけ聞けたが、殆ど意味の無い内容だった。


父とは違い、弁護士は問いかけた。勝手に支払いもせず、事を終わらせた事や、


誰一人として、支払うべきだと言わなかった現実。


相続人で無い為、強く推せない私の心境。誰かれもが私を利用だけした現実。


私が会わない理由は見えたのだろう。


医師会に所属する弁護士であったが、私が一番の被害者だと言い、辞退した。


通常は有り得ない事ではあるが、人間味がある弁護士だったのだろうと


私は思う。しかし、それで終わるはずも無く、再び医師会の他の弁護士を


雇い、終わりなき戦いをまた始め出した。


当然、私が動かないと話は進まないと知りながら、再び走り出した。


奴らの事は全員、父母も信用に値しない人間だと私が思っていると


考えてもいなかった。


私は奴らがどう動こうとも、私は動かないと決めていた。


訴えた叔母、訴えられた叔父。


双方ともが、私が味方したほうが勝つ事は分かっていた。


ここからが本当の始まりだったが、まだ私は気づいていなかった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る