第18話 名前を呼んではいけないあのネズミ

「ねぇ、かすみちゃん?問題出してあげよっか?」


 椅子にもたれ掛かりながらほのかが聞いた。


「…いや、いいや。」


 かすみは、ほのかの方を見もしないで言った。


「わかった。じゃあ、問題です!」


「いや、要らないって言ったじゃん。」


「ネズミが4匹で食べるシチューはな~んだ?」


 ほのかはニヤニヤしながらかすみの方を見た。


「ほのか。答え言っちゃってるから。ネズミが4匹で食べる食べ物は?よ。」


 かすみは呆れ顔でほのかを見ながら言った。


「あ!そっかー!シチューって言ったらダメなのか~!なるほどね!じゃあ改めていくよ!問題です!」


「…。」


 ほのかは元気に言った。


「ミッキーが4匹で食べる食べ物はな~んだ?」


 ほのかはまたしてもニヤニヤしながらかすみを見て言った。


 それを聞いたかすみは険しい顔になってほのかに言った。


「なんでミッキーにしたの?ネズミでしょ?」


「私なりに応用を効かせてみたんだよ!ミッキーもネズミでしょ?」


 ほのかは得意げにそう言ってかすみを見た。


 しかし、かすみは険しい顔のままほのかに言った。


「いや、ミッキーはチューって言わないでしょ?それだと問題が成り立たないわよ。それに…」


「それに?」


 かすみは目を閉じてしばらく沈黙した後、ゆっくりと目を開いて言った。


「覚悟はできているの?」


「覚悟?」


 かすみの予想外な言葉にほのかは戸惑った。


「覚悟って何の覚悟?」


「その名を口にする…覚悟よ。」


「ああ!ミッキー…」


「しーっ。」


 かすみは人差し指を鼻にあてて言った。


「安易にその名を口にしないことよ。そうでないといつか痛い目を見る。」


「大袈裟だな~!かすみちゃん!名前読んじゃいけないって、ヴォルデモートじゃないんだからさ~!」


 ほのかは笑いながら言った。


「似たようなもんでしょーよ。いや、っていうかヴォルデモートは全然名前出してもいいわよ、こっちの世界では。でも、ミッキ…彼の名前はダメよ。」


 かすみは相変わらず深刻な顔をしながら言った。


 そんなかすみに対してほのかは聞いた。


「なんで?」


「権利よ。彼は権利について厳しい。その名を口にしようものなら争いをも辞さない。彼と戦う気があるなら名前を呼んでもいいけど…。半端な覚悟なら呼ばないことね…。」


 かすみはゆっくりと目を閉じた。


 ほのかはかすみの言葉を聞いて「うーん」とうなりながら考えた後、かすみの方をまっすぐ向いて言った。


「大丈夫だよ!確かにミッキーは権利に厳しいかもしれないけど、私達が侵害したところで何にもならないもん!」


 ほのかは満面の笑みで言った。


「私がミッキーならいちいち私達みたいな小物相手にしないし!」


「…まぁ、確かに。悲しいかな…ね。」


 かすみはゆっくりと頷いた。


 キーンコーンカーンコーン。チャイムが鳴って休憩時間が終わった。




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